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第38話 古竜神と一族のルーツ

「その頃じゃよ。儂がこの一族の連中や国民を連れて、お前のいた世界からこっちに移住したのは」


「「「「「「え――ッ!?」」」」」」


 まさかの爆弾発言。


「儂等は、お主と同じ、地球生まれなのじゃよ」

「ま、マジすか……」

「王族で転移魔法を持つ者が、あちらとこちらを容易に行き来出来るのは、元々いた世界だったからじゃ」

「そっかー……。だから、違う世界から来た勇者さんを送り返してあげられなかったんだ」

「彼の者の世界が、いま少し我等と近いものであれば、送ってやることも出来ただろうがのう……」

「猊下。一万年前、何があったんですか」


「アキラよ。魔王となったお前が知らんでは困るからの。教えてしんぜよう。

 かつて地上では、進みすぎた文明のために人同士で争い、神々の世界でもまた争いがあった。どこもかしこも滅茶苦茶で、儂等は民のため遠くへ逃げることに決めた」


「それでここへ?」


「左様。儂の魔力を使い、かつての国王が国ごと転移させた。それがこの国じゃよ」

「スケールでけえ……」

「うわあ……」

「かっこイイ……」


「でも、なんでこの国の人は人間なのにみんな魔法とか使えるんだ? どう見ても魔族っぽくないんだが……」


「魔族っぽくないか。それは後世、人が造り出したイメージじゃな。

 人間たちの言う魔族とは、悪魔ベースじゃろ?

 違うのじゃ。魔法の魔、の方なのじゃよ」


「そっち?! なんで魔法使えるの」

「それは神族の末裔だからじゃ。だいぶ血は薄くなっておったがな」

「なんか思ってたんとちゃう……。むしろ逆じゃんよ……」

「魔族って神様の子孫なの? 教会で言ってたのと違う」

「教会でデマでもバラ撒いてたんか、こっちの連中は。ったく……」


「ふうむ。

 あちらの世界もこちらの世界も、およそ人の考えることは似たようなものだの。

 ――一神教を作り、古の種族を貶めたり、取り込んだり、敵としたり。

 儂等はあまり人を寄せ付けず、干渉せずに暮らしてきた。しかし……」


「いい暮らししてるからって、勝手に悪者にされてインネンつけられたって話か」

「雑な言い方をすれば、そうじゃの。

 ――アキラよ」

「はい」


「主とその娘との婚姻で、益々、人と魔族との垣根が薄らいでいくであろう。今後この流れは止められぬ。しかし、同時に儂は危惧しておる。

 儂等が来たがために、この世界が再び焼かれるようなことになってはならぬ。

 せめて、知恵、技術だけは、極力渡さぬようにせねば。人の子の考えることなど、悪いことしかないのが常じゃ。良かれと思っていても結局悪用する奴が現れる」


「よく言ったもんだぜ。科学は使う者によって、神にも悪魔にもなれる力だと」


「アキラよ。それでも人が科学を使うのをやめないのは何故だか分かるか?」


「……人だから。それ以上でも、以下でもねえ。俺はそう思ってる」


「その通りじゃ。しかし、それを人に言えば、理解はされぬ。故に、交わることを恐れる。分かるな?」


「ええ、まあ……」



 ☆ ☆ ☆



 晶は自室のベッドに寝転び、考え事をしていた。

 己の行動が、この世界に悪影響を及ぼす可能性、それを回避する方法……。

 だが、そんなもの、いくら考えても分からなかった。

 いくら魔王の血を引いているとはいえ、ただの平凡な男だったのだから。


「ねえ、どうしたの、アキラ? そんな怖い顔して……。竜神様とのお話の後、晩ごはんのあいだも、ずーっとヘンだったよ」


 ロインはベッドのへりに腰掛け、アキラの髪を撫でつけた。


「俺は……世界とお前を天秤に掛けられたら、迷わずお前を取るからな」

「もしもだけど、この世界に私達の居場所がなくなったら、私、アキラの世界に行ってもいいよ」

「ホント?」

「だって、……あっちには夢の国があって、あんな綺麗なお城もあって……。私あのお城で結婚式したい」

「ダメ。却下」

「なんでよ~。一秒で却下とかありえない」

「ありえねーのはお前の脳味噌だよ。ったく……殊勝なことでも言い始めんのかと思えば、なにがデレラ城で結婚式だよ。ムリ。絶対ムリ。金銭的にムリ」

「なによその金銭的にって」

「こないだビルカが早々に帰ってきたろ? 何でかわかってる? 金がないからでしょ?」

「……まあ」

「あっちは何をするにも金がかかる。金がないと生きていけない世界なの。で、あっちの俺は貧乏暮らし。お前一人を養うのも難しい。そんな状況でだな、家が買えるような金額のウェディングとか、出来るわけねーだろボケ」

「ボケとかひどい……」

「……悪かった。だけどな。お前はここじゃないと生きていけないんだよ。向こうに連れていったら、確実に不幸になる。最悪、心中だ」

「心中……」

 ゴクリ。

「俺とお前が、ここで、ずっと幸せに暮らせるように、俺、努力するから」

「うん……」


 晶はロインの体を引き寄せると、ぎゅっと抱き締めた。

 胸越しに、彼女の鼓動が伝わる。


 護りたい。

 ロイン。

 此の世で一番大切な、命。

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