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第35話 女騎士さん、結果発表

 ロインがこの一週間、ダブルメイドのしごきに何度もくじけそうになりながら、やっと迎えた最終日。


 途中、脱走して捕まったことは一度や二度ではなかった。

 その度に、主人の生態を熟知したラミハに速攻で捕獲されていた。


 昼夜問わず監視がつき、プライベートはトイレと自室のみという、以前よりも厳しい軟禁生活を送っていたのだった。


                  ☆


 晶とロインは、寝室で朝を迎えていた。


「ようやく最終日だな、ロイン」

「サーイェッサーッ!」

「シーツにシワはないか」

「サーイェッサーッ!」

「パジャマは正確に畳み、所定の位置に置いたか」

「サーイェッサーッ!」

「休め!」


 晶は腕組みをし、下から上へとロインを見て、指差しチェックする。


「靴よし」

「ワンピースよし」

「髪よし」

「メイクよし」


「う~ん。完璧だ。室内も散らかることなく、全てが以前より美しい……。最早、あの二人の手を借りるまでもなくなっているな」

「……大丈夫、でありますか、教官」

「大丈夫だ、問題ない。さあ、あと1分。――やつらが来る!」


 ガチャリ。


「「おはようございます!」」

「おはよー」

「おはようであります」


 侍女二名は、一分の隙も見逃さない、といった、まるで特高か秘密警察のような風情で室内をチェックしはじめた。


 休めの姿勢で真っ直ぐ前だけを見つめるロイン。

 その視線の先には、ただ壁だけがあった。


 緊張した時間が流れる。


 二分ほどして、マイセンが口を開いた。


「合格です。この一週間、お疲れさまでした、お嬢様」

「お疲れさまでした、お嬢様」


「サーイェッサーッ!」


「よかったな、ロイン」


「サーイェッサーッ!」


「あの……陛下。よくお嬢様をここまで調教し……と言いたいのですが、このかけ声は一体?」

 困惑顔でマイセンが尋ねた。


「ああ……。こっちの世界の人に説明するのはすごく難しいんだよなあ。実際に見てもらえれば一発で分かるんだけど」

「はあ……」

「これは、俺のいた世界の軍隊で行われている、新兵訓練の際のしきたりのようなものだ。上官の質問や命令には、全て『サーイェッサーッ!』と返事するんだ」

「なんと、陛下は軍事教練にも通じていらっしゃったとは。感服です。このマイセン、お見それいたしました」

「お、おう……」


「あああ、私が何年かかっても教育出来なかったお嬢様を、この魔族な人が、魔族な人が、ががががが」


 あまりにも見事なロインの仕上がりに、ラミハがアイデンティティーの崩壊を始めてしまった。


「でもなあ……ロインよ」

「サーイェッサーッ!」

「うう……。そろそろそれしか言わないのやめないか?」

「何故でありますか、教官殿」

「だって俺、教官じゃねえし。お前のフィアンセだし」

「そう呼べと言われたのは教官殿であります」

「あちゃあ……」

「これはこれで、別の問題が発生してしまったようでございますね、陛下」

「どうしよう……(泣)」

「どうしよう……。も、もしかして、お嬢様は、何かを強制的に覚え込ませると、それしか出来なくなるタイプかも……だから今まで拒否しつづけてきたのかな……」

「もしかして我々は取り返しのつかないことをしてしまったのでは……」

「マジかよ……。俺の責任だ。俺がブートキャンプ方式なんて仕込まなければ……」


 マイセンが白い顔をさらに蒼白に、ラミハは半泣きになってきた。

 晶、マイセン、ラミハの三人は、やってはいけない事をしてしまった、という罪悪感でしばし無言だった。


「と、とにかく、何か方法を考えよう……」


 晶はロインを部屋に残し、マイセンとラミハの二人を連れて、まだ人気のないお茶の間に行った。

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