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第42話 魔王と侍女の市場調査

「あー……。思ったより骨が折れそうだなあ」


 城下のカフェで一服している魔王がぼやいた。

 侍女二名+私服の護衛を連れて外出したはいいが、いくら既製品を売る衣料店とはいえ、工業化・規格化が進んでいるわけでもないので、デザイン・寸法・素材・価格などの統計を取ろうにも埒があかない。

 そもそもこの世界の住人のサイズ規格すら存在しないのだから、昨日今日この世界に来た素人が、吊るしの服屋を始めることにかなりのムリがあった。


「参ったなあ……」

「はい……アキラさんは、どんな服を売りたいんですか?」


 頭を抱える晶にラミハが尋ねた。


「う~ん……、やっぱロインに似合う服、かなあ」

「それお店にする必要なくないですか?」

「そうだった。まあ、若い女性向け、という点は決まってるけど、あとはノープランなんだよね~……」


 ずっと黙って話を聞いていたマイセンが口を開いた。


「これが叔父上だったら、いきなり服を量産して開店しているところです。やはりへい……、アキラさんは慎重ですね。先に調査をされるとは。このマイセン、お見それ致しました」


「そりゃそうだろ、最初から失敗するつもりで事業を興す奴はいないよ。

 ――まあ、つもりがなくても、後先考えないバカは多いけどさ。

 だけど、俺が特別慎重だとは思ってねえよ」


「思いの外、慎み深い方なのですね。このマイセン、感服致しました」

「俺のこと何だと思ってんだよ、ったく……。

 俺はただ、好きな女の願いを叶えてやりてえだけの、ケチな男さ」

「そんなにまでお嬢様のことを愛しておられるんですね(泣)

 私も及ばずながら、全力でお手伝い致します」


「……にしてもだ。

 いくら愛が重くても、リアルに届けられなけりゃ意味がねえ。現状で俺等素人がこれ以上もがいても、あまり得られるものはなさそうだぜ」

「しかし、事を大きくしたくない、というご希望なのですよね?」


「サプライズなんだよ、このプロジェクトは。

 ほーらロインちゃんに服屋さんを作ってあげたよー。

 わーいステキ!アキラ大好き♥

 はっはっは、ロインのためならこのくらい安いもんさー。

 ……てな結果が欲しいわけだよ、諸君」


 女子二名が露骨に嫌そうな顔になった。


「……な、なんだよ」


「「……」」


「お、俺は、ロインちゃんに人気出たいんだよお! どっかおかしいかよ!」

「……いえ。お気持ちはよく分かります」

「ありがとう、ラミハちゃん(泣)」


 二人はがっしと手を握り合った。


「それにしても、このままですとその本懐を遂げることは難しいと存じます。ここは諦めて専門家を呼んだ方がよろしいのでは……」

「まあ、リアルに考えりゃあ、そうだよな。誰か、秘密を守れるやついないか?」


 すると、背後から私服の護衛が声を掛けてきた。

 外見年齢四十代ほど。

 私服を着ていても中身は軍人、鍛え上げられた「わがままマッシブボディ」がそのアウトラインを誇示している。


「陛下、無礼を承知で申し上げます。発言の機会をお許し頂ければ、お役に立てるやもしれませんが――」

「OK頼むよ。こっち座って。名前は?」


 晶が空いていた椅子を引いて促した。


「リバでございます」

「分かってると思うけど、今はお忍び行動中だからな。ふつーに、友達のふりしてくれ。いいかい?」

「分かりました、へい……アキラ様」

「呼び捨てとか君でいいよ。リバさんの方が年上に見える」

「……少々気が引けるので、アキラさん、でよろしいですか」

「ああ。で、リバさんのプランを聞かせてよ」


「実は――――」


 魔王軍・親衛隊長、リバ中佐の提案とは。

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