幾度目かの休憩時、サリブが魔王に近寄ってきた。
「あの……陛下……よろしいですか?」
「うん、こっち座れよ」
魔王は自分の隣を顎で示した。
サリブは一礼すると、彼の隣にちょこんと座った。
「戦術的な話……かな?」
「ッ! もうお見通しなのですか……ご晴眼、驚きました」
「いや、ちょっと引いて見れば分かるだろ。お前さんもさ」
サリブはこくりとうなずいた。
「少々、役割を調整した方がいいと思うのです、陛下」
「だろうな。まあ俺はかわんないだろうけど」
「俺も賛成だ」
黒騎士が割り込んできた。
「ハーさん!」
「俺もちょっと……自分の役立たずなのが……その……」
「つらい」
「そう」
「俺もなんだよ~。つらいよな~」
「……陛下と一緒にされては」
「ハーさんひどい。俺がいくらお荷物だからって」
「ああ、これは申し訳ない。つい……」
「まあいい。で、なんかプランあるの? お二人さん」
「というか……姉に問題があると思ってるんです」
「ウリブか?」
「はい、閣下」
「ウーちゃんがどうしたって?」
「誰ですかそれ」
「お姉ちゃんのこと。まあ気にすんな」
「はあ。で、姉はちょっと空気読めない系なので……地上と同じようなノリで戦ってるから、自分とか閣下のジャマしてるって自覚ないんですよねぇ……」
「俺は俺で、うかつな攻撃をすると迷宮ごと破壊しかねない。だからつまらないことしか出来ず……」
「それであんなボロい武器を拾ってたのか」
「そうだ」
「閣下の攻撃は加減がむずかしいですしねえ……。ああ、どうしたらいいのかなあ」
「見たところ、ハーさん魔法もイケる口だよな」
「ある程度なら」
「じゃあ、ハーさんはこの際、支援特化ね。味方の強化・回復と、敵の弱体。もう武器なんか持ってるからイライラすんだよ。今回は割り切ろう。そったらスッキリすんだろ?」
「……たしかに。アキラの言うとおり。たしかに。ああ、たしかに。俺は自分が武人だから、軸足をそこから外すなどという発想が出来なかった」
「だいたい今は退役してるんだし、俺の手伝いで来てもらってるだけなんだから、体裁なんか気にする必要ねえんだよ。……まあ、ハーさんがイヤじゃなけりゃだが」
「恐れながら私も、閣下はそれでいいと思います。閣下が一緒におられるだけで、心強いのですから」
「ふむ……」
「問題はお姉ちゃん……姉です。自分のスタイルを崩されるの、すごく嫌うんで……。だから、いっつも私が割を食うんです。今日だって」
「そんで浮かない顔してたんか、サーちゃんは」
「サーちゃんって。……まあ、そうなんです。陛下。攻撃のタイミングとか、すごく邪魔されるし、もうイライラするんです。広い場所ならお互い干渉せずに戦えるから、それほどストレスがないのですが……ここはこんなに狭いから」
「ボトルネックはお姉ちゃんか……。ここはハーさんの出番だぜ」
「言って聞くような娘とも思えんが……、やってみよう」
黒騎士は自信なさげにうなずいた。
☆
数分後、黒騎士が晶たちの前に戻って来た。
「ど、どうだった?」
「……多分、ダメだと思う」
「聞いてくれなかったのか?」
「いや、聞いてはくれた。善処もすると言っていた」
「それじゃダメなのか?」
「……自覚の出来ない者に、何を言えばよいのか。その術を俺は知らない」
「やっぱり。そんなことだろうと思ってました……。だからムリなんです」
サリブは深いため息をつくと、頭を抱えた。
「どうにかならねえもんかなあ……」
晶も、黒騎士もそろって頭を抱えた。
「なにを憂鬱な顔して、三つ」
用足しから戻ってきたルパナが、お通夜三人組の輪に首を突っ込んできた。
「ああ……竜神様……もうダメですぅ……」
「ダメだ」
「ダメっぽいんよな」
首を傾げ、ゆらりと長い耳をゆらしたルパナ。
「……なるほど、あいわかった」
それだけ言うと、ルパナはからくり人形と遊んでいるウリブの所へ歩いていった。
「大丈夫かな……」
「どうだろう」
「もしかしたら竜神様なら……」
三人は固唾を呑んで薬師を見守った。