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第37話 前魔王のおみやげ

 朝食後。

 とうとうその時が来てしまった。

 晶はおなかが痛くなってきた。


「前々から気になってたんだよね~~~~。その、元魔王の置いてったやつ」

 部屋の隅に置いてある、場違いな物体を指差してロインが言った。


「私も気になります~、お嬢様~」

 ラミハもワクワクが止まらない。


 地球ですら、数多の女子のハートを掴んで離さない、あの、夢の国の残滓。

 絶対に行きたいと言い出すに決まっている。

 ……やはり隠しておくべきだったのか。

 しかし、モギナスの手前、勝手に動かすわけにもいかず、このザマである。


「いいか? モギナス」

「そうですねえ。ビルカ様がお前らにやる、と言っておられた物ですし、私の一存で置きっぱなしにしておくのもアレですから……。

 ――まあ、私も興味がないわけでもありませんしね」

「んじゃやるか。みんな、テーブルの上のもんどけろ」


 ティーカップやらお菓子やら果物のボウルやら、おのおのが読んでいた本などが片付けられると、晶は夢の国の手提げ袋をテーブルの上でひっくり返した。


 ドササー、と出てくる出てくる、細々とした夢の国グッズたち。


 他には、ナンパしたJKと撮影したと思しきプリクラや、夢の国ガイドブック、どこぞの駅前でもらったポケットティッシュや漫喫のチラシ、マンガ雑誌数冊、ガムの包み紙、コンビニのレシート、牛丼屋の割引券、使用済み爪楊枝、漫喫で失敬したとおぼしき大量のスティックシュガー、ネトゲのチラシ、そしてコンドーム。


「わーこのピラピラしたキラキラしたのなに~」


 さっそくロインがコンドームに食いついてしまった。


「それは、俺の世界の避妊具だ」


 ロインは顔を真っ赤にして手を引っ込めた。


「ビルカ様ったら、相変わらず子孫を残すのがお嫌いのようですね」

「ちげーよモギナス。避妊はエチケットだよ。遊びでセックスする相手をいちいち妊娠させてたら、たいがいの男は破産すっからな」

「OH……」

「使ってみるか? モギナス」

「考えておきます」


 アキラはゴミとその他を選り分け、グッズを種類別に並べた。

 目をギンギンに光らせてお土産を見ている女子連中とは、別のよこしまさで見ている男が一人。


「陛下、これらは全て大量生産品……と考えてよろしいので?」

「そういうことになるな」

「お値段の方はどのくらいで……」

「だいたいこのガイドブックに載っているようだが、銅貨1枚が10円換算ぐらいだな」


 値段の読み方を教える魔王。


「な……こ、このような工芸品がこここ、こんな安価で……」

「そりゃ人の手で作ってるわけじゃねえから。機械でいっぺんにたくさん作るから安いんだよ」

「それでは職人があまりに……。生活出来ません」

「――ああ。だから俺の世界には、職人はほとんどいねえよ」

「な……。なんと、無慈悲な」

「人間の仕事は、機械の面倒を見たり、材料を機械に入れたり、機械の作ったものを検品したり箱詰めしたり……。ああそれも今ではかなり機械化されてっけどな。あとは、機械に命令を出したり、機械に作らせるものをデザインしたり、材料を買い付けたり、と他の仕事をするようになったんだ」

「まるで機械を中心に物事が回っているようですね」

「それが機械文明、科学文明の世界だ。でも、どこでもそう、ってわけじゃなく、文明の遅れている国ではまだ職人が仕事をしている分野もあるよ」

「そう、ですか……」

「どうしたんだ? 考えこんで」

「この王家に伝わる戒律、とでも言いましょうか。……進みすぎた文明は人を殺す。いたずらに技術を進ませることなかれ。そして、技術を人に与えることなかれ」

「そのとおりだ。俺のいた世界では、遠い過去に文明が滅んでいる」

「……それは、いつ頃のことでしょうか」

「多分、一万年ぐらい前だ」


 急に、テーブルに立てかけられた薬師の杖から、にょろりと古竜神が首を出した。


「その頃じゃよ。儂がこの一族の連中や国民を連れて、お前のいた世界からこっちに移住したのは」


「「「「「「え――ッ!?」」」」」」

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