「荷物持とうか?」
「結構です、お嬢様」
「私もう少し持てますよ、先輩」
「結構です。貴女はお嬢様のお世話でもしておいでなさい」
「まだ俺もいけますよ」
「盾が持てなくなると困りますので、ご自分のお仕事に専念なさい」
「俺が代わりに箱開けようか?」
「壊されては中身が台無しでございます、陛下」
――まったく……どちらさまもあちらさまも……
「わたくしに構わないで下さいとあれほど申し上げているではございませんか!!!!」
道中、みんなが心配して声をかけまくるせいで、マイセンがキレてしまった。
「す、すまん。悪気はないんだ……。かんべんしてくれ」
「ですが陛下……あの……本当に」
マイセンはモゾモゾしながら、ものすごく居心地の悪そうな顔をしている。
「アキラ、ちょっとちょっと」
「んだよ、ロインちゃん」
魔王は婚約者に腕を引っぱられて、皆から少々離れた場所に連れてこられた。
「私思うんだけど……」
「おう」
「マイセンって、他人に心配されるの、慣れてないんじゃないのかなあ」
「うーん。バリバリのキャリアウーマンって感じだしなあ」
「なにそのバリ……キャリとか」
「仕事一筋な女性ってこと」
「なんか……誰にも相談出来なくて困ってるような気がする……」
「確かにそうなんだが、どうも他人に弱みを見せるのを極端に嫌ってる風にも思えるし。さて、どうしたもんか。やはり国王としては見過ごせねえよなあ」
「だよね」
「さりとて、あまりストレスを与えるのも、母子共によろしくねえしなあ」
「さっさとこの階終わらせて帰るしかないよね……」
「だなあ……」
そこへ、ドラスとラミハと愉快な仲間達がやってきた。
「作戦会議っすか、陛下」
「まーそんなとこだ」
「もう帰った方がいいんじゃないかなあ……」
『『かナあー』』
「だが、気を遣われると彼女、キレちゃうだろ?」
「そこは国王命令で……」
「後で恨まれるの目に見えてんだから、イヤだよ俺。彼女怒らせると怖いの、知ってるだろ?」
「モギナス卿でも手に負えないと……」
「とにかく、さっさとこの階を回って帰ろうよ。それしかないよ」
「お嬢のおっしゃる通りですな。ここは高速で」
「だよね」
『ダヨネ』
『アア……。こんナことナラ、鍵開けカラクリでもいれバよかっタのにナ』
その場の全員の目が輝いた。
「そんなんいるのかい? 熊さんよ」
『こノダンジョンのどコカニいル、と聞いたこトがあル』
「うう~ん……。貴重な情報、ありがとう」
『きニするナ、家主』
「……とりあえず、今活躍してもらえそうにないことは分かった」
全員がため息をついた。
「みなさま! 休憩は終わりです! 次へ参りますよ!!」
向こうから、キレ気味なマイセンの声が飛んできた。
☆
フロアの半分ほどを踏破した頃、晶がぽつりと言った。
「それにしても、マジクソ部屋の多いフロアだな……。大漁なのはいいけどよう、さすがにコレ大丈夫なんかなあ……」
そう言ってちらとマイセンを見る。
壁に寄りかかり、肩で息をしている。
気丈な性格の彼女が外見でも疲労しているのが分かるということは、実際にはその数倍、数十倍は疲れていると思っていいだろう。
今の彼女の様子を相手の男が見たら、一体どんな気持ちになるだろうか。
自分ならいたたまれない。
産んでも産まなくても、どっちでもいい。
自分に鞭打つことだけは、それだけは、やめてほしい。
晶は過去を思い出して、ひどく胸が痛んだ。
ロインには言えない痛みで。