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第3話 地下一階(1)魔王と女騎士さんの逃避行

「それではみなさま、斥候に行ってまいります」

「行ってきます」


 翌朝、城から放り込まれた朝食を取ったあと、マイセンとドラスがダンジョンの偵察に出かけた。


 長年王家が管理をしていたが、ビルカの代になって千年ほどほったらかしになっており、過去作成された内部の地図や資料がどこまでアテになるのか見当もつかなくなっていた。

 いくら装備が最強だからとはいえ、晶、ロイン、ラミハの三名は戦闘に関してはズブの素人である。その上、完全後衛職のラパナも連れている。

 ぶっちゃけこのPT、まともに戦えるのは、マイセンとドラスの二名だけだった。


「二人が戻ってくるまで、けっこー時間かかりそじゃね?」

「わたしねる」

「お嬢様はどうなさるんです?」

「う~ん……、よし、探検しよう!」


「「たんけん?」」


「なんかチョーひさびさに城下の外に出たし~、森とか散歩したい~」


(そういえば、こいつは拉致られたんだった。って俺もか)


「そうだなあ、俺もこっちの世界で、城下町の外に出たことなかったし……」

「危ないですよ~お二人とも~」

「かたいこと言わないでよラミハ~。だいたい装備品さいきょーなんだし」

「そんなに遠くに行かなければだいじょぶじゃね?」

「も~魔王様までえ~。ちょっと、ルパナさんも止めてくださいよ」


「zzzzzz……」


「もう寝てる……あ!!」

 ラミハが一瞬目を離したスキに、魔王とロインがキャンプから脱走していた。



 ☆ ☆ ☆



「黙って出て来ちゃったけど……ラミハちゃん、クッソ怒ってねえかなあ」

「大丈夫よ。お昼ぐらいまでに戻ればいいじゃない」

「なんか森デートって開放感あって新鮮だな~」

「「ね~~~」」


 魔王と姫騎士のコスプレをしたバカップルは、イチャコラしながら森の中を無軌道に歩いていった。



 ☆ ☆ ☆



「先輩、申し訳ありません~(泣)」


 その頃、ラミハはマイセンにクッソ怒られていた。


「まったく、うかつでしたわ。

 あの二人が軟禁生活を送っていたのを失念しておりましたわ……」


「いきなり開放感溢れる森の中に放り込まれたら……、まあ、遊びに行っちゃいますわな。マイセンさんだけの責任じゃあありませんよ。俺も同罪です」


「もうお昼も過ぎてるのに、帰ってこないなんて。あんなに楽しみにしていたお弁当も置きっぱなしだし、きっとお嬢様たち、迷ってるんです~~~~~(泣)」


「おーい、薬師どの? 薬師どの? 起きてくださいよ。魔王陛下が迷子ですー」


 ドラスが、敷物の上で丸まって眠っているルパナを、何度も何度も揺すっているのだが、一向に目を覚ます気配がない。


「起きないか……」

「仕方ありません、私が城に戻って叔父上に探す方法を伺って参ります」


 マイセンはゲートをくぐって魔王城へと帰っていった。


「ったくもう。さてと、俺等は探索ルートの案でも……って、あれえ?? ラミハちゃん? おーい、ラミハちゃん? …………マジかよ」


 激しい二重遭難の予感――。

 キャンプには、現在、ドラスとルパナの二名のみ。



 ☆ ☆ ☆



「お嬢様ぁ~、魔王様ぁ~」


 キャンプを飛び出し早数時間、森が一層暗さを増しているのは、日暮れが近いからだと、まだ気付いていないラミハ。

 彼女とて、主人と同じ都会育ち。森での振る舞いなど知りようもなかった。


「あ~もう……。お嬢様どこ行っちゃったのかなあ? 疲れたよう……」


 ラミハは歩きづめで足が痛くなっていたので、手短な倒木に腰掛け、休憩することにした。


「あうう……。なんか暗くなって来ちゃった。でも、明かりも持ってるし、大丈夫だよね………………」


 誰に問うているのか。

 自分に言い聞かせているのか。

 身ひとつで踏み込んだ森の中、何ひとつ自信を持っていることなどなかった。

 唯一頼みとなるものは、――大量の魔導具たち。


「あっ、そうだ。あれ見てみよっと」


 ゴソゴソと腰のポーチから取り出したのは、昨晩ドラスと眺めた、あの小さなランタンだった。薄暗い森の中なら、何かが見えるかもしれない、そう思った。


「ロケーションもいいし、きっと何か見えるはず……」


 不安な気持ちを押し殺し、ラミハはランタンを起動させた。


 ぽうっ……っと淡く光り出す、不思議なランタン。

 昨夜と同じように、燐光を周囲に振り撒いている。


「きれいだな」

 青白い灯りに意識が吸い込まれそうになったその時――。


「おめえさん、そいつをどこで手に入れた?」


「きゃあああっ――――――!!」

 驚いたラミハは悲鳴を上げた。


 急に誰かがラミハに声を掛けたのだ。

 中年の男の声は、すぐ近くから聞こえた。

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