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第50話 生放送! 黒騎士卿の婚礼

「皆様、ご機嫌いかがでしょうか。世界初、幻灯水晶による生中継が本日始まりました! 私、案内役を務めさせて頂きます、サー・ロイン・テンダーです!」


 魔王都上空をゆっくり旋回するワイバーンの背から、ロインとラパナが魔法による全国放送を開始した。

 そのさらに上空では、中継役を担う古竜神がゆったりと泳いでいた。


 テロの現場を全世界に生中継するのが目的だ。

 放送を見た全ての人が証人となる。絶対に言い逃れは出来ない。

 これは、機械文明国からやって来た晶の発案であった。


 放送の受信機である幻灯水晶は、前日に各国の広場などに配置されたが、魔王都には設置されていない。そのため前乗りしていたテロリスト一行はその存在を知る由もなかった。


「本日は、魔王国の英雄、黒騎士こと、ハーティノス様と、ベルリ家ご息女ルーテ様のご婚礼の様子をお伝えしたいと思います!」


 カメラはロインの正面から眼下の王城、そして城下町へと流れる。


 写真もない世界に、生の映像、しかも空撮動画を流している時点で、魔族の圧倒的テクノロジーの誇示。

 国是からは逆走してしまってはいるが、これからは情報が抑止力になる、と言う晶の言葉に従った格好だ。


「城下は祝賀ムードで一杯、通りは花々で飾られております! ああッ、見えますでしょうか? 王城よりグリフォン二頭立ての馬車が出発しました。中には、お二人が乗っておられるのでしょうか。地上のラミハさーん!」


 カメラは切り替わり、公会堂外観が映し出されている。


「はい! こちら公会堂前のラミハです。

 ただ今、各国大使の皆様が続々と中へと入っていかれている最中です。王城を出発されたということですが、新郎新婦のお二人が到着されるまで、いましばらくかかりそうですね。ちょっと公会堂の中を見てみましょう」


 カメラはラミハを追って、公会堂へと入っていった。


「魔王国では宗教がありませんので、結婚式は人前式で行われます。今回のご婚礼に際して、立会人をされますのは、魔王様だそうです」


 場内来賓席はほぼ満杯で、あとは新郎新婦、そして魔王の到着を待つばかりだ。


「魔王都上空のロインさん、いかがでしょうか」


 カメラが上空に切り替わる。

 ワイバーンはやや高度を下げ、馬車を追跡していた。


「はい! ご一行は、ただいま最後の橋を渡り、いよいよ公会堂に近づいてきました! あっ、魔王様自ら、愛馬に乗って先導されているようです!」


 上空のワイバーンに気付いた魔王が手を振っている。


「それでは、上空からはそろそろお別れします。続きは地上のラミハさん、お願いしまーす!」



 ☆ ☆ ☆



「……おい、やつらが公会堂に近づいてきたぞ」

「魔獣が馬車引いてるじゃねえか……。恐ろしい」

「ビビッてんじゃねえ。中までは来やしねえんだから」

「わ、わかってるよ」


 公会堂が良く見える位置にある倉庫の中から、テロリストの一行が様子をうかがっている。おのおのが武器を携えている。


「手はずどおりやれば間違いない。こっちには侯爵様もついてるんだ」

「おう……」

「お、みんな中に入っていったぞ。ドラスの兄さんよ、頼むぜ」


 テロリスト一行の頭目、ルーテを買い取ろうとした、トマソ一家の長男、ムッラが声をかけた。


「お任せを。再確認します。

 私が先頭で公会堂に押し入ります。皆さんも続いて奥まで一列になって入ってください。最後尾の方はドアを閉めてください。いいですか?」


 皆が頷いた。


「では、そろそろ行きますよ」



 ☆ ☆ ☆



 倉庫を出たドラスは往来から人がいなくなるのを確認した。もちろん、通行人がいなくなるのも仕込みである。


 彼は目出し帽を被り、チラと屋根の方に視線を送った。

 隣の建物の上から、こっそり自分たちを撮影しているルパナたちを見つけた。

 彼女たちが小さく頷く。


 親衛隊から送り込まれたスパイたちは皆、粗末な袋で作った目出し帽を被り、テロリスト達は高級そうなスカーフで顔を覆っていた。無論、協力者名義で彼等に差し入れたもので、皆喜んで着用した。


 ドラスは、皆を率いて公会堂に小走りで接近した。

 彼は外で待機している数名の衛兵を手刀で気絶させた。手際よく見えるが、これも芝居である。


「中を確認します。合図をしたら一斉に突入です」


 小声で仲間に呼びかけるドラス。

 腰から武器を抜くと、いよいよ公会堂のドアを静かに開けた。


 場内を伺うと、楽隊の音楽演奏の中、新婦が父親に伴われて新郎の元へとゆっくり歩いているところだった。

 バージンロードの上にたなびく純白のケープが美しい。



 ☆ ☆ ☆



「ドア前に来てるな~」


 魔王・晶が、公会堂の突き当たりで、小型の幻灯水晶を見て言った。

 水晶には、公会堂の外を撮影しているルパナからの映像が届いている。


「まもなく突入か。陛下、頼みます」

 礼服に身を包んだ長身の黒騎士卿が、上から水晶を覗き込んでいる。


「任せろ。音楽が止まった時が合図だ」


 新郎新婦はうなづいた。

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