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第43話 親衛隊長さんの実家

 親衛隊長・リバ氏に話を聞くと、彼の実家は、幾人かの縫い子を抱えた仕立て屋だそうだ。身内であれば秘密を守ることも容易だろう、ということで、一行はカフェを出て、街はずれにある彼の実家に向かった。


「なんか急に押しかけて、迷惑じゃないかなあ」

「いえ、陛下のお役に立つのは国民の務め、問題ありません」

「いやだから、今の俺は一般ピープルだって」

「ああ、申し訳ございません。そうでした」

「よろしく頼むよ、リバさん」

「ところで……アキラさん」

「なんでしょ」


 先頭を歩いていた親衛隊長は急に立ち止まり、振り向いた。


「貴方様はどなたですか?」


「まあ、親衛隊の隊長、ぐらいの人ならバレるよな。

 ――俺は先代魔王ビルカのひ孫、アキラだ。こないだ奴から魔王職を正式に引き継いだ」


「なるほど……。しかし、その容姿は一体」


「俺は純血の魔族ではないから、奴と体を入れ替えられちまったんだ。一方的に」


 リバは視線をマイセンに投げた。

 宰相モギナスの姪であり、身の回りの世話をしている彼女の真意を確かめたかったのだろう。


「誠でございますよ。ビルカ様ご本人がそう仰っていました」


 リバは無言でうなづいた。


「……というややこしい事情なので、皆に報告してないんだよ。

 済まないな。あとで詳しい説明するから」


「なんと……。魔王様のお孫様でございましたか。正式に王位を継がれたということであれば、私もなんら異存はございません。さあ、先を急ぎましょう」


                  ☆


 ぞろぞろと小一時間ほど歩くと、リバの実家に到着した。

 自宅の横に仕立て屋の店舗があり、道路に面した部分はショウルーム兼接客スペース、裏手は工房になっている。


 先にリバが事情説明のために家に入ると、しばらくして、彼とその両親と思しき夫婦が店先に出て来た。

 魔王一行を見るや、深々とお辞儀を始めたのをリバが必死に静止していた。


 ショウルームに通され、お茶を飲んでいる間中、両親の息子自慢を延々と聞かされるハメになったが、なんとか協力を取り付けることが出来た。


「それで、どのような服をご所望でしょうか、陛下」

「それが……」


 晶は鞄の中から、ファッション画のスケッチを数枚取り出し、リバの父に渡した。

 カメラがあれば楽なのだが、記録する手段がないので、仕方なく手書きである。


「婦人ものですな」

「さらにもう数点、デザインを増やしたいんだ。ここで描かせてもらっても構わぬか?」

「お心のままに」


 晶は作業テーブルを借りると、持参した色鉛筆でデザイン画を数点書き起こした。


「これはまた面妖な、いや、個性的な衣装でございますな……」

「二着ほどはサンプルもあるから、後で届けさせよう」

「生地の方はいかがなさいますか? あいにくこの店には婦人向きのものが少のうございます」

「これから生地屋に仕入れに行くつもりだ。同行して頂いてよろしいか」

「もちろんでございます、陛下」

「それと、付属品を見せてもらえまいか。市井のボタンや金具などに疎いのでな」

「かしこまりました。今お持ち致しましょう」


 晶とリバ父とのスムーズなやりとりを見て、唖然とする同行者たち。


「陛下は、以前もこのようなお仕事を?」

 マイセンが訊いた。


「まあ、仕立て屋の手伝いみたいなことはしたが、それで稼いでいたわけじゃないんだよ。趣味の一環、かな」


「なんと。陛下の見識の広さ、このマイセン、感服致しました」

 本当に感服したのかしてないのかわからないような顔で、マイセンが言った。


「いつも気になってるんだけどさ……。マイセンってどこまで本気なの?」


 彼女は目を細め、口の端をぐっと吊り上げて笑った。


「いつも本気ですよ?」


 晶はゾクリとした。

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