「あー……。思ったより骨が折れそうだなあ」
城下のカフェで一服している魔王がぼやいた。
侍女二名+私服の護衛を連れて外出したはいいが、いくら既製品を売る衣料店とはいえ、工業化・規格化が進んでいるわけでもないので、デザイン・寸法・素材・価格などの統計を取ろうにも埒があかない。
そもそもこの世界の住人のサイズ規格すら存在しないのだから、昨日今日この世界に来た素人が、吊るしの服屋を始めることにかなりのムリがあった。
「参ったなあ……」
「はい……アキラさんは、どんな服を売りたいんですか?」
頭を抱える晶にラミハが尋ねた。
「う~ん……、やっぱロインに似合う服、かなあ」
「それお店にする必要なくないですか?」
「そうだった。まあ、若い女性向け、という点は決まってるけど、あとはノープランなんだよね~……」
ずっと黙って話を聞いていたマイセンが口を開いた。
「これが叔父上だったら、いきなり服を量産して開店しているところです。やはりへい……、アキラさんは慎重ですね。先に調査をされるとは。このマイセン、お見それ致しました」
「そりゃそうだろ、最初から失敗するつもりで事業を興す奴はいないよ。
――まあ、つもりがなくても、後先考えないバカは多いけどさ。
だけど、俺が特別慎重だとは思ってねえよ」
「思いの外、慎み深い方なのですね。このマイセン、感服致しました」
「俺のこと何だと思ってんだよ、ったく……。
俺はただ、好きな女の願いを叶えてやりてえだけの、ケチな男さ」
「そんなにまでお嬢様のことを愛しておられるんですね(泣)
私も及ばずながら、全力でお手伝い致します」
「……にしてもだ。
いくら愛が重くても、リアルに届けられなけりゃ意味がねえ。現状で俺等素人がこれ以上もがいても、あまり得られるものはなさそうだぜ」
「しかし、事を大きくしたくない、というご希望なのですよね?」
「サプライズなんだよ、このプロジェクトは。
ほーらロインちゃんに服屋さんを作ってあげたよー。
わーいステキ!アキラ大好き♥
はっはっは、ロインのためならこのくらい安いもんさー。
……てな結果が欲しいわけだよ、諸君」
女子二名が露骨に嫌そうな顔になった。
「……な、なんだよ」
「「……」」
「お、俺は、ロインちゃんに人気出たいんだよお! どっかおかしいかよ!」
「……いえ。お気持ちはよく分かります」
「ありがとう、ラミハちゃん(泣)」
二人はがっしと手を握り合った。
「それにしても、このままですとその本懐を遂げることは難しいと存じます。ここは諦めて専門家を呼んだ方がよろしいのでは……」
「まあ、リアルに考えりゃあ、そうだよな。誰か、秘密を守れるやついないか?」
すると、背後から私服の護衛が声を掛けてきた。
外見年齢四十代ほど。
私服を着ていても中身は軍人、鍛え上げられた「わがままマッシブボディ」がそのアウトラインを誇示している。
「陛下、無礼を承知で申し上げます。発言の機会をお許し頂ければ、お役に立てるやもしれませんが――」
「OK頼むよ。こっち座って。名前は?」
晶が空いていた椅子を引いて促した。
「リバでございます」
「分かってると思うけど、今はお忍び行動中だからな。ふつーに、友達のふりしてくれ。いいかい?」
「分かりました、へい……アキラ様」
「呼び捨てとか君でいいよ。リバさんの方が年上に見える」
「……少々気が引けるので、アキラさん、でよろしいですか」
「ああ。で、リバさんのプランを聞かせてよ」
「実は――――」
魔王軍・親衛隊長、リバ中佐の提案とは。