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第27話 地上一階キャンプ(1)魔王の出直し

 あれから一週間。

 幾人かのメンバーが離脱した。

 身重のマイセン、負傷したドラス、そしてお荷物のロイン。 


 ヒウチとラミハは装備を一新して、再突入PTに加わることとなり、一旦工房に戻った。工房から帰ってきた彼等は、戦争でも始めるんじゃないかと思えるほど、凶悪な武装を山ほど背負っていた。もちろん全て魔導具だ。

 ある意味彼等は、近代兵器で戦う地球の兵士に近い、と晶は感じた。


「遅いなあ。もう補充の人が来てもいい頃合いなんだが……」

「ですよねえ、魔王様」

「わしはもうお茶はいいぞ、ラミハ殿。腹の中がタプタプじゃわい」

「ほんじゃ俺、ちょっと向こうを見に行ってくるよ」


 魔王たちは、遺跡前のキャンプで補充メンバーの到着を待っていた。

 朝一という話だったので、早めに朝食を済ませて一服している最中だ。

 しかし、かれこれお茶を三杯飲み干すも現れず、あまりに遅いのでゲートに首を突っ込んでみようと晶が立ち上がった時、彼等が現れた。


「お待たせして申し訳ない」

 ゲートから最初に現れたのは、黒騎士・ハーティノスだった。


「おわ!! ハーさん!! もう新婚旅行から帰ってきたのか!」

「お久しぶりです、陛下。この度のご厚情、心より御礼をもうし――」

「ああ、長いからいいです。もうさんざん礼は言われたよ。そんで、後ろの人は?」


 黒騎士に続いてゲートから出て来たのは、甲冑に身を固めた人外の少女が二人。

 しっぽは竜のように見えるが、顔立ちや耳はエルフのようにも見える。

 三人は魔王の前にかしずいた。


「この者達は、かつての私の部下で、竜人とエルフのハーフ、ドラゴルフの双子の姉妹、ウリブとサリブにございます、陛下」

「黒騎士卿の紹介に預かりました、ウリブにございます。こうして御前に拝謁するのは初めてでございますが、戦場に赴く折りに遠くより御身を拝見し――」


 やっぱり長くなりそうなので、晶は黒騎士にアイコンタクトを取る。

 黒騎士がウリブに耳打ちすると、彼女は深々と礼をした。


「ハーさんには何度も言ってるけど、お二人さんにも注意しとく。俺はダラダラ長いのも、格式ばってるのもキライなんだ。近所のお兄さんみたいな気持ちで参加してもらいたい。いいな?」


 困惑した双子が黒騎士を見上げる。

 黒騎士は苦笑しながら肩をすくめるだけだった。


「いやあ、それにしても、ハーさんが来てくれるなんて、百人力だぜえ」


「いえ、とんでもございません。私やこの者達は狭いダンジョンでの戦闘に不慣れでございます。そもそも、ダンジョンに特化した者など、盗賊を除いて王都にはおりませぬ故、増員の人選にモギナス卿も苦心されておりました」


「ん~……。よく見ると、普段のデカい剣じゃなくて、メイスや普通サイズの剣とか……、一応選んで持ってきたようだな」

「補充も補修も効きませぬ故、折れても惜しくないものを多数持って参りました」

「補修ならワシがおるぞ」

「いえ、名人のお手を患わせることはございません。今回は名人も捜索隊の一員、余計な仕事をして頂くわけには」

「そうかそうか」

 ヒウチは若干つまらなさそうな顔をした。

「あ、そうだ。ハーさんよ、奥方は元気かい? 今回は留守番かな」


「はい、陛下。妻も御前に連れて参り、ご恩に報いるところ、モギナス卿より賜ったバウンティハンター協会の仕事を滞らせるわけにも参りませぬ故、ローテは置いて参りました。どうぞお許し下さい」


「あーもーいちいち謝るの禁止な~。いいかい? ハーさんよ。お前さんは、俺の嫁の親友のダンナ。親戚みたいなもんなんだよ。公の場ならともかく、内々の場でそういうのやめようや。マジで」


「勿体無い御言葉、この……」


 黒騎士は言葉を途中で飲み込み、ちらと魔王を伺った。

 魔王は黙って苦笑いをしながら黒騎士の次の言葉を待った。


「わかった、アキラ。よ、よろしく頼む」


 黒騎士は手を差し出し、魔王に握手を求めた。

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