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第40話 宰相のプレゼン、紛糾する

「そこで私は、まずこのキャラクターを商品化したいと存じます!」


 お茶の間に置きっ放しになっていた晶の色鉛筆を使って、モギナスがフリップに描いたイラスト――それは。


「……なんじゃソレ」

 国王陛下からは塩反応。

 初手で掴めていない。


 自信満々に公開されたそのイラストを見て、他の女子たちも渋い顔でヒソヒソ話をしている。

 しかし、渋い顔にもなろうというものだ。なぜなら――


「おま、それ、夢の国のキャラちゃうやんか……」


「え?」


「つか……マジでそれイケると思った? どのへんが? ねえねえ?」

「このキャラクターは……イケて……ないのですか?」


 女子たちが、プークスクスしている。


「あ、あなたたち! どこがおかしいのです!? 言ってごらんなさい!!」

 モギナスが青筋を立ててキレ始めた。


「だってえ……それ……ぷっ」

「あんまり笑ったら失礼よ、ラミハ」

「す、すみませんお嬢様」

「だから謝るならモギナスでしょ……ぷっ」


「キーッ! あ、あなたたち! だから何がそんなにおかしいのです!」


「俺から説明していいものかどうなのか。だってこの世界の人のセンスとか分からねえしなあ~。少なくとも日本基準では、まあ……アウトだな。あんたはどうよ、マイセン?」


「そうですねえ……。何と申し上げればよいか。叔父上には誠に申し訳ないと思うのですが……」


 普段はキレキレのマイセンも、さすがに今回は歯切れが悪い。


「私に遠慮することはありませんぞ。言いたいことがあればおっしゃいなさい」

「そうですか……」


 マイセンはすっと席を立つと、土産物の山を漁り、モギナスの描いたイラストの元となったブツを掘り出して、モギナスの横に立った。


「叔父上、その紙芝居、拝見致します」

「ど、どうぞ」


 マイセンは紙の束を受け取ると、一通り目を通した。


「叔父上、聞きたくなければ、耳をお塞ぎくださいませ」

「い、いや、伺おうじゃないですか」


 思いっきり彼の顔が引きつっているのが、誰の目にも明かだった。


「……まず、このキャラクター。陛下のおっしゃるとおり、夢の国のものではありません。こちらのガイドブックなる書物にも記載がございません。そして――」


 マイセンは、ポケットティッシュを掲げた。


「この、折りたたんだ薄紙の台紙に書かれたものと一致します。陛下にお伺い致します。この薄紙の目的は何でございますか」


「はい、魔王発言します。

 まずその物体、ポケットティッシュというものですが、人通りの多い往来で、無料で配られているものです」


 無料の言葉にざわつくギャラリー。


「ただバラ撒いているわけではありません。景品つきの宣伝ビラのようなものです。この台紙にご注目下さい」


 マイセンが皆に見えるように、ティッシュの広告部分を見せている。


「そこには、企業の宣伝が書かれています。日本ではこのような宣伝方法は一般的で、企業を始め、様々な店舗やサービスなど、いろんな団体が使用しております。

 さて、こちらのティッシュ。内容は、まあどうでもいいのだけど、参考までに翻訳すると、広告主は金貸し。利子がいくらいくらとか、店の住所なんかが書かれています。ここに添えられているキャラクターは、金貸し会社のオリジナルキャラクター……なんだけど、複数のキャラクターを寄せ集めた、合体事故を起こした何かっぽいもので、デザイン的に全く整合性が取れておりません。つまり、かっこわるい」


 女性陣がうんうんとうなづいている。


「かたや。夢の国のキャラクター群は、プロの手によって作り出され、何十年も前から世界中で親しまれている、いわば本物のスーパーキャラクターたちです。

 そんな、プロのキャラがにわか作りのパチ物に負けるでしょうか」


 女性陣がブンブンと首を振っている。


「あまりモギナス氏を叩くのも不憫なので気が引けるのですが、夢の国のキャラクターを見た後で金貸しキャラを見ると、その差は歴然であります。しかし、初見の方には、まあこれでもそれなりに見えないこともないでしょう」


「私には、そこまでひどいものには見えなかったのでございますが……」


「こういう物には馴れだとか、感性の親和性だとか、民族性だとか、まあいろんな要素がありますが、受け付けない人、見分けがつかない人など、受け取られ方は様々です。なので、確かにこのチョイス、失笑を買うのも致し方ないとは思うものの、使用するに忍びない……というほどひどいものでもありません」


「ですよねえ、陛下」


「しかーし! こと、キャラクタービジネスという観点で見れば、一発アウトなことに違いはありません」


「トホホ……」


「モギナスには悪いけど、こいつは決め球には使えねえんだよ……。

 あ、俺しゃしゃり過ぎたか。すまん、マイセン」


「いえ、陛下。十分に解説して頂きました。この程度のものを商品化するために、国庫から出資することは金を捨てるようなもの。商品化する計画そのものを否定するものではございませんが、いかんせん、選んだ図柄がお粗末過ぎて。

 ここまで意気込んで用意した叔父上を諦めさせることは容易ではございませんでしたので、気の毒とは思いましたが指摘させて頂いた次第でございます」


「あうう……」


 最早ぐうの音も出ないモギナス宰相。


「というわけで、どのキャラクターのグッズを商品化するか、皆で選びたいと思います。よろしいですね、陛下」


「もちろん。モギナスもそれでいいな? あとのことは任せるから、今回は諦めろ」


御意


 ――その後、会議は夜遅くまで続いた。


                  ☆


 数日後。

 試作品が完成し、お茶の間でお披露目会が開かれた。


「では、記念すべき商品第一号をごらんください!」


 テーブルの上に被せられた布を、モギナスが一気に取り除いた。



 ――そこにあったものは。



「おお、よく出来てるな。再現度高いぞ。でも、見た目だけじゃあ分からないよな」


「陛下からどうぞ」


「うん。では失礼して」


 晶は合掌した。


「いただきます」



 銀のトレーに並べられたそれは、ビルカが帰国した際に持っていた、あの細長い揚げ菓子だった。

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