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第44話 女騎士さんのブティック

 リバ隊長の両親と打ち合わせをしてから約一ヶ月。

 隠密行動のため作業は難航したが、仕立て屋夫婦と従業員、ならびに親衛隊隊員たちの尽力により、ようやくロインのための洋服屋の準備が整った。


                  ☆


 お茶の間で待機中の晶に開店準備完了の報せが届く。

 いよいよである。


「ロインちゃんよ」

「なあに」

「これから城下にデートしに行かないか?」

「急にどうしたのよ」

「まあ、いいからいいから」

「なによキモい」


 一瞬ムカついたが、晶は顔に出さず飲み込んだ。


「キミと行きたい場所があるんだ~」

「ふうん。なんか怪しいけど……。わかった」


 ロインはそそくさと外出の準備をすると、晶と馬に2ケツして、とっとこ店へと繰り出した。


                  ☆


「さー着いたぞ~」


 二人が店に到着すると、リバとその両親、私服のマイセンが出迎えた。


「おまたせ~」

「えっと……これって……お店?」

「そうだよ。お前のために俺等みんなで作った店だ」


 ブティックは、西洋風やや懐古趣味だがこの世界では新しい外観で、店頭には日本式の新装開店花輪まで用意されている。

 往来では、新規開店を知らせるビラをラミハが道行く人に配っていた。


 ロインは馬を降りると、恐る恐る店内に入っていった。


「ここ……服屋さん、だよね?」

「そう。オシャレな言い方をすると、ブティックだ」

「ぶてっく……」


 店内の内装はもとより、試着室やフックの回るハンガー、マネキン、ハンガーラックに陳列棚などの什器類までこと細かく指示を出し、制作されている。

 日本なら電話一本ですぐ届くものばかりだが、こちらでは何から何まで作らなければならず、この一店舗だけでも携わった職人の数は両手でも足りない。


「どう? 気に入ってくれたかい?」


 ロインにとって、店内にあるもの全てが見たことのないものばかりで、ただただ圧倒されていた。

 しばらく呆然としていたが、慣れてきたのか、ロインは店内を歩き回り、マネキンや陳列してある服をじろじろ眺めはじめた。


「えっと…………これ、着てもいい?」


 彼女が手に取ったのは、薄手の生地を幾重にも重ねて作られた、フェミニンなワンピースだった。

 もちろん、全ての服はロインが着られるように仕立ててある。――若干のサイズ展開をしてはいるが。


「いいよ。あそこのカーテンの掛かっている小部屋で着替えておいで」

「うん!」


 ロインは嬉々として試着室に入っていった。


 数着の試着後――

 ロインは服の山を抱えて晶におねだりを始めた。


「ねえねえ、これ買って~」

「ロインちゃん、それ売り物でしょ? キミはこのお店のオーナーなんだよ。商品をごっそり買ってどーすんのよ」

「えー…………。オーナーって服買っちゃいけないの……?」

「お客さんが先。自分用は後でじゃないと売り物がなくなっちゃうじゃないか」


 ロインは口を尖らせてムっとした。


「つまんなーい。服、欲しいもん……」

「えっと……。ロインちゃんは、服屋さんがやりたかったんとちがうの?」


「……なんか、思ってたのと違う……」


「まさかそれって……。

 女児がお菓子喰らうのが好きだから、ケーキ屋さんになりてえ、とか言うのと同じレベルの話だったり……ってオチか?」


「もういい。買ってくれないんなら帰る」


 ヘソを曲げたロインは、さっさと店を出て馬に乗って城に帰ってしまった。

 端でずっと見ていたマイセンが、お手上げポーズをしていた。


「……ちょ。俺の足、どうしてくれるん……」

「陛下はまだまだ、お嬢様の扱いがヘタですねえ」

「分かってたんなら途中で止めろよ」

「私、陛下がどこまでおやりになるのか、興味がございましたので。ふふふ」

「チッ。あんときの不気味な笑いはそれか……」



 ☆ ☆ ☆



 一ヶ月後のお茶の間。


「なあモギナス、あの店今どうなってる?」

「大変繁盛しておりますよ、陛下」

「へえ……。そんなたくさん売れるようなものでもなさそうだが」

「市中では、あのフックの回るハンガーが大人気商品でございます。生産が追いつかないとのこと」

「あれねえ」

「それと、夜になると殿方が大勢お買い物に見えるそうで」

「なんで? 女装でもすんのかよ」

「いえいえ……」


 モギナスはニヤリと笑った。


「陛下がデザインされた、あの奇抜な衣装。夜の用向きにとても売れているとのことで、国庫も潤い、まったくもって有り難いことです」



「ア、アダルトグッズかよ!!!!」


 晶はたいそうヘコんだ。


                  ☆


 フテ寝をしようと自室に戻った晶。

 ドアを開けると、ロインが着替えをしていた。


「きゃっ!!」


「ああ、すまん……っていうかハダカ見られて恥ずかしがる関係でもないだろ」


「うう~~」


「あれ? ……そのカッコは」


 ロインは晶の前から逃げ出し、クローゼットに駆け込んでいった。


「そっかあ……。くふふ」


 彼女が着ていたのは、男性にバカ売れの、みささちゃんコスプレ衣装だったのだ。


「眼福だろ。くふふ……」


 ――やった甲斐、あったかな。

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