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第23話 地下五階(1)侍女Aの体調

「うわあ、こんなにキレイなまま持ち帰れるなんて……。ありがとうヒウチさん」

 マイスター・ヒウチが、件の水晶とキノコを器用に瓶に詰め、保護用ジェル(的な用向きの特殊なスライム)を注入してくれて、破壊せずに持ち帰れることになった。



 しばらく前に遡る。

 魔王を置いて去って行ったオモチャたちが、数分後ロイン他を呼んで戻ってきた。

 魔王が水晶を見せるとロインは大層喜んでこう言った。

「これ持って帰ろうよ。お部屋に飾りたい!」


 ――ああ、絶対言うと思った。


「触ると壊れるから、お前をわざわざ呼んで来たんだが……」

「ええ~~~」


 ここで名人登場。

 まさか、地球で言うところのレジン詰めのようなミラクルが発生するとは、晶は一㍉も思いはしなかったのだ。


「はっはっは。ワシは細工師での。材料を持ち帰る手段ならいくつもあるんじゃよ」

「恐れ入りました、名人。城に戻ったら礼を。それと、オモチャたちにもな」

「それには及びませんて、陛下。さあ、下の階に行きましょうぞ」

『オレたチは褒美ほシイぞ』

『ダな』

「はいはい、ちゃんと用意してあげるからね」

 ロインは帽子の上の二匹を指先でナデナデした。

「みんな、いろいろごめんな。じゃあ、行くか」


                  ☆


「だいじょうぶか? マイセン」

 魔王が声をかけた。


「もちろんでございます、陛下。お気遣いありがとうございます」

 額の汗を手の甲でぬぐいながら、マイセンが応えた。


 地下五階は小部屋が多く、宝箱がひんぱんに出現していた。

 もちろん施錠・トラップつきなので、解除にはマイセンがあたっていたのだ。

 かれこれ二十は解錠しているだろう。

 手先の器用さや集中力が求められる作業だが、あいにくそのいずれも備えたヒウチには、トラップの知識がやや乏しく、かつ機敏さに欠けるため、発動してしまった際に防ぐことがむずかしい。


「すまんの、手伝えなくて……」

 申し訳なさそうにヒウチが言う。


「いいえ、名人にはここまでご同行頂けただけで、有り難く存じます」


「私もこういうの、出来るようになった方がいいのかなあ……」

『『かナあ~』』

「ラミハちゃんにそんな危ないマネさせたくないんだがねえ」

「ドラスさんにどうこう言われる筋合いないんですけどー」

『『デすけドー』』


 ドラスはやれやれ、と肩をすくめた。


「それにしても、荷物というかお宝、かなりの量になってきたわねえ~。いったん戻った方が良くないかしら……」

「いいえ、お嬢様。もう少し、お付き合い願えませんでしょうか。まだ大丈夫です」


 そう言うマイセンの顔には、はっきりと疲れの色が見えていた。


「ロインの言うとおりだよ。マイセンにばかり大変な仕事をしてもらうのは、申し訳ない。別に途中で戻ったらいけないなんてことはないだろ?」

「陛下、ご心配には及びません。私は疲れてなどおりません」

 言っているそばから、足下がフラフラしているマイセン。

「ルパナー、ちょっと診察してくれ~」

 晶がマイセンを抱き上げて薬師に近寄った。

「だ、大丈夫でございます~、降ろして下さいませ~」

 マイセンが両手で顔を覆い、しきりにいやいやをしている。

「なんでそんなに強情なんだよう。モギナスになんか言われてんのか?」

「こ、これは、わ、私の勤めにございます故……その……」

「診察するから、もっと降ろして、アキラ」

「おう」


 晶はマイセンを姫だっこしたまま、腰を落とした。

 ルパナは逃げだそうとするマイセンの頭を杖でド突くと、手首を掴んで診察を開始した。


「ふむふむ……んんん……」


 脈以外のことも分かるのか、しばらくふむふむ言ったあと、問診を始めた。

 きっと彼女は腕を掴むだけで、バイタルデータを収集することが可能なのだろう。


「こ、これは――!」

「どうかしたか、ルパナ」

「……城に戻した方がいい」

「困ります、私にはお勤めがございます」

「…………子が流れるぞ。それでもか」

「!」

「お、おめでた……か、マイセン」


 魔王の腕の中で顔を背けるマイセン。


「だから診察はイヤだと……」

「分かってて隠してたのかよ……。俺のせいで流産とかしたら、目覚め悪すぎんだろが……」

「申し訳ございません。ですが……、他に適任者がおりませんでしたので……」

「ちげーだろ。いないんじゃない。探さなかった。そうじゃねーのか?」

「…………申し訳ございません。どのみち、堕ろすつもりでございます故……」

「そ、そんな……」


 魔王は、さらりと堕胎を口にしたマイセンを見て、血の気が引いた。

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