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第45話 女賞金稼ぎの戸籍ロンダリング

 ある昼下がりのお茶の間。


 元女騎士見習い・ロインの元同級生、ルーテ嬢と、その恋人である魔族、黒騎士卿の二人が、お家騒動の始末をいかにつけようか、という相談に訪れていた。


「さすがに私も、自分の娘を売り飛ばそうとか、殺そうとか思ってる奴を親なんて思わないよ」

 黒騎士卿の恋人、ルーテが言う。


「最初のうちは追っ手も、俺だけ殺して彼女は生かして連れ帰る……という様子だったのだが、終いには二人とも抹殺してやる……と言っておった次第で。

 雇い主であるルーテの両親、最初から鬼畜だったのやもしれんな。俺が保護しなければ、今頃はどうなっていたことか……」

 降りかかる火の粉を全て振り払い続けながら、魔王都までたどり着いた黒騎士卿。


 詳細を聞けば聞くほど身の毛がよだつ話である。

 黒騎士卿と言えば、先の戦争で幾万もの魔道人形兵団を率いた、国家の英雄である。引退したとはいえ、彼を慕う者は、国軍のみならず、広く国民の中にも依然存在する。他国民によってお尋ね者扱いをされる現状を、国王として放置することは出来ない。


「モギナス、どーにかなんないのか?」

「もう手は打ってございますよ、陛下」


 さすがに今回ばかりは、ろくでもないことをして……などと揶揄する者はいなかった。お節介のセンスは最低だが、これでも魔王国を預かる有能な宰相なのだ。

 黒騎士卿をバウンティハンター協会に天下りさせた時点で、予測された事態である。フットワークの軽いモギナスが動いていない筈もなかった。


「ルーテ嬢のご両親を物理的に消すだけなら誰でも出来ますが、話はそこまで単純でもございませんで――」


 彼女の実家、腐っても貴族である。いや貴族だから腐っているとも言えるが――。

 暗殺されたとなれば、真っ先に疑われるのが黒騎士卿だ。

 なにせ、先刻は追っ手の暗殺者の首を折り詰めにして送りつけている。次はお前だ、とご丁寧に熨斗までつけて。


「それと。ルーテ嬢を嫁がせようとした先方の家ですが……。あくどい金の稼ぎ方をしている、あまりよろしくないお家柄のようで。

 メンツを潰されたと相当お怒りの様子です。暗殺者へのオーダーが、黒騎士卿の暗殺とルーテ嬢の回収から、お二人の抹殺に変更されているところを見ても、ご両親の暗殺だけでは済まないのですよ」


「うわあ、めんどくせえ」

「……巻き込んでごめん、ロイン」

「いいよべつに。こっちのボスは魔王なんだから、怖いもんなんかないし」

「確かにそうだけど……」

「おン前気楽だなあ、ロイン」

「てへへ」

「何にしても、忠臣に報いない君主はマズい。かなりマズい。嫁のお友達なら尚更だ。モギナスがいいようにしてくれるから二人とも安心しなさい」

「ったく、いつも私に丸投げなんですから陛下は」


「そんで、お前のプランは?」

「要は、お二人に手を出せない状況を作れればいいわけで、相手を全滅させる必要はないのです」

「抑止力か」


「左様でございます。

 先方はどうも黒騎士卿の素性について、あまりよくご存じではない様子。まあ、分かっていたら、あんなマネ出来ませんよね? ――正気なら。

 ですが、今さら素性が知れたところで、ここまで吹き上がってしまったチンピラ共の怒りが収まるとも思えません。

 ここで報復に報復を重ねていては、ただのマフィアの抗争です。我が国の威光にも傷がついてしまいます」


「じゃあ、どうすればいいんだ?」

「相手をテロリストにしてしまえばよろしいかと」

「うはあ……」

「テロは、被害者の権威があればあるほど、その罪が重くなります。それ故、ルーテ嬢には、さらに上流の貴族の養子になって頂きましょう」


「私が、養子に……」


「テロリストを一掃する際、荷担していた家の娘という肩書きは少々面倒なのですよ。それに、今後発生しうる面倒事も、それなりの家柄のご息女ということであれば、発生前に片付けることも可能です。

 つまり、現在だけでなく、将来に亘ってお二人の安全を守るために、戸籍の付け替えが必要なのです」


「戸籍のロンダリングかよ。ますます本格的だな」


「こちらに、養父母候補のリストがございます。ルーテさん、お好きな両親をお選びくださいまし。

 どの方も、事情をお話ししたところ、ルーテさんをとても気の毒に思い、快く踏み台の役目を引き受けて下さいました。

 もちろん、ちゃんと親子になって頂いても構いませんし、むしろその方が彼等も喜んでくれることでしょう」


「こんなに我々のために……。何と、何と有り難いことだ……」

 黒騎士卿は嗚咽を漏らした。

「さあ、選びなさい。新しいお前の親を」


 ルーテは黒騎士卿にうなづくと、書類選考を開始した。

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