「うわあ、こんなにキレイなまま持ち帰れるなんて……。ありがとうヒウチさん」
マイスター・ヒウチが、件の水晶とキノコを器用に瓶に詰め、保護用ジェル(的な用向きの特殊なスライム)を注入してくれて、破壊せずに持ち帰れることになった。
しばらく前に遡る。
魔王を置いて去って行ったオモチャたちが、数分後ロイン他を呼んで戻ってきた。
魔王が水晶を見せるとロインは大層喜んでこう言った。
「これ持って帰ろうよ。お部屋に飾りたい!」
――ああ、絶対言うと思った。
「触ると壊れるから、お前をわざわざ呼んで来たんだが……」
「ええ~~~」
ここで名人登場。
まさか、地球で言うところのレジン詰めのようなミラクルが発生するとは、晶は一㍉も思いはしなかったのだ。
「はっはっは。ワシは細工師での。材料を持ち帰る手段ならいくつもあるんじゃよ」
「恐れ入りました、名人。城に戻ったら礼を。それと、オモチャたちにもな」
「それには及びませんて、陛下。さあ、下の階に行きましょうぞ」
『オレたチは褒美ほシイぞ』
『ダな』
「はいはい、ちゃんと用意してあげるからね」
ロインは帽子の上の二匹を指先でナデナデした。
「みんな、いろいろごめんな。じゃあ、行くか」
☆
「だいじょうぶか? マイセン」
魔王が声をかけた。
「もちろんでございます、陛下。お気遣いありがとうございます」
額の汗を手の甲でぬぐいながら、マイセンが応えた。
地下五階は小部屋が多く、宝箱がひんぱんに出現していた。
もちろん施錠・トラップつきなので、解除にはマイセンがあたっていたのだ。
かれこれ二十は解錠しているだろう。
手先の器用さや集中力が求められる作業だが、あいにくそのいずれも備えたヒウチには、トラップの知識がやや乏しく、かつ機敏さに欠けるため、発動してしまった際に防ぐことがむずかしい。
「すまんの、手伝えなくて……」
申し訳なさそうにヒウチが言う。
「いいえ、名人にはここまでご同行頂けただけで、有り難く存じます」
「私もこういうの、出来るようになった方がいいのかなあ……」
『『かナあ~』』
「ラミハちゃんにそんな危ないマネさせたくないんだがねえ」
「ドラスさんにどうこう言われる筋合いないんですけどー」
『『デすけドー』』
ドラスはやれやれ、と肩をすくめた。
「それにしても、荷物というかお宝、かなりの量になってきたわねえ~。いったん戻った方が良くないかしら……」
「いいえ、お嬢様。もう少し、お付き合い願えませんでしょうか。まだ大丈夫です」
そう言うマイセンの顔には、はっきりと疲れの色が見えていた。
「ロインの言うとおりだよ。マイセンにばかり大変な仕事をしてもらうのは、申し訳ない。別に途中で戻ったらいけないなんてことはないだろ?」
「陛下、ご心配には及びません。私は疲れてなどおりません」
言っているそばから、足下がフラフラしているマイセン。
「ルパナー、ちょっと診察してくれ~」
晶がマイセンを抱き上げて薬師に近寄った。
「だ、大丈夫でございます~、降ろして下さいませ~」
マイセンが両手で顔を覆い、しきりにいやいやをしている。
「なんでそんなに強情なんだよう。モギナスになんか言われてんのか?」
「こ、これは、わ、私の勤めにございます故……その……」
「診察するから、もっと降ろして、アキラ」
「おう」
晶はマイセンを姫だっこしたまま、腰を落とした。
ルパナは逃げだそうとするマイセンの頭を杖でド突くと、手首を掴んで診察を開始した。
「ふむふむ……んんん……」
脈以外のことも分かるのか、しばらくふむふむ言ったあと、問診を始めた。
きっと彼女は腕を掴むだけで、バイタルデータを収集することが可能なのだろう。
「こ、これは――!」
「どうかしたか、ルパナ」
「……城に戻した方がいい」
「困ります、私にはお勤めがございます」
「…………子が流れるぞ。それでもか」
「!」
「お、おめでた……か、マイセン」
魔王の腕の中で顔を背けるマイセン。
「だから診察はイヤだと……」
「分かってて隠してたのかよ……。俺のせいで流産とかしたら、目覚め悪すぎんだろが……」
「申し訳ございません。ですが……、他に適任者がおりませんでしたので……」
「ちげーだろ。いないんじゃない。探さなかった。そうじゃねーのか?」
「…………申し訳ございません。どのみち、堕ろすつもりでございます故……」
「そ、そんな……」
魔王は、さらりと堕胎を口にしたマイセンを見て、血の気が引いた。