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第2話 魔王一行、ダンジョン入り口へ

「いててて……」


 ゲート出口から転がり出て来た魔王・晶。

 まともに顔から突っこんでしまい、地面に座り込んで鼻を押さえている。


「うひゃあ、なんなのココ。すごい。ほとんど廃墟じゃない」


 痛がる恋人はそっちのけ、見たこともない景色に気を取られ、キョロキョロと周囲を見まくっているロイン。

 カメラを持たせたら、日に1000枚は撮影しそうな勢いである。


「いや、これはまだ保存状態が良い方ですよ、お嬢様」


 剣を抜き、周囲を警戒しつつマイセンが言った。


「なんせ一万年よりも、さらに前から原初の星にあった遺跡です。実際には出来てからどのぐらい経過しているか分かりません」



 ダンジョンの入り口になっている遺跡は森に囲まれている。

 遺跡正面から森の中へと続く、道路と思しき敷石は、ところどころ割れたり剥がれたりしている。

 その道路の両側には、石柱が街灯のように等間隔で立てられており、半分ぐらいは倒れて破損しているが、一万年という時間を思えば、確かにマイセンの言うとおり、これは状態が良い方なんだ、と晶にも思えた。



「しかしなぜこの遺跡だけが、こんな場所に着地してしまったのか……。ここ千年ほどロクに管理もしていないらしいし、中がどんなことになっているかわからんな」


 ドラスがたばこをふかしながら、倒れた石柱に腰掛けて誰に言うでもなく呟いた。


「ところでルパナちゃんよ、ゲートって通り抜けると時間がすごい経過するってことあるのかな」

 晶が薬師に尋ねた。


「いや、ほとんど経ってない、あっという間に到着するはず……」

「ならここは、数時間の時差がある、かなり離れた場所ってことだな」

「なんでです? 魔王様」

「俺らさ、あっち出て来たのってまだ朝だったろ? でも、今の太陽を見るに、もう昼は過ぎている。

 俺の世界とほぼ自転周期が同じというところも、近い次元なんだと感じるが……」

「またアキラがわけわかんないこと言ってる」

「ロインちゃんには、後日天文学と地理のお勉強をしてもらいます」

「やだー」


 到着したら午後になっていたので、一行は急いでキャンプの準備を始めた。

 ゲート前に魔導具で結界を設置し、野営用のテントを張った。


 ドスッ。


「うわ、あっちから何か放り込まれたぞ」

「箱……だよね?」


 なんと、弁当が木箱ごと放り込まれたのだ。


「設営終わったから連絡した。だから、送られてきた」

 ピンクのすあま的物体をかじりながら、ルパナが言った。


「えれえお手軽だな。お、まだあったかいぞ」


「でも、ここまで。ダンジョンの中は、補給はない。食べ物は、持っていったものか、つかまえたものだけ」

 そう言って、手にしたピンクの物体を持ち上げて見せた。


「お、それ戦時中は良く食ったわ~。俺けっこう好物ですよ」

 と、ドラス。


「わたしが作った。わたしも好物」

「おお、これを薬師様がですか。それはそれは」


 なぜか盛り上がる、ルパナとドラス。

 それとは逆に、引いている晶。


「戦闘糧食なのってマジだったんか……」


 マイセンが設営の手を止めて言った。

「ダンジョンの中は、昼も夜もありませんが、魔物は夜間の方が活発です。

 念のため、一晩ここで過ごして翌朝参るとしましょう、みなさん」


                  ☆


「コラ。何してんだ?」

「わっ! ご、ごご、ごめんなさい……」


 夜中こっそりキャンプを抜け出して、遺跡に進入したラミハ。

 入り口付近でうろついているところをドラスが捕まえた。


「一人で行ったら危ないだろ? しかも真夜中に。さあ、戻って朝まで寝るんだ」

「でもお……」

「何かあるのかい?」

「これ」


 そう言って彼女が差し出したのは、小さなランタンのようなものだった。


「……これは?」

「借りてきた魔導具のひとつで、夜に使うと、不思議なものが見えるって……」

「だからって、建物に入ることもないだろう?」

「中の方が、もっと不思議なもの、見えるかなあって思ったから……」


 ドラスは小さくため息をつくと、ラミハの肩に手を置いた。


「じゃ、ちょっとだけな。一緒に見よう」

「いいの?」

「でも、ホントにちょっとだぞ。危ないから」

「はい!」


 明かりを消し、魔導具を起動させると、小さな羽音のような音をたてて青白く光り出した。ガラス越しに、雪のような燐光がにじみ出して、周囲に拡散していく。


「――――何も見えないですねえ……」

「そうだなあ」


 五分ほど経過したが、実際なにもなかった。


「今日はこのへんで引き上げよう。また別の場所で見ればいいじゃない」

「……そう、ですね」


 ラミハは少し残念そうに、遺跡の外へと歩き出した。

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