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第30話 地上一階キャンプ(4)侍女から弟子へ

「師匠、ぼちぼち行くみたいですよ」


 機材のチェックをしているヒウチを呼びに来たラミハ。

 自身も、装備を着けたり荷物を背負ったりしている。


「ああ、もう少しじゃ」

『ねえねえ、僕のリュートは? そろそろ持っていきたいんニャけど……』

「すまんすまん、いま道具入れから出してやるぞ」


 ヒウチはこまごまとした道具の入った木箱から、ミニチュアサイズの弦楽器を取り出し、ミミに渡してやった。


『ありがとうニャン』

「お前を失って、ずっと弾くものもなかった。取っておいて本当に良かった」

『まさか自分が誘拐されるニャんて、夢にも思わなかったニャン。そのせいで、父の死に目にも遭えなかった……。とても残念だったニャン。でも、ヒウチたちに見つけてもらえて助かったニャン』


 先代とダンジョンに行った際、ミミはモンスターに連れ去られてしまったのだ。

「お手柄なのは、熊とカエルだけどね」

 ラミハは、簡易かまどで墨の片付けをしている、からくり人形たちをちらと見た。

「あの子たち、あんがい熱にも強いのね~」

「汚れるからやめろと言ったんじゃが。あとで掃除をしてやるのはわしなんじゃぞ」

『なにかお役に立ちたいんだニャン。やらせてあげてニャン』

「そうねえ」

『僕らからくり人形は、お役目を持って生まれるニャン。だけど、そのお役目が果たせないと、僕らはしょんぼりしちゃうんだニャン。せめて、別のことでもお役に立ちたいと思う、それが僕らなんだニャン』

「そっか……。なんとなく、気持ち分かるよ」


 ロインの役に立ちたい。そう願って、今まで生きてきた。

 だけど今の自分は用済み。

 そんな自分に、熊たちをつい重ねてしまう。


 魔王やドラスの力添えもあって、正式に侍女を辞めてヒウチの弟子になったが、まだまだ実感が湧かない。

 師匠のそばを心の置き所にしてよいものか、迷ってしまう。

 ドラスのそばなど、なおさら困ってしまう。

 誰かに求められることに慣れていないが故、彼とどう付き合えばいいのかいまだに分からない。

 本当なら魔王に同行せず、療養しているドラスの世話をするべきだったのかもしれない。だけど、触れられるほど近くにいれば、彼だって……。

 ――それを、悪いこととは思わないけれど、心の準備がまったく出来ていない。

 彼のことだからきっと全てお見通しだったのだろう。

 だから、何もかも、身元引き受けも全て請け負ったうえで、自分を快く送り出してくれた。

 だったら、彼に報いるにはただひとつ。

 ――成果を上げて帰ること。


『ラミちゃん、どうしたのかニャ』

「……え?」

『ニャにか、急にスッキリしたぽい顔してるニャ』

「うん。ちょっと。腑に落ちたっていうか。そういうの」

『そっか。よかったニャン』


 ミミは、リュートをポロンと弾いた。


「これからもよろしくね、先代最高傑作のミミちゃん」


 ラミハはミミのちいさな額を指先で撫でた。

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