「はあ……はあ……。きちぃな」
魔王は肩で息をしていた。
手首のスナップを効かせて、今しがた手の甲で拭った額の汗を振り払う。
地下一階から六階まで強行突破してきた魔王一行。
前回の突入後も、足手まといにならぬようにとキャンプで自主練をしていた魔王・晶だったが、今回の彼は何故かヌーカー。後衛から魔法で攻撃するのが仕事だ。
というのも今回参加した、火力マシマシ物理前衛&魔導兵器メンのおかげで、武器もろくすっぽ使えない魔王は100%お荷物だったのだ。
――というわけで、今回の突入では、魔王はがっつり魔法の経験値を稼ぐ方向で、皆の後ろからショボい攻撃魔法を撃って撃って撃ち続けて、現在ヘロヘロになっているのだ。
「だーいじょうぶ~? 魔王様ぁ~。魔力無限じゃなかったの?」
「魔力はあっても気力がゴリゴリ削られんのよ。つれぇ……」
「気力かぁ。それだと魔力を回復するポーションも使えないしねえ~」
「つれぇ……きちぃ……」
『ラミハちゃんは大丈夫ニャの? 結構キツそうに見えるニャン』
「へーきへーき」
「そっかぁ? お前も結構キツそうだぞ。ほれ、甘いもんやるよ」
魔王は腰のポーチからキャンディを取り出してラミハに勧めた。
「ありがと~魔王様~」
「俺も一つ」
晶もキャンディを口に放り込んだ。
「アキラ、少し休むか?」
黒騎士が訊ねた。
「ああ、出来ればそうしてくれると助かる。もう、ちょっと……ヤバめ」
晶は大きな杖にしがみつき、うなだれた。
この杖、城の宝物庫から届けられた逸品で、魔力を増大するのではなく、魔法を高度に制御することの出来る道具だ。
通常は精密爆撃や、建築、外科手術など繊細な術式が求められる場面で使用されるのだが、今は魔法オンチの魔王が、ちゃんと前に魔法を飛ばせるようにお手伝いする、ひどくもったいない使い方をされているのだった。
「よし、手前の部屋で休憩しよう」
実質今回のPTリーダーを務める黒騎士が、皆に声をかけた。
「ふう、たすかった~~」
「陛下随分とお疲れの様子じゃな。美味い茶でも淹れて差し上げますぞ」
「ありがとう、名人」
キャンプ場所の周囲にルパナが結界を張ると、ヒウチとラミハがお茶の用意を始めた。携帯用コンロの魔導具とか、ワンタッチで広がるテーブルなど、こちらの世界もそれなりに、至れり尽くせりである。
ルパナの膝枕で魔王がぐったりしていると、隅の方から自分の悪口が聞こえてきた。
「陛下って魔王のくせに魔法しょぼすぎじゃない?」
「ハーティノス様は、先の大戦で力を使いすぎて、リハビリ中だって言ってたけど……」
「「なーんかウソくさいよねー」」
「おーいおめーら聞こえてんぞコラ」
「「ごめんなさーい」」
「ったく、言いたい放題だなクソッタレ」
「アキラ、だいじょうぶ。すぐ平気になる。まだうまく使えないだけ」
「うん……」
ルパナは膝枕中の魔王の頭を撫で付けた。
「疲れ、ひどいね。これ食べると治る」
彼女は懐から、例のピンクのアレを取り出した。
「それか……頂くよ」
いまだにアヤシイ例のブツを口に入れるのは抵抗がある。
でも今は手段を選んでいる場合ではない。
晶はよっこらしょと、だるさの残る体を起こして、もそもそとピンクのアレを食べ始めた。