「……というわけで、皆様準備はよろしいですか?」
魔王城の一階ロビーに据えられた、短距離移動用転送装置――ゲートの前で、モギナスが最終確認をした。
彼の前には、フル武装に荷物を背負った、魔王、ロイン、ラミハ、ラパナ、ドラス、マイセンが並んでいる。
ゲートを抜けた先の到着地点は、城から遠く離れた魔王国の飛び地、とあるダンジョン前である。
一万年前、地球から国ごと転移した際に、もともと城下町のはずれにあって管理していたのが、かなりズレた場所に着地してしまったのだ。
「な~、マジ俺ダンジョンとか行かないとダメなの~? ヤダよダルいよ。
つか既に装備品どっさり担いでてもう疲れたんだけど」
魔王・晶の背中には、野営用具などのアウトドアグッズ一式と、水・食料・医療品、そして武器セットがてんこ盛りである。
その上、魔王専用のゴツい鎧まで着込んでいるので、いくら体は魔族とはいえ、お茶の間の引きこもり生活でなまりきった初心者には、かなりヘビーである。
「いいですか陛下、これは陛下のためでもあるんですよ?」
「お前のためだと言うやつは信用すんなって、父親に言われてんだよ」
「それは犯罪者のことじゃないですか。私は陛下をだます気なんてありませんよ」
「でもよう~」
「それに。ビルカ様にごっそり削られた国庫を元に戻すためにも、探索は必要なのですよ」
「俺じゃなくてもいいじゃ~ん」
「いいんですけど、魔王様同伴でないと生還率が下がるんですよ」
「んだよそれ」
「お忘れですか? 貴方は魔族の頂点に立つお人です」
「あ、そーいえば」
「中身がレベル1でもバレなければ、知能の高い魔物が退いてくれる」
「くれるんだ……」
「ことが多いです」
「んだそりゃ(怒)」
「申し上げましたでしょ? バレなければ、って。つまり、ナメられたら殺される。そういうことでございます」
「ヤバいじゃん! 俺死んだら困るじゃんか!」
「さっさとレベルを上げて頂ければ、何の問題もございません故」
「く~~~~~~~~~~ッ……」
「まあ、それだけでもありませんけどね」
「とゆーと」
「装備品だけは最高級でございます。魔王専用の武具は、いわば神より賜りし神器に等しいということです」
「じんぎ……」
そういえば、初めてビルカに会った時、仁義を切られたことを晶は思い出した。
「でさ、本気でついてくる気なのか? ロインちゃんよ」
騎士団の装備品一式に、城の宝物庫から持ち出した盾や剣などを装備している。
どこからどう見ても、立派な姫騎士である。
しかし、中身を思えば遊び人の方が近いかもしれない。
「私だけ留守番とかヤだし。ぜったい行くもん」
「あのなあ、ダンジョンって、暗くて臭くて汚い場所だぞ? すぐ音を上げるに決まってんだから、おとなしく待ってなさいって」
「やだもん、行くもん」
晶は、ハ――ッと大きなため息をついた。
もうこのやりとりを十回はしている。
「というか、誰だよこいつに最強装備くくりつけたのは」
「私でございます、陛下」
にやりと不敵な笑みを浮かべたアラサー的美女、マイセンが言った。
装備品から推測すると、彼女のジョブはスカウトか何かのようだ。
もっと言ってしまえば、アサシンとかくノ一とか、そういう系だ。
「そういう面白半分でやるのやめてー」
「ご安心下さい陛下、お嬢様は私がお守り致します」
「まあ多分俺より強いと思うんで、よろしくお願いする」
「ラミハちゃんは俺が護るから大丈夫だよ」
すっかりジェントルメンなドラスが、片膝をついてラミハの手を取り目を見つめている。
彼は一体ダンジョンに何しに来ているのか。
出会いでも求めているのだろうか。
ちなみに彼の装備は、親衛隊用甲冑装備一式、とわりと普通である。
多分前衛職。
「う、うん……でも私はお嬢様をお守りしないといけないんで……」
もじもじと目線を逸らすラミハ。
彼女の装備は……旅人というか、すっぴん冒険者というか。
革鎧等々のレザー装備一式に、ゴーグルのついた帽子、そして、ごちゃごちゃと不思議な道具を腰やら腕やらふとももやらに、たくさんくっつけている。
魔道具使い? 銃使い?
よくわからないサポート系ジョブっぽい。
なお、特記事項としては、絵的においしい。
ラパナは普段どおりのローブと杖、そして背嚢という出で立ち。
ジョブは変わりなく、薬師。回復系だろう。
杖の中身は古竜神……のはず。
「よいですか、みなさん。今回の探索の目的は、財宝を少しでも多く持ち帰ること、そして、魔王様のレベルを上げることです」
「やだ~~~もう帰りたい」
「危なくなったら戻ればいいんですから、もっと気楽に行きましょうよ陛下」
「気楽に行けるかボケ! お、俺、素人なんだぞ?」
「だから、心強い従者をつけたじゃありませんか」
「でも~やっぱつらい~いきたくない~」
冷ややかな目で魔王を見るロイン。
「アキラちょーかっこ悪い」
がっくりとうなだれる魔王。
「ほら一緒に行ってあげるから、行こうよ~」
「ロインちゃん……」
「立派な結婚式やるのにお金かかるんだから、稼ぎに行かないとダメでしょ?」
「そっちかよ(怒)」
「ぐずぐずしてると暗くなっちゃいますよ。現地がどうなってるかわかんないんですから、明るいうちに出かけてくださいな」
「じゃ、行ってきま――す♥ ほら! 行け! アキラ!」
ドカッ!
「いやじゃあああああああああああああああああああああ」
ロインにドつかれて、魔王はゲートの中へと消えていった。