「でええええいやああああっ!!」
ドラゴルフの双子騎士、姉のウリブが敵に大技を繰り出した。
防御力が高く、魔王の魔法はかすり傷すら与えられず、魔導兵器も効きづらい、魔法にも物理にも強い、たちの悪い相手だ。
となれば、あとは力押ししかないのだが。
――済まない、俺が足手まといなばかりにお前達二人に負担をかけて。
黒騎士・ハーティノスは歯がゆい思いをしていた。
彼の力を持ってすれば粉みじんに出来る程度の相手だが、ここはダンジョン。うかつなことをすれば全員が生き埋めになってしまう。
魔王軍四天王の頂点と吟遊詩人に謳われた男、ハーティノスは一騎当千、魔導人形など使わずとも、街の一つや二つ、一人で殲滅出来る戦略級の火力を持つ男だ。
そんなバカ力の男を窮屈なダンジョンに送り込んだモギナスの人選は、果たして正しかったのか。それとも別の意図があったのか。
それは宰相当人のみぞ知ることである。
――かなり弱めの武器を持ってきたつもりだったのだが……。選択を誤ってしまったのだろうか。
「やりましたね、姉様。さすがです」
額の汗をぬぐいながらサリブが姉を讃えた。
「だけど、戦利品ががらくただらけでテンション上がらないぞ」
敵の落したがらくたを蹴り飛ばしすウリブ。
「この階のお宝は、武器や防具などの装備品が多いようですね、師匠」
「さすがにどれも年代モノじゃのう。悪い品ではないが、ここにいる皆さんには無用のゴミ。勿体無い勿体無い」
「名人、売ったら高そうなのとかないの?」
「ないこともないですが、かさや目方に対しては、高いとは言えませんなあ、陛下」
「ふにゃ~勿体無い勿体無い。もったいないオバケが出るぞ」
「これらは、ダンジョンの中で志半ばにして倒れた冒険者たちの遺品、なのだろう」
黒騎士が神妙な顔で足下の武器、鎧を見下ろしていたが、その中から一本の剣を拾い上げた。
「ハーさんハーさん、それずいぶんボロっちいじゃんよ。すぐ壊れちゃいそうだけど、もらっとくの?」
「今の私には、こちらの方が相応しい。見知らぬ武人の遺志、行きずりの俺が継ぐのもよかろう……」
「ハーさんがいいって言うなら俺止めないけどさ」
晶は黒騎士の肩をぽんぽんと叩いた。
☆
「サリブ、どうしたの?」
ダンジョン内を後ろからついてくる妹に声をかけた。
さっきまで並んで歩いていたのに、いつのまにか遅れていたからだ。
「なんでもないよ、姉様」
「うそおっしゃい。この程度の仕事で疲れるとか、たるんでる証拠。竜神様にも失礼だよ。しっかりしなさい」
「ごめんなさい……姉様」
サリブはしょんぼりしてしまった。
仮にも彼等は武人。黒騎士が太鼓判を押す少女だ。ロインのようなお嬢様とは鍛え方が違う上、人間や魔族よりも屈強な竜人と、魔力に長けたエルフの混血である。なにか姉には口にしずらい事情でもあるのだろうか。
最後尾から彼等を見ていた魔王・晶はふと心配になった。
――この姉妹、何かある。
それともう一つ。気になるといえば、黒騎士だ。
始めは魔法を使うのに必死だったせいで気付かなかったが、彼は、前衛は主に双子に任せ、自分は彼等のフォローをしている。
回復魔法や、補助魔法など。
攻撃をしようとする時もあるが、手の出し時を図りかねて気付けば戦闘が終わっていることも多い。
黒騎士の戦歴からすれば、活躍しているとは言いがたい。これは一体……?
「気付いたのか、アキラ」
薬師が小声で話しかけてきた。
晶は小さくうなずいた。
「何か俺に出来ることはないのか……」
「彼等は寄せ集め。最初はうまく嵌まらずぎくしゃくする。黙って見てればいい」
「うん……そうだな。俺ももうちょっと腰を落ち着けて物事見ないとだな」
ルパナはくすくす笑った。
「何がおかしいのさ」
「すっかりこちらの住人だな。未練はないのか」
「……ねえっちゃウソになんけどよ。でも、訓練すれば俺だって、いつかは帰れる。あいつみたいに。……だから、あんまり悲観もしてねんだよ」
「く、訓練ッ!?」
ルパナがギっと晶を凝視した。
「ど、どうしたのさ」
「……は、はやく、出来るようになれ」
「なんだよ急に。あんな大技、すぐ出来るよーになんかなんねーよ」
「でも、できるだけ早く」
「だから何で」
ルパナはローブの袖を噛んで、上目遣いに言った。
「ビルカに会いたい」
「あー……。そういう。なるほど。理解した」
「ホントか!?」
「ああ、だがすぐにはムリ。チョーかかる。多分。つか、竜神なのに自力で行かれないのかよ」
「……ムリ。そういう魔法使えない……」
「だよな。つまんねえこと聞いて悪かった。行けたら行ってるもんな」
「……早く覚えろ」
「あいよ」晶は薬師の頭をごしゃごしゃとなでた。「善処するよ」