「そこの細工師の少女、なぜ人間がここにいる?」
ウリブがラミハを指差し、強い口調で詰問した。
「な、なによ。後から来て偉そうに。人間で悪いかよ」
「おおう……。確かにこれは、粗野な人間の振るまいだな、サリブよ」
「そうですね、姉さん」
双子は口元を隠し、狐のように目を細めた。
「お前ら、彼女への無礼はゆるさん!」
ゴン!!
黒騎士が二人同時に、脳天にゲンコツを喰らわせた。
「ギャッ!」
「あうっ!」
「彼女は、俺の嫁の親友の侍女だ。ちなみに、俺の嫁も、魔王陛下の奥様も、人間だ。この場で人間を侮辱することは、俺や陛下……じゃなくてアキラを愚弄することと思え。二度とするんじゃない。よいな!」
「「申し訳ございません~~~~~~(泣)」」
「ラミハ殿、私の部下が大変失礼な事を申した事、このハーティノス、心よりお詫び申し上げる」
黒騎士はラミハの前にひざまずき、頭を下げた。
双子が二人でこそこそと言い合っている。
「う~~、なんかそういうハーティノス様、なんかヤダ……」
「ヤダね……。もしかして、退役して人と交わって堕落した?」
「ああやっぱ、なんかアレなものが移っちゃったんじゃ」
「となると、魔王様まで……? あわわ、それは……それは……」
「もしかして、魔王国の危機?」
こっそり近づいた魔王が、二人の長い耳を引っぱり上げた。
「「ぎゃあああ!」」
「全部聞こえてんぞ、おめーら。そんなに不愉快なら帰れよ」
「いえそのようなことは……任務に私情など……」
「私もそのようなことは……」
「おめーら挟みまくりじゃねーかボケ。だいたい、そんなにドラゴルフとかいうのがエライのかよ。俺様が一番エライんじゃねえのかよ。ああん?」
魔王はものすごく邪悪な目で双子にガンを飛ばした。
「「お許しを~~~~~!」」
涙目で命乞いをするウリブとサリブ。
「言ったそばからお前らは!! 陛下にお詫びしろ!!」
ゴン!! ゴン!!
黒騎士は双子の脳天に二発のゲンコツを喰らわせ、二人を土下座させた。
「「申し訳……ございません」」
「やれやれ。こいつら大丈夫なのか? ハーさんよ」
「腕はたつのだが……なにせドラコニアンとエルフの血筋故、とんでもなくムダに気位が高いが仲間からはハンパ者と蔑まれ……。
まあ、とにかく扱いにくいのだ。先の大戦でも、こいつらを従えることの出来たのは俺だけで。それでも……まあ、いろいろと」
黒騎士が苦虫を噛み潰したような、渋い渋い顔をした。
魔王は少し思案して、ゆっくり話しはじめた。
「とにかくお前らが、自分らより低いヒエラルキーの存在をバカにして、精神の安寧を保っていることだけは分かった。
だが、己の腕と功績、そしてハーティノスの部下であったことを誇りに思うなら、下を作って踏み付けるような、自分を穢すようなことは金輪際やめろ。分かったか」
双子は核心を突かれたのか、拳を握りしめ、牙を剥き出しながら歯を食いしばり、悔しさを隠そうともせずに魔王をにらみ返した。
「よし。それでいい。お前らが見るのは俺だ。下じゃあない。生まれ持った才能と、お前等の得た技術、俺のために使え。そして栄誉と誇りを積み上げろ。高く高く積み上げて、下など見えぬぐらいにだ。お前等なら、出来るのだろう?」
ウリブは不敵な笑みを浮かべた。
「もちろんでございます、陛下」
サリブは真顔に戻った。
「人と交わり腑抜けたなどと無礼を申し上げたこと、お許し下さい」
「我等、陛下のため、この身を捧げる覚悟、古より違えたことはございません」
「存分にお使い頂き、武勲を上げさせて頂きたく存じます」
「「御身のために!!」」
魔王は腕組みをし、満足げに二人を見下ろした。