翌日のお茶の間。
モギナスがなにやら話があるらしい。
「えー、こほん。さて、本日お集まり頂きましたのは、先代魔王様によって散財しました国庫の補填についてでございます」
「こないだの金塊? それとも戦争?」
「戦争の方でございます、陛下。いくら国庫が寂しいと申しましても、先日の金塊程度で傾くような国ではございません。それこそ、城の者をほとんど解雇しなくてはならなくなりましょう」
「あー、そこまでじゃないんだ……」
「当然の話でございますが、我が国だけで回すお金は量が知れておりますし、国民から吸い上げるだけで国庫に貯め込んでいれば、いずれ国が滅びましょう」
「そうだな」
「かといって、周辺諸国から戦勝国特権で金を巻き上げても、長い目で見ればやはりマイナスでございます」
「そこいらが寿命の短い人間とは視点の違うとこだよな。スパンが違う」
「そこで。周辺諸国から、当たり障りなく金を薄く広く集める手段として!」
ドン!
モギナスは皆の前に紙の束を、紙芝居かフリップのように立てた。
「夢の国グッズの販売をしたいと思います!!」
「パクリかよ! つか、これからプレゼン始めるのかよ!」
モギナスは細い目を、眠った猫の目のように弓なりにし、口元も思いっきり吊り上げて、気色の悪い笑みを浮かべた。
「陛下のおっしゃるとおり、ぶっちゃけこれはパクリ企画です」
「やっぱり」
「ですが……。ここはかの国の法の及ばない、異世界でございます」
「そう来たか」
「いきなり全てを模倣、商品化しては、貴重な資産があっという間に無くなってしまいます。ですから、すこしづつ商品化して、細く長く商売をしようという次第で」
「ま、現状で俺があっちに戻れねえから、商材の補充が出来ない。今あるもので極力稼ごうと思えば、その判断は正しいだろうな」
「昨日陛下から伺った、キャラクタービジネス、というもの、私大変感銘を受けました。確かに、このような可愛らしいキャラクターに人は愛着を持ち、感情移入を致します。つまり、ファン? というものになって頂ければ、いろんなものを購入して頂けるようになる、そういうからくりで……ございましたよね? 陛下」
「そうだ。モギナスの言うとおりだ。
俺のいた国、日本というのだが、その国では、こういったキャラクタービジネスがとても盛んだ。
残念ながら夢の国のキャラクターはアメリカという国のものではあるが、それでも日本には数限りないキャラクターが存在し、キャラクタービジネスという戦場で生き残りを掛けた死闘を繰り広げている。
俺はその世界の片隅で、絵やマンガを描く仕事を薄給で請け負っていたんだ。ちなみに、この本に書かれている絵巻、それをマンガと言う」
晶はそう言って、土産袋に入っていたマンガ雑誌を皆に見せた。
その場にいた全員が、おお……、と感嘆の声を上げた。
「アキラ、こないだ晩餐会で言ってた、その……みささってまさか……」
晶は、ロインにこくりとうなづいた。
「済まなかったな。ありのままをお前やパパ上に話して聞かせても、全く理解出来ないだろうと思って、ある程度の脚色を加えたんだ。騙して悪かった」
「しょうがないよ……。だって、文明が違うんだもん……」
「モギナス、話を中断させて申し訳ないが、この機会に彼女に説明しておきたいことがある。いいか?」
「お望みのままに」
晶は、みささがキャラクターの一つであること、非モテ男性の多くが実在の恋人の代わりに二次元の嫁を持っていること、みささが二次元の嫁であることを手短に説明。そして、二次嫁への恋慕は、信仰に近いということも織り込んで、極力キモがられないよう配慮もした。
さらに、晶の主戦場であった同人誌の話は、原作と二次創作の概念を経典と外伝、模倣、異聞、などに置き換えて詳しく説明した。
「先ほどから伺っておりますと、原初の星では、実に複雑な文化が発展していたのですね……」
「原初の星とは、地球のことだな?」
「左様でございます」
「このような商売であれば、諸国の人間たちも不快感を持ちますまい」
「そうだ。キャラクターは国境を越える。それは地球で今実現していることだ。人の本質が同じなら、こちらでも通用するはず」
モギナスはフリップを一枚入れ替えた。
「そこで私は、まずこのキャラクターを商品化したいと存じます!」
お茶の間に置きっ放しになっていた晶の色鉛筆を使って、モギナスが描いたイラスト――それは。