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第47話 女賞金稼ぎのウェディングドレス

「ルーテすごい似合ってるよ~」

「ロインってば、どれ着てもそればっかじゃん」


 城の一室で、衣装の試着中のルーテとロイン。

 もちろん新たに仕立てるのだが、まずはデザインを選ばないことには話が進まない。さらに、作戦実行までの時間もあまりない。そこで城下の衣装屋から、ありったけのドレスをかき集めて、絶賛物色中なのである。


「とにかく、あんま時間ないから今日中に決めてよ」

「わ、わかった……」


 ガサゴソとレースやチュールに埋もれながらハデに試着をしていると、新郎がやってきた。


「か、可憐だ……」


 黒騎士卿、思いっきり頬を赤らめている。


「ハーさんも礼服、準備してる?」

「え? ああ……そうか。俺の…………」

「どうかした?」


 黒騎士卿は少し困った顔で言った。


「身の回りの物は、ほとんどないのだ。隠居していた屋敷も今頃は荒らされて何も残ってはおるまい」


「すぐ手配させます。ラミハ!」

「はい、お嬢様」

「ハーさんに礼服を用意して」

「かしこまりました」


「何から何まで……。申し訳ない」

「ルーテの晴れの舞台なんだから、ハーさんにもキチンとしてもらわないと。ね?」

「うむ……」

「それより、ルーテ見てやってよ」


「どう……かな」

 恋人の前でくるりと回って見せる、ルーテ。


「ああ。よく似合っている」

「見てないじゃない」


 顔を赤くした黒騎士卿は、目が左右に泳いでいて傍目には完全に不審者だ。


「だって……そんな姿のお前をまともに見てしまうと……」

 とうとう彼は両手で顔を覆ってしまった。


「ねー。どんだけハーさんて純情なのよ。まさか童貞じゃ……」


「…………そうよ」

「ひどいわね。どんだけ童貞こじらせてたのよ」

「さすがに初夜は逃がさないつもりだから」

「そうよ! その意気よ!」


 ふと彼を見ると、涙目になっている。


「……ハーさん、どうしたの?」


「なんなんだ、お前たちは。お、お、乙女がどどどど、どういう」

 魔王軍最強と謳われた元将軍が、完全に動揺している。


「「どっちが乙女よ!」」

「ひ、ひいい……(泣)」


「じゃ、私ちょっと用事があるから、あとはお二人でごゆっくり」

「ありがとう~」

「ありがとう」


 ロインが部屋から出て行くと、急に静かになった。

 きっと気を利かせて二人きりにしてくれたのだろう、とルーテは思った。


「……なんか、夢みたい」

 ブーケを胸に抱き、うっとりしている。


「ああ……。お前には、本当に済まないと思っている」


 ルーテが、衣装の山にブーケを投げつけた。


「どうしていつまでも自分のせいみたく言うの?! ハーティのせいじゃないでしょう? 貴方がいてもいなくても、私は売られたのよ。何度言わせる気?!」


 ルーテが、ハーティノスを強くなじる。

 だが、彼は唇を噛んだまま微動だにしない。


「何とか言いなさいよ!!」

「――――済まない」


 レースのロンググラブを嵌めた手で、彼女は恋人の頬を叩いた。


「いっつもいっつも、済まない済まないって、それ一生言い続ける気?」

「……いや。

 だが、他に何と言えば許してもらえるのか、俺には分からないのだ」


「いい加減にしてよ!

 貴方は何一つ咎められることなんかしてない。

 私を救った英雄なのよ?

 勇者なのよ?

 どうしてそれを認められないの?」


 気丈なルーテの瞳が、潤んでいた。


「俺は……俺が、嫌だった。皆に讃えられるような英雄じゃない。

 大戦が終わって、職を辞し、逃げるようにこの街から出たのだ。いや、逃げたんだ。何もかも嫌になって、逃げたんだ」


「ハーティ……」


「隠遁先で俺は、お前を見つけた。

 俺にはまぶしすぎて、見ているだけで幸せだった。

 だが……、どうしても自分のものにしたくなってしまった」


「それが貴方の罪だなんて言わせない」


「分かってるよ……。だが、お前の救世主なんかじゃない。俺は、お前に逃げ込んでいた、心の弱い男なんだよ……」


 ルーテは大きなため息をついた。


「――わかった。もうここで終わりにしよう」


「はは……。さすがに愛想を尽かしたか。剣を握る以外に取り柄もない男だ。それも仕方なかろう……」

「そこまで腐られるとさすがに堪えるわ。でも、そんなの許さない」

「……え?」

「逃げることは、絶対に許さない。ここまで引きずり回して、みんなを巻き込んで、逃げられると本気で思ってんの?」

「ルーテ……お前……」

「もし私の前から逃げ出したら、地の果てまでも追いかけて、草の根分けても探し出す。私を何だと思ってるの? 賞金稼ぎバウンティハンターだよ!」


 そう言い放ったルーテは、ハーティノスの鼻先に指を突きつけた。


「……ああ、そうだった。だが、一体なにを終わりにするつもりなんだ?」

「貴方の逃避行は、今、ここで終わるの。私が、終着点よ」

「ルーテ…………お前…………」

「貴方が何が嫌いでも関係ない。私は貴方が必要で、私には至高の存在なの。貴方の素性を何も知らなくても、私たちは愛し合えた。それ以外に何が必要なの?」

「だからお前は――まぶしいんだよ」

「かっこいいこと言ってごまかそうったてムダよ」

「そんなつもりじゃ……」


「貴方が自分を嫌いなのは気のせい。思い込み。だから忘れなさい。

 だいたい、いつも自分のこと考えてるとか、どんだけヒマなのよ。

 私のことを考えなさい。

 いつもいつもいつもいつでも、私のことを考えて、考えて考えて、自分のことを考えるヒマなんて無くしてしまいなさい」


「ルーテ……」


「前だけ見て、ハーティ」


「お前がいる」


「私を見て、そして未来を見て。それだけで生きていける」


 黒騎士卿はうなづき、ルーテを抱き締めた。

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