マイセンのしごきで魔王がくたびれてきたので、そろそろ下の階層に移動することになった魔王一行。
地下三階とはうって変わって、部屋らしいものが見当たらない。
「なんかここ、まっすぐな道ばっかだね~」
変化に乏しいとすぐ飽きる、女騎士・ロイン。
「通路の外側に別の区画があるのですよ、お嬢様」
マップを見ながらマイセンが言った。
「そうなんだ。そっちの方がいいなあ」
「現状では、あまりお勧め出来ませんし、宝探しの目的からも外れてしまいます」
「ふうん……」
「どうしてお勧め出来ないんです? マイセンさん」
ドラスが訊いた。
「ひとことで言えば、危険地帯だからですね」
「はあ、危険地帯ねえ」
「あっちはなあ、モンスターの巣じゃよ。地下深くまで一直線に降りるエレベーターに乗るなら行く必要があるがのう」
「なるほど」
「ところでさあ、まだ金目の物って出て来ないのか?」
ぐったりしながら最後尾をだらだらついてくる魔王がぼやいた。
「ぼちぼちって感じですねえ、陛下」
第二荷物係のドラスが振り返って言った。
「う~、おいらそろそろ帰りたい~」
「魔王様がさ~、弱音吐いたらだめでしょ~」
『『ダメデショ~』』
ラミハと愉快な仲間たちが魔王をたしなめた。
「そこハモんなよ。だいたい、こないだまで引きこもってた、運動不足でシロートのおっさんなんだから、ダンジョン探索なんてクソ疲れるんだよ~」
「私もちょっとヤバい……」
「魔王様もお嬢様もたるみすぎですー」
『『デスー』』
「ううう……」
「しかし、陛下の疲労が想像以上に激しいのも、また確かでございますよ」
「ほらー、マイセン教官も言ってるじゃんか」
「たるんでいないとは申し上げておりません、念のため」
「キビシー(泣)」
「しっかし……廊下長いなあ」
「心配しなくても、そのうちどっかつくだろ。っていうか少し荷物持ってくれよ、ロインちゃん。俺もうつらい~」
「はあ? か弱い乙女に荷物を持てですって? 何言ってんのかしらこのうすらトンカチは。頭おかしいんじゃないの?」
「金策なんだから荷物が増えるのあたりめーだろ? それにお前の結婚資金のためでもあんだからな」
「お前の? いま、お前の、って言った? ふざけんじゃないわよ、このクソ魔王! 私達の結婚資金でしょ? わ た し た ち の!!!! アホなこと言ってると殺すわよ」
「やっぱ帰りたい……(泣)」
☆
「ああ~~、帰りたい~~~~~~」
一時間後、そうぼやくのはロインだった。
「わたしも……」
「俺も……」
ラミハやドラスも疲労の色が濃い。
「ほれみろ。もう帰ろうZEー。入り口も見つからないし」
「……今まで入り口を探していたのか? 陛下は」
この階層に来てから、ずっと無言だったルパナが口を開いた。
「お、おう。そうだけど……。って気付かなかったんか?」
「聞いてなかった」
「おま、どんだけ他人に興味ねえんだよ。って、今に始まったことじゃねえか。
とにかく下の階に行きたいんで、階段のある場所を探してるんだ。
地図も古くて汚れててよくわかんねえし。どっかに入り口はないか?」
「……ちょっと待って」
ルパナは杖を頭上に掲げると、ぶつぶつと呪文を唱えた。
杖に仕込まれた宝石がぼうっと輝き、明滅をはじめた。
「んー……と」
「おお」
「……………………ここ」
そう言って彼女はくるっと向きを90度変えると、杖で壁をコツンと叩いた。
次の瞬間、石壁がまぼろしのように消え、通路が現れた。
「なんか、どっと疲れたわ……」
「お嬢様、ファイトですよー」
『『デスヨー』』
「そのお友達、イラっとするわね」
「お友達じゃないですよ。ただの居候ですー」
『『デスー』』
「むかー(怒)」
「むかー、とか口で言ってっし。ほれ、行くぞロイン」
「はいはい」
「ラミハちゃんはまだまだ元気そうだね♥」
「そういうドラスさんもまだまだ行けそうですね(怒)」
「なんか剣があるなあ~」
「いかがわしい目で見るからです」
「いかがわしくあるもんか! 俺は! 俺は、……えっと……あうう」
「やっぱいかがわしい」
「助けてくださいよ、ロイン嬢」
「えーっと、いかがわしくなんかないヨー」
「なんですかお嬢様、その棒読み」
「べ、べつに。ただの助け船だし」
「助けになってんのかよソレ」
「アキラには関係ないから」
「なんだよもー、いいからさっさと行こうぜ。仕事終わらせてさっさと帰りてえんだから……」
晶はふらふらと先頭のマイセンたちについて、急遽出来た横道に侵入していった。