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第24話 地下五階(2)侍女Aの事情

「…………申し訳ございません。どのみち、堕ろすつもりでございます故……」


 さらりと堕胎を口にしたマイセン。

 それを聞いて魔王は血の気が引いた。


「あ、あの……個人的な問題だから、あまり口を挟むことじゃあないとは思うんだけど……、その、待遇的な問題で産めないんなら、俺、いろいろ善処するから、なあ、マイセン」


「そういう問題ではございませんし、陛下のお気を患わせるような問題でもございません。我が身は王家にお仕えするためのもの。どうぞ、お構いくださいませんよう」


 マイセンは魔王の膝から降りると、身なりを整えた。

 魔王が周囲を見回すと、全員の顔に『城に帰せ』と書いてあった。


「か、帰りません! わたくし、帰りませんからね!」

「マイセンよう、そこまでムキにならなくても……」


 魔王はお手上げポーズをした。


「どのみち、探索続行はむずかしい。城に戻り、代りの者を探すこと」


 薬師がじろりとマイセンを睨みながら言った。


「では、こういうのはどうかの」

 ヒウチが提案を始めた。

「はんぱな状態では彼女も引っ込みがつかんじゃろうから、この階層の探索が終わるまでは同行してもらう。で、難易度の低そうな宝箱は、わしがなんとかする。万一の場合には、みなさんで対処してもらう。――これでどうじゃろうか」


「現状、テコでも動きそうにないですしねえ。まあ俺に出来ることといやあ、荷物運びか、警報装置で集まった敵をタコ殴りする程度ですが、みんなでやりゃあ、しのげないこともないんじゃないですかねえ」


 ドラスがあごをぽりぽり掻きながら言った。


「お、俺、バリア張るから。トラップ発動しても大丈夫だから、な」

「先輩、ホントムリしないでください」

『『クださイ』』

「開かないやつだけお願いするから、極力戦闘もしなくていいのよ」


「……皆さん。ご心配頂き、心よりお礼を申し上げます。ですが……、全てご無用でございます。私事ですので、どうぞお構いなく。今まで通りにして頂きたく存じます」


 マイセンの表情は心なしか怒っていた。

 それを薬師は冷ややかな目で見ていた。

 薬師がすう、と息を吸い込むと、聞いたこともないような声でしゃべりはじめた。


「マイセンよ。竜神の娘としてお前に告げる」


 ぎょっとしたマイセン、ドラス、ヒウチが薬師の前にひざまづいた。


「そなたの王家への忠義、まこと立派である。だが、子殺しをするとの言、聞き捨てならぬ。――理由が王家のため、となれば」

「し、しかし……我が一族は」

「黙れ小娘。お主の一族も、王家も、そこな二人の種族も、すべて我が父が、等しく命を救うためにこの星へと連れて参った者達である。その命を一つたりともムダにすることを、父は望んでおらぬ」

「申し訳ございません……猊下」

 マイセンは両手で顔を覆って、泣きだしてしまった。

「ウサ子よう。ちょっといいか」

「申せ、ビルカの子よ」

「彼女にも、事情があるんじゃねえのかなあ……。いろいろと」

「お前は、子の父が誰か分かってものを言っておるのか?」

「そこまで分かるんか……。いや、しらんけど」

 マイセンが薬師のローブにすがった。

「そ、それだけは……お許しを」

「分かっておる。だが、子のことを話してはおらぬのだろう?」

 薬師が渋い顔で言った。

「……はい」

「もしかして……そんなに大物、なのか? マイセン」

「……それはご命令でしょうか、陛下」

「いや。……しょうがない。じゃあ、この階だけ付き合ってくれるか? その後は一旦城に戻ろう。な?」

「私も城に戻ったらお前とこの企ての首謀者に話がある。連れて参れ」

「猊下、陛下の仰せのままに」


 ――などと言いつつ、全く承服していない顔のマイセンだった。


「……ところで、お前はウサ子の何なんだ?」

「私も彼女の一部、多重人格のようなものだ。気にすることはない」

「竜神の娘……って、あんま似てないようだが?」

「この姿はただの器。私もお前と同じ、地球生まれだよ」

「……って、一万才以上かよ!」


 薬師――竜神の娘は、長い耳をゆらして、くすっと笑った。


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