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第49話 親衛隊、仕掛ける

「こちらの物件を提供して下さる、リーバ侯爵様である」


 柄の悪そうな男たちが、初老の男に投げやりな礼をする。

 身なりの良さそうな若い男に紹介された、リーバ侯爵が口を開いた。


「うむ。諸君を歓迎する。

 この物件は後に売却するもの故、なるべく綺麗に使ってくれたまえよ。

 必要なものは届けさせるので、この案内役のドラスに言ってくれ」



 魔王都の公会堂に近く、かつ人通りの少ない大きな一軒家の庭先に、普通であれば一緒にいるはずのない人物が集まっている。

 数にしておよそ二十人ほど。

 明らかに異国人と思しき一団と、その案内役、そして彼等の協力者の一人である、リーバ侯爵と呼ばれた男。


 ドラスが異国人の男たちに言った。


「申し訳ないが、食事などの用意に時間がかかるので、昼食は各自城下の飲食店や露店などで取ってもらいたい。

 夕食からは提供出来る。なお城下では極力目立つ行為は慎んでくれ。

 武器などの物資は夜間搬入予定だ。屋敷内の割り当ては、私の部下が案内する。

 申し訳ないが、これから侯爵様と打ち合わせがあるので、細かい要望などがあれば彼に。では解散」


 ドラスの連れの若い男が小さく会釈をした。


 異国人たちは、嬉しそうに屋敷の中に入っていった。

 彼等の身分では、一生足を踏み入れることの出来ないような高級邸宅である。

 来るはずのない異国で、ブルジョア気分が満喫出来る。

 野盗のような連中のテンションが上がらないはずもなかった。


 彼等が屋敷に入ると、若いメイドが出迎えた。


「はーい、みなさーん! ようこそいらっしゃいませ~!!

 私は、皆様のお仕事完了まで身の回りのお世話をさせて頂きます、メイドのラミハと申します!

 よろしくおねがいしまーす★」


「「「「「おおおおおおおおお――ッ!」」」」」


「この奥の食堂で、お茶と軽食のご用意をしております~。お荷物はこのあたりに置いて、どうぞいらしてください★」


「お姉ちゃんよう、ラミハちゃん、とか言ったっけか? ぐふふ……夜もお世話してくれるんだよなあ?」


 非常に分かりやすいエロおっさんがラミハにすり寄って来た。


「大変申し訳ございませんが、私は下のお世話は言いつかっておりません。

 お手数ですが、城下にございます娼館をご利用ください。

 なお、そちらの割引券をドラスさんから預かっていますので、ご希望の方は食堂でお渡ししますね~★」


「「「「「はーい♥」」」」」



 ☆ ☆ ☆



「……おっさんチョロいな」


 勝手口の裏手で、エプロンのポケットいっぱいのコインを数えながら、ラミハが呟いた。


「ずいぶんとたくさんおひねりを頂いたみたいだね、ラミハちゃん」

 タバコに火を点けながら、ドラスが言った。


「テロリストっていうと何か響きがかっこいいですけど、ぶっちゃけ野盗ですよね」


「うん、ぶっちゃけ野盗。あいつらだけじゃ、黒騎士卿の婚礼を襲撃して派手に立ち回り、新郎新婦や、列席している魔族を皆殺しにする、なんて計画を実行出来るわけないもんね。……バカだから」


「よりによって、自分たちが世界中から追われる大悪党になっちゃうなんて~思ってないですよね~。……バカだから」


「まったく、モギナス卿もお人が悪い。

 これじゃあ、抑止力どころか、連中の財産没収と、管轄国の政府にも責任が及んで……。ふう、考えただけで恐ろしい」


「モギナス様、ちょーノリノリでー。すんごい楽しそうでした」


 ドラスは一瞬、眉根を寄せ、素に戻ると、白い煙をゆっくり吐き出した。


「それ、本性だから」

「え?」

「いや、何でもない。人間のキミには」

「私、これでも、魔王様のお妃の侍女ですよ? 魔族のことも覚えないとなんで、ちゃんと教えてくださいよ~」


 ちょっと困った顔をしたが、しょうがないなあ、と話し始めた。


「嗜虐性、とでも言うかな。ナチュラルにそういうものを心の奥底に持っているんだ。魔族、とくに彼の種族は狡猾で残忍な性質を隠し持っている」


「種族……残忍……」


「モギナス卿も、表面的には親切で情に厚い。

 べつに繕っているわけじゃなく、それは本当なんだ。

 でも、裏に隠した本性ってのがあってな。人間でも、裏と表ってあるでしょう? それが魔族はもっと極端なんだ」


「それは、ドラスさんも」


 ラミハの目に怯えが見えた。


「そうだ。俺は別方向だけどね。インテリじゃないし。

 でも、そういうのあんまり好きじゃないから、気をつけてはいる。怖がらなくても、君を襲ったりしないよ。

 そもそも、ロイン様の侍女を殺したりしたら、魔王陛下にどんな目に遭わされるかわからない。――でしょ?」


「多分、ですけど」


「人間と見た目は同じだけど、ちょっと違う生物なんだ。だから、100%心を許してはだめだよ」


「なんでそんなことを?」


「君は真っ直ぐな子だから、心配なんだ」


 そう言って、ドラスははにかんだ。

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