「おめえさん、そいつをどこで手に入れた?」
「きゃあああっ――――――!!」
驚いたラミハは悲鳴を上げた。
急に誰かがラミハに声を掛けたのだ。
中年の男の声は、すぐ近くから聞こえた。
「さわぐな、人間の娘。
何もとって食ったりせん。ただ、何故それをおめえさんが持っているのか、どこで手に入れたのか、制作者として聞きたかっただけなのだ」
木の幹の影から、背の低くてがっちりした体型の男が現れた。
男は顔中を長いひげに覆われており、それは幾本もの編み込みが施されていた。
地球で言うところの、ドワーフという種族に近い。
「……せいさくしゃ? それじゃあ、これを貴方が?」
男は腕組みをすると、うんうん、と大きくうなづいた。
「これは、魔王城の宝物庫から借りてきたものです」
「なんと……。して、何故人間のおめえさんが持っているのだ?」
「私は、魔王様のお妃……になる予定の方にお仕えしている侍女です。
この近くにある遺跡の地下迷宮に用があり、これらの道具を、宰相のモギナス様に貸し与えられたのです」
「モギナス……。えらく久しぶりに聞く名だ。
して、なぜこの森に?」
「昨日、この近くに数人でやってきたのですが、一緒に来た魔王様と主人が、今朝がた森に入ったきり戻ってこなくて……」
「探しに入ったおめえさんも、迷ってしまった。ということじゃな?」
ラミハは目にたくさんの涙をうかべて、目の前の男に力強く言った。
「はいいいっ、出られませんっ!!!!」
☆
「ただいま戻りましたぞ、陛下」
ドワーフのようなひげもじゃ男が、森の奥の庵に戻ってきた。
「きゃーっ!」
「お、お、お、おかえり~」
居間のベンチで絡み合う男女。
男を見て、二人は慌てて離れた。
「……なにやってんすか」
男の背後から、少女が顔を出した。
ムチャクソ怒っている。
「「あ………………ラミハ!」」
「あ、じゃねえです!
おまいらなにやってんの?
今日はダンジョン行くって言ったっすよね?
朝に脱走して、今もう夕方ですよ?
こっちゃマイセンさんに監督不行き届きで怒られるし、探しに来たら迷うしで、このおじさんいなかったら、私遭難してたんだから!!
ほんっとーに、おまいらマジクソいーかげんにしろですよ!!!!」
「「……ごめんなさい」」
「魔王相手にそこまで怒鳴れる娘を初めて見たぞい。長生きはするもんじゃな」
ひげもじゃ男は愛おしそうに、編み込まれたひげを撫でながら言った。
☆
ヒゲ男、名をヒウチ。種族はドワーフだという。
彼等も原初の星から来た民だから、地球の伝承にある種族と同じなのに、魔王は合点がいった。
魔王以下二名がヒウチにお茶とドライフルーツのもてなしを受けていると、誰かがドアをノックした。
「まったく、今日は客の多い日じゃの……どなたかの」
ヒウチがドアを開けると、マイセンが立っていた。
「こちらに、うちの魔王様がおじゃましておりませんでしょうか?」
ヒウチが無言で屋内を示すと、マイセンがものすごい殺気をまとった笑みで、居間を覗き込んだ。
「ああああああああああああああああああああ」
ラミハがガタガタと震えだし、ロインにしがみついた。
「あの、これにはちょっと深いそれなりの事情がいろいろあってだな」
「魔王様!」
「はいいいいいい!!!!」
「あ、遊びに行こうって言い出したの私だから、その……」
「わかってます。その上で陛下には配偶者の責任を問うているのです」
「ずびばぜんっ!!!!」
「最近の魔王城の侍女は一体どうなってるんじゃ?」
ヒウチが小首を傾げた。
☆ ☆ ☆
「ただいま~。遅くなって済まない」
「おかえりなさい、陛下、みなさん」
「おかえり」
皆がキャンプに戻ってきた頃には、すっかり日が暮れていた。
留守番をしていたドラスとルパナは、城から放り込まれた木箱の上にナプキンを敷き、兵士用の金属マグカップにお茶を淹れ、兵士用の金属皿の上には例のピンクのお菓子、というアウトドア感満載のお茶会をしていたところだった。
「おや、そちらのドワーフさんは?」
「こちら、ご近所にお住まいのヒウチさん。迷宮へ一緒に来てくれることになった」
「あまりにも彼等を見ていて不安でな。どうぞ、よろしく頼む」
ヒウチは、背嚢にくくりつけたフライパンやカップをカラカラ鳴らしながら、おじぎをした。