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第15話 地下四階(1)魔王、そろそろ帰りたい

 マイセンのしごきで魔王がくたびれてきたので、そろそろ下の階層に移動することになった魔王一行。

 地下三階とはうって変わって、部屋らしいものが見当たらない。


「なんかここ、まっすぐな道ばっかだね~」

 変化に乏しいとすぐ飽きる、女騎士・ロイン。

「通路の外側に別の区画があるのですよ、お嬢様」

 マップを見ながらマイセンが言った。

「そうなんだ。そっちの方がいいなあ」

「現状では、あまりお勧め出来ませんし、宝探しの目的からも外れてしまいます」

「ふうん……」

「どうしてお勧め出来ないんです? マイセンさん」

 ドラスが訊いた。

「ひとことで言えば、危険地帯だからですね」

「はあ、危険地帯ねえ」

「あっちはなあ、モンスターの巣じゃよ。地下深くまで一直線に降りるエレベーターに乗るなら行く必要があるがのう」

「なるほど」

「ところでさあ、まだ金目の物って出て来ないのか?」

 ぐったりしながら最後尾をだらだらついてくる魔王がぼやいた。

「ぼちぼちって感じですねえ、陛下」

 第二荷物係のドラスが振り返って言った。

「う~、おいらそろそろ帰りたい~」

「魔王様がさ~、弱音吐いたらだめでしょ~」

『『ダメデショ~』』

 ラミハと愉快な仲間たちが魔王をたしなめた。

「そこハモんなよ。だいたい、こないだまで引きこもってた、運動不足でシロートのおっさんなんだから、ダンジョン探索なんてクソ疲れるんだよ~」

「私もちょっとヤバい……」

「魔王様もお嬢様もたるみすぎですー」

『『デスー』』

「ううう……」

「しかし、陛下の疲労が想像以上に激しいのも、また確かでございますよ」

「ほらー、マイセン教官も言ってるじゃんか」

「たるんでいないとは申し上げておりません、念のため」

「キビシー(泣)」

「しっかし……廊下長いなあ」

「心配しなくても、そのうちどっかつくだろ。っていうか少し荷物持ってくれよ、ロインちゃん。俺もうつらい~」

「はあ? か弱い乙女に荷物を持てですって? 何言ってんのかしらこのうすらトンカチは。頭おかしいんじゃないの?」

「金策なんだから荷物が増えるのあたりめーだろ? それにお前の結婚資金のためでもあんだからな」

「お前の? いま、お前の、って言った? ふざけんじゃないわよ、このクソ魔王! 私達の結婚資金でしょ? わ た し た ち の!!!! アホなこと言ってると殺すわよ」

「やっぱ帰りたい……(泣)」


                  ☆


「ああ~~、帰りたい~~~~~~」


 一時間後、そうぼやくのはロインだった。


「わたしも……」

「俺も……」


 ラミハやドラスも疲労の色が濃い。


「ほれみろ。もう帰ろうZEー。入り口も見つからないし」

「……今まで入り口を探していたのか? 陛下は」

 この階層に来てから、ずっと無言だったルパナが口を開いた。

「お、おう。そうだけど……。って気付かなかったんか?」

「聞いてなかった」

「おま、どんだけ他人に興味ねえんだよ。って、今に始まったことじゃねえか。

 とにかく下の階に行きたいんで、階段のある場所を探してるんだ。

 地図も古くて汚れててよくわかんねえし。どっかに入り口はないか?」

「……ちょっと待って」


 ルパナは杖を頭上に掲げると、ぶつぶつと呪文を唱えた。

 杖に仕込まれた宝石がぼうっと輝き、明滅をはじめた。


「んー……と」

「おお」

「……………………ここ」


 そう言って彼女はくるっと向きを90度変えると、杖で壁をコツンと叩いた。

 次の瞬間、石壁がまぼろしのように消え、通路が現れた。


「なんか、どっと疲れたわ……」

「お嬢様、ファイトですよー」

『『デスヨー』』

「そのお友達、イラっとするわね」

「お友達じゃないですよ。ただの居候ですー」

『『デスー』』

「むかー(怒)」

「むかー、とか口で言ってっし。ほれ、行くぞロイン」

「はいはい」

「ラミハちゃんはまだまだ元気そうだね♥」

「そういうドラスさんもまだまだ行けそうですね(怒)」

「なんか剣があるなあ~」

「いかがわしい目で見るからです」

「いかがわしくあるもんか! 俺は! 俺は、……えっと……あうう」

「やっぱいかがわしい」

「助けてくださいよ、ロイン嬢」

「えーっと、いかがわしくなんかないヨー」

「なんですかお嬢様、その棒読み」

「べ、べつに。ただの助け船だし」

「助けになってんのかよソレ」

「アキラには関係ないから」

「なんだよもー、いいからさっさと行こうぜ。仕事終わらせてさっさと帰りてえんだから……」

 晶はふらふらと先頭のマイセンたちについて、急遽出来た横道に侵入していった。

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