「その頃じゃよ。儂がこの一族の連中や国民を連れて、お前のいた世界からこっちに移住したのは」
「「「「「「え――ッ!?」」」」」」
まさかの爆弾発言。
「儂等は、お主と同じ、地球生まれなのじゃよ」
「ま、マジすか……」
「王族で転移魔法を持つ者が、あちらとこちらを容易に行き来出来るのは、元々いた世界だったからじゃ」
「そっかー……。だから、違う世界から来た勇者さんを送り返してあげられなかったんだ」
「彼の者の世界が、いま少し我等と近いものであれば、送ってやることも出来ただろうがのう……」
「猊下。一万年前、何があったんですか」
「アキラよ。魔王となったお前が知らんでは困るからの。教えてしんぜよう。
かつて地上では、進みすぎた文明のために人同士で争い、神々の世界でもまた争いがあった。どこもかしこも滅茶苦茶で、儂等は民のため遠くへ逃げることに決めた」
「それでここへ?」
「左様。儂の魔力を使い、かつての国王が国ごと転移させた。それがこの国じゃよ」
「スケールでけえ……」
「うわあ……」
「かっこイイ……」
「でも、なんでこの国の人は人間なのにみんな魔法とか使えるんだ? どう見ても魔族っぽくないんだが……」
「魔族っぽくないか。それは後世、人が造り出したイメージじゃな。
人間たちの言う魔族とは、悪魔ベースじゃろ?
違うのじゃ。魔法の魔、の方なのじゃよ」
「そっち?! なんで魔法使えるの」
「それは神族の末裔だからじゃ。だいぶ血は薄くなっておったがな」
「なんか思ってたんとちゃう……。むしろ逆じゃんよ……」
「魔族って神様の子孫なの? 教会で言ってたのと違う」
「教会でデマでもバラ撒いてたんか、こっちの連中は。ったく……」
「ふうむ。
あちらの世界もこちらの世界も、およそ人の考えることは似たようなものだの。
――一神教を作り、古の種族を貶めたり、取り込んだり、敵としたり。
儂等はあまり人を寄せ付けず、干渉せずに暮らしてきた。しかし……」
「いい暮らししてるからって、勝手に悪者にされてインネンつけられたって話か」
「雑な言い方をすれば、そうじゃの。
――アキラよ」
「はい」
「主とその娘との婚姻で、益々、人と魔族との垣根が薄らいでいくであろう。今後この流れは止められぬ。しかし、同時に儂は危惧しておる。
儂等が来たがために、この世界が再び焼かれるようなことになってはならぬ。
せめて、知恵、技術だけは、極力渡さぬようにせねば。人の子の考えることなど、悪いことしかないのが常じゃ。良かれと思っていても結局悪用する奴が現れる」
「よく言ったもんだぜ。科学は使う者によって、神にも悪魔にもなれる力だと」
「アキラよ。それでも人が科学を使うのをやめないのは何故だか分かるか?」
「……人だから。それ以上でも、以下でもねえ。俺はそう思ってる」
「その通りじゃ。しかし、それを人に言えば、理解はされぬ。故に、交わることを恐れる。分かるな?」
「ええ、まあ……」
☆ ☆ ☆
晶は自室のベッドに寝転び、考え事をしていた。
己の行動が、この世界に悪影響を及ぼす可能性、それを回避する方法……。
だが、そんなもの、いくら考えても分からなかった。
いくら魔王の血を引いているとはいえ、ただの平凡な男だったのだから。
「ねえ、どうしたの、アキラ? そんな怖い顔して……。竜神様とのお話の後、晩ごはんのあいだも、ずーっとヘンだったよ」
ロインはベッドのへりに腰掛け、アキラの髪を撫でつけた。
「俺は……世界とお前を天秤に掛けられたら、迷わずお前を取るからな」
「もしもだけど、この世界に私達の居場所がなくなったら、私、アキラの世界に行ってもいいよ」
「ホント?」
「だって、……あっちには夢の国があって、あんな綺麗なお城もあって……。私あのお城で結婚式したい」
「ダメ。却下」
「なんでよ~。一秒で却下とかありえない」
「ありえねーのはお前の脳味噌だよ。ったく……殊勝なことでも言い始めんのかと思えば、なにがデレラ城で結婚式だよ。ムリ。絶対ムリ。金銭的にムリ」
「なによその金銭的にって」
「こないだビルカが早々に帰ってきたろ? 何でかわかってる? 金がないからでしょ?」
「……まあ」
「あっちは何をするにも金がかかる。金がないと生きていけない世界なの。で、あっちの俺は貧乏暮らし。お前一人を養うのも難しい。そんな状況でだな、家が買えるような金額のウェディングとか、出来るわけねーだろボケ」
「ボケとかひどい……」
「……悪かった。だけどな。お前はここじゃないと生きていけないんだよ。向こうに連れていったら、確実に不幸になる。最悪、心中だ」
「心中……」
ゴクリ。
「俺とお前が、ここで、ずっと幸せに暮らせるように、俺、努力するから」
「うん……」
晶はロインの体を引き寄せると、ぎゅっと抱き締めた。
胸越しに、彼女の鼓動が伝わる。
護りたい。
ロイン。
此の世で一番大切な、命。