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第1話 プロローグ 魔王、ダンジョンに往く

「……というわけで、皆様準備はよろしいですか?」


 魔王城の一階ロビーに据えられた、短距離移動用転送装置――ゲートの前で、モギナスが最終確認をした。


 彼の前には、フル武装に荷物を背負った、魔王、ロイン、ラミハ、ラパナ、ドラス、マイセンが並んでいる。


 ゲートを抜けた先の到着地点は、城から遠く離れた魔王国の飛び地、とあるダンジョン前である。

 一万年前、地球から国ごと転移した際に、もともと城下町のはずれにあって管理していたのが、かなりズレた場所に着地してしまったのだ。


「な~、マジ俺ダンジョンとか行かないとダメなの~? ヤダよダルいよ。

 つか既に装備品どっさり担いでてもう疲れたんだけど」


 魔王・晶の背中には、野営用具などのアウトドアグッズ一式と、水・食料・医療品、そして武器セットがてんこ盛りである。

 その上、魔王専用のゴツい鎧まで着込んでいるので、いくら体は魔族とはいえ、お茶の間の引きこもり生活でなまりきった初心者には、かなりヘビーである。


「いいですか陛下、これは陛下のためでもあるんですよ?」

「お前のためだと言うやつは信用すんなって、父親に言われてんだよ」

「それは犯罪者のことじゃないですか。私は陛下をだます気なんてありませんよ」

「でもよう~」

「それに。ビルカ様にごっそり削られた国庫を元に戻すためにも、探索は必要なのですよ」

「俺じゃなくてもいいじゃ~ん」

「いいんですけど、魔王様同伴でないと生還率が下がるんですよ」

「んだよそれ」

「お忘れですか? 貴方は魔族の頂点に立つお人です」

「あ、そーいえば」

「中身がレベル1でもバレなければ、知能の高い魔物が退いてくれる」

「くれるんだ……」

「ことが多いです」

「んだそりゃ(怒)」

「申し上げましたでしょ? バレなければ、って。つまり、ナメられたら殺される。そういうことでございます」

「ヤバいじゃん! 俺死んだら困るじゃんか!」

「さっさとレベルを上げて頂ければ、何の問題もございません故」

「く~~~~~~~~~~ッ……」

「まあ、それだけでもありませんけどね」

「とゆーと」

「装備品だけは最高級でございます。魔王専用の武具は、いわば神より賜りし神器に等しいということです」

「じんぎ……」


 そういえば、初めてビルカに会った時、仁義を切られたことを晶は思い出した。


「でさ、本気でついてくる気なのか? ロインちゃんよ」


 騎士団の装備品一式に、城の宝物庫から持ち出した盾や剣などを装備している。

 どこからどう見ても、立派な姫騎士である。

 しかし、中身を思えば遊び人の方が近いかもしれない。


「私だけ留守番とかヤだし。ぜったい行くもん」

「あのなあ、ダンジョンって、暗くて臭くて汚い場所だぞ? すぐ音を上げるに決まってんだから、おとなしく待ってなさいって」

「やだもん、行くもん」


 晶は、ハ――ッと大きなため息をついた。

 もうこのやりとりを十回はしている。


「というか、誰だよこいつに最強装備くくりつけたのは」

「私でございます、陛下」


 にやりと不敵な笑みを浮かべたアラサー的美女、マイセンが言った。

 装備品から推測すると、彼女のジョブはスカウトか何かのようだ。

 もっと言ってしまえば、アサシンとかくノ一とか、そういう系だ。


「そういう面白半分でやるのやめてー」

「ご安心下さい陛下、お嬢様は私がお守り致します」

「まあ多分俺より強いと思うんで、よろしくお願いする」


「ラミハちゃんは俺が護るから大丈夫だよ」

 すっかりジェントルメンなドラスが、片膝をついてラミハの手を取り目を見つめている。

 彼は一体ダンジョンに何しに来ているのか。

 出会いでも求めているのだろうか。

 ちなみに彼の装備は、親衛隊用甲冑装備一式、とわりと普通である。

 多分前衛職。


「う、うん……でも私はお嬢様をお守りしないといけないんで……」

 もじもじと目線を逸らすラミハ。

 彼女の装備は……旅人というか、すっぴん冒険者というか。

 革鎧等々のレザー装備一式に、ゴーグルのついた帽子、そして、ごちゃごちゃと不思議な道具を腰やら腕やらふとももやらに、たくさんくっつけている。

 魔道具使い? 銃使い?

 よくわからないサポート系ジョブっぽい。

 なお、特記事項としては、絵的においしい。


 ラパナは普段どおりのローブと杖、そして背嚢という出で立ち。

 ジョブは変わりなく、薬師。回復系だろう。

 杖の中身は古竜神……のはず。


「よいですか、みなさん。今回の探索の目的は、財宝を少しでも多く持ち帰ること、そして、魔王様のレベルを上げることです」


「やだ~~~もう帰りたい」

「危なくなったら戻ればいいんですから、もっと気楽に行きましょうよ陛下」

「気楽に行けるかボケ! お、俺、素人なんだぞ?」

「だから、心強い従者をつけたじゃありませんか」

「でも~やっぱつらい~いきたくない~」


 冷ややかな目で魔王を見るロイン。

「アキラちょーかっこ悪い」


 がっくりとうなだれる魔王。


「ほら一緒に行ってあげるから、行こうよ~」

「ロインちゃん……」

「立派な結婚式やるのにお金かかるんだから、稼ぎに行かないとダメでしょ?」

「そっちかよ(怒)」


「ぐずぐずしてると暗くなっちゃいますよ。現地がどうなってるかわかんないんですから、明るいうちに出かけてくださいな」


「じゃ、行ってきま――す♥ ほら! 行け! アキラ!」


 ドカッ!


「いやじゃあああああああああああああああああああああ」


 ロインにドつかれて、魔王はゲートの中へと消えていった。

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