目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第31話 地下六階(1)魔王とピンクのアレ

「はあ……はあ……。きちぃな」


 魔王は肩で息をしていた。

 手首のスナップを効かせて、今しがた手の甲で拭った額の汗を振り払う。


 地下一階から六階まで強行突破してきた魔王一行。

 前回の突入後も、足手まといにならぬようにとキャンプで自主練をしていた魔王・晶だったが、今回の彼は何故かヌーカー。後衛から魔法で攻撃するのが仕事だ。

 というのも今回参加した、火力マシマシ物理前衛&魔導兵器メンのおかげで、武器もろくすっぽ使えない魔王は100%お荷物だったのだ。


 ――というわけで、今回の突入では、魔王はがっつり魔法の経験値を稼ぐ方向で、皆の後ろからショボい攻撃魔法を撃って撃って撃ち続けて、現在ヘロヘロになっているのだ。


「だーいじょうぶ~? 魔王様ぁ~。魔力無限じゃなかったの?」

「魔力はあっても気力がゴリゴリ削られんのよ。つれぇ……」

「気力かぁ。それだと魔力を回復するポーションも使えないしねえ~」

「つれぇ……きちぃ……」

『ラミハちゃんは大丈夫ニャの? 結構キツそうに見えるニャン』

「へーきへーき」

「そっかぁ? お前も結構キツそうだぞ。ほれ、甘いもんやるよ」


 魔王は腰のポーチからキャンディを取り出してラミハに勧めた。


「ありがと~魔王様~」

「俺も一つ」


 晶もキャンディを口に放り込んだ。


「アキラ、少し休むか?」

 黒騎士が訊ねた。


「ああ、出来ればそうしてくれると助かる。もう、ちょっと……ヤバめ」

 晶は大きな杖にしがみつき、うなだれた。


 この杖、城の宝物庫から届けられた逸品で、魔力を増大するのではなく、魔法を高度に制御することの出来る道具だ。

 通常は精密爆撃や、建築、外科手術など繊細な術式が求められる場面で使用されるのだが、今は魔法オンチの魔王が、ちゃんと前に魔法を飛ばせるようにお手伝いする、ひどくもったいない使い方をされているのだった。


「よし、手前の部屋で休憩しよう」

 実質今回のPTリーダーを務める黒騎士が、皆に声をかけた。

「ふう、たすかった~~」

「陛下随分とお疲れの様子じゃな。美味い茶でも淹れて差し上げますぞ」

「ありがとう、名人」


 キャンプ場所の周囲にルパナが結界を張ると、ヒウチとラミハがお茶の用意を始めた。携帯用コンロの魔導具とか、ワンタッチで広がるテーブルなど、こちらの世界もそれなりに、至れり尽くせりである。


 ルパナの膝枕で魔王がぐったりしていると、隅の方から自分の悪口が聞こえてきた。


「陛下って魔王のくせに魔法しょぼすぎじゃない?」

「ハーティノス様は、先の大戦で力を使いすぎて、リハビリ中だって言ってたけど……」

「「なーんかウソくさいよねー」」


「おーいおめーら聞こえてんぞコラ」


「「ごめんなさーい」」


「ったく、言いたい放題だなクソッタレ」

「アキラ、だいじょうぶ。すぐ平気になる。まだうまく使えないだけ」

「うん……」

 ルパナは膝枕中の魔王の頭を撫で付けた。

「疲れ、ひどいね。これ食べると治る」

 彼女は懐から、例のピンクのアレを取り出した。

「それか……頂くよ」


 いまだにアヤシイ例のブツを口に入れるのは抵抗がある。

 でも今は手段を選んでいる場合ではない。

 晶はよっこらしょと、だるさの残る体を起こして、もそもそとピンクのアレを食べ始めた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?