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第34話 地下六階(4)双子騎士の姉問題

 幾度目かの休憩時、サリブが魔王に近寄ってきた。


「あの……陛下……よろしいですか?」

「うん、こっち座れよ」


 魔王は自分の隣を顎で示した。

 サリブは一礼すると、彼の隣にちょこんと座った。


「戦術的な話……かな?」

「ッ! もうお見通しなのですか……ご晴眼、驚きました」

「いや、ちょっと引いて見れば分かるだろ。お前さんもさ」


 サリブはこくりとうなずいた。


「少々、役割を調整した方がいいと思うのです、陛下」

「だろうな。まあ俺はかわんないだろうけど」

「俺も賛成だ」

 黒騎士が割り込んできた。

「ハーさん!」

「俺もちょっと……自分の役立たずなのが……その……」

「つらい」

「そう」

「俺もなんだよ~。つらいよな~」

「……陛下と一緒にされては」

「ハーさんひどい。俺がいくらお荷物だからって」

「ああ、これは申し訳ない。つい……」

「まあいい。で、なんかプランあるの? お二人さん」

「というか……姉に問題があると思ってるんです」

「ウリブか?」

「はい、閣下」

「ウーちゃんがどうしたって?」

「誰ですかそれ」

「お姉ちゃんのこと。まあ気にすんな」

「はあ。で、姉はちょっと空気読めない系なので……地上と同じようなノリで戦ってるから、自分とか閣下のジャマしてるって自覚ないんですよねぇ……」

「俺は俺で、うかつな攻撃をすると迷宮ごと破壊しかねない。だからつまらないことしか出来ず……」

「それであんなボロい武器を拾ってたのか」

「そうだ」

「閣下の攻撃は加減がむずかしいですしねえ……。ああ、どうしたらいいのかなあ」

「見たところ、ハーさん魔法もイケる口だよな」

「ある程度なら」

「じゃあ、ハーさんはこの際、支援特化ね。味方の強化・回復と、敵の弱体。もう武器なんか持ってるからイライラすんだよ。今回は割り切ろう。そったらスッキリすんだろ?」

「……たしかに。アキラの言うとおり。たしかに。ああ、たしかに。俺は自分が武人だから、軸足をそこから外すなどという発想が出来なかった」

「だいたい今は退役してるんだし、俺の手伝いで来てもらってるだけなんだから、体裁なんか気にする必要ねえんだよ。……まあ、ハーさんがイヤじゃなけりゃだが」

「恐れながら私も、閣下はそれでいいと思います。閣下が一緒におられるだけで、心強いのですから」

「ふむ……」

「問題はお姉ちゃん……姉です。自分のスタイルを崩されるの、すごく嫌うんで……。だから、いっつも私が割を食うんです。今日だって」

「そんで浮かない顔してたんか、サーちゃんは」

「サーちゃんって。……まあ、そうなんです。陛下。攻撃のタイミングとか、すごく邪魔されるし、もうイライラするんです。広い場所ならお互い干渉せずに戦えるから、それほどストレスがないのですが……ここはこんなに狭いから」

「ボトルネックはお姉ちゃんか……。ここはハーさんの出番だぜ」

「言って聞くような娘とも思えんが……、やってみよう」


 黒騎士は自信なさげにうなずいた。


                  ☆


 数分後、黒騎士が晶たちの前に戻って来た。

「ど、どうだった?」

「……多分、ダメだと思う」

「聞いてくれなかったのか?」

「いや、聞いてはくれた。善処もすると言っていた」

「それじゃダメなのか?」

「……自覚の出来ない者に、何を言えばよいのか。その術を俺は知らない」

「やっぱり。そんなことだろうと思ってました……。だからムリなんです」

 サリブは深いため息をつくと、頭を抱えた。

「どうにかならねえもんかなあ……」

 晶も、黒騎士もそろって頭を抱えた。


「なにを憂鬱な顔して、三つ」

 用足しから戻ってきたルパナが、お通夜三人組の輪に首を突っ込んできた。

「ああ……竜神様……もうダメですぅ……」

「ダメだ」

「ダメっぽいんよな」

 首を傾げ、ゆらりと長い耳をゆらしたルパナ。

「……なるほど、あいわかった」

 それだけ言うと、ルパナはからくり人形と遊んでいるウリブの所へ歩いていった。

「大丈夫かな……」

「どうだろう」

「もしかしたら竜神様なら……」


 三人は固唾を呑んで薬師を見守った。


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