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第48話 暗躍する侍女

「ふええ~~~~~~~」


 朝っぱらからロインの悲鳴がクローゼットの方から聞こえてくる。


「おう、どしたい? ……ありゃー……」

「アキラたすけてえぇぇ」

「やれやれ……」


 晶は、服やら靴やら帽子やらの山に埋もれたロインを救助した。


「さすがにこれは荒し過ぎだろ」

「だってえ……。ラミハが自分勝手に片付けるから、どこに何があるかわかんなくなったんだもん」

「あちゃあ……。収納は見える化しろって言うの忘れてた……。で、当のラミハやマイセンはどこ行ったんだい?」

「それが、見当たらないのよ」

「ありゃ。ちょっと探してくるから、それ以上かき回すなよ? いいな?」


 上着を引っかけて、そそくさと出ていく魔王・晶。

 使用人詰め所やお茶の間、リネン室、調理場とあちこち探しても見当たらない。

 うろうろしているうちに、モギナスの部屋にたどり着いた。


「おはよう、モギナス」

「おはようございます、陛下。御自らこちらにお越しになるとは珍しい」

「人を探してんだよ。マイセンとラミハ、知らない? ロインのお世話する人がいないと部屋がカオスで大変なんだよお~」

「あらら……。それは盲点でした」

「おま、なんか知ってるな?」

「申し訳ございません、陛下。

 彼女たちには特殊任務を与えておりまして、現在城下に外出中です。ご報告が遅れて申し訳ございません。すぐに代りの侍女を手配致します故」

「なんだよ特殊任務って」


「仕込みですよ、し・こ・み★」

 当人的には満面の笑み、のつもりだが、どう見ても妖怪の笑みである。



 ☆ ☆ ☆



「先輩、私ワクワクしてきました!!」

「されても困るのですが。我々は任務でここに来ているのですよ」

「分かってますって~。分かってますってば~」

 極秘任務と聞いて、絶賛はしゃぎ中のラミハを連れて、マイセンはとある国の大使公邸まで馬に乗ってやってきた。



 城下には、ロインの故国をはじめ、複数の国の大使館や領事館がある。

 暴動を起こされては困るので、いずれも城下の外郭エリアに据えられている。

 また、自国の兵士による大使館の警護は禁じられているため、魔王国の王都守備隊兵士が貸し出されている。


 魔王都は侵略者の侵入に備え、同心円状に区画が分けられ、その境界は深く大きな堀が隔てている。

 有事の際には橋を落としてしまえば中心部まで侵入されないよう設計されているのだ。

 これら全ての設計立案に関わっているのが、宰相モギナスその人である。



 マイセンは馬を降りると、門前で警護中の王都守備隊兵士に声をかけた。

「魔王様からのお手紙をお届けに参った。大使にお取り次ぎ願えないか」


 普段のメイド服とは打って変わって、今日の二人は親衛隊の礼服を着用している。どこからどう見ても、りりしくて眩しい、王城からの使者だ。


 取り次ぎのために門の中へと走っていった衛兵を見送ると、マイセンは門の横にある警護詰め所に入っていった。


「怪しい者の出入りはないか」

 マイセンが詰め所の兵士に尋ねた。


「はっ。現在のところ異常ありません」

「異常が認められても、その場で咎めてはなりません。黙って見過ごし、親衛隊に報告だけしなさい」

「りょ、了解であります」


「何かありましたかな」

 兵士の上官がマイセンに尋ねた。


「黒騎士卿の婚礼に際し、テロを企てる者がある、との連絡を受けたのだ。末端だけ捉えてもその根は断たれない。よって、報告だけもらいたい。当方で処理をする」


「ですが……」


「これは魔王陛下の勅命である。異論は認めない」

 そう言って、マイセンは書状を彼等に見せた。


「それと……。テロの恐れあり、という情報は他言無用である。いいな?」

 マイセンの鋭い視線が彼等を射貫いた。


                  ☆


 応接室で大使と対面中のマイセン。

 大使は脂汗をいっぱいかいて、まるで蛇に睨まれたカエルである。


 王城からの使者ともなれば、我が身にやましいことはないかと記憶を何十回も巡るものである。

 ひとつ間違えば、国際問題。母国が一瞬で焼かれてしまうのだ。魔王国とは、彼等にとってそういう存在だった。

 その魔王国からの、美しくも恐ろしい使者に睨め付けられているのだから寿命も縮もうというものだ。


「あ、あ、あの……、こここ、これは、御国貴族のご婚礼へのご招待、と承ってよろしいので」

「いかにも」

「して、この……寸劇に協力、というのは……しかも内密で、とは」


「なに、大したことではありませぬ。新郎新婦を驚かせるために、魔王陛下が余興を行われる。その協力をして頂きたい、ということです。内密なのは、事前に余興の件が新郎新婦に漏れるのを防ぐためです。

 ……知っていたら、驚けないではありませんか」


「し、しかし、私は芸事は苦手でありまして……その……」

「いえ、お手間を取らせるものではありません。詳しくは部下の方から説明を」

「はい!」


 マイセンの後ろに控えていたラミハが、鞄の中から見取り図の書かれたフリップを取りだした。

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