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第32話 女騎士さんの侍女がやって来た

「お嬢様~~~~~~~~~~っ! 置いていくなんてあんまりですうううう!!」


 バンッ!!

 お茶の間のドアを威勢良く開けて、若い女が入ってきた。

 年の頃は15、6。

 シンプルなデザインのモノトーンのワンピースに、白いエプロンドレス。

 有り体に言えば、メイドの格好だ。

 そして、大きな布鞄を背負っている。


「どうしたの、こんな早く。あとで迎えを寄越すって言ったのに」

「ダレ?」

「私の侍女。女学校行く前からほったらかしにしてた」

「どんだけ放置プレイだよ……」


 メイドはスカートの左右の裾をつまみ、腰を折って魔王に礼をした。


「あ、わわ、ま、魔王陛下におかれましては、お初にお目に掛かります!! わ、私、ロインお嬢様に長らくお仕えしております、侍女のラミハでございます!! 本日より、こちらのお屋敷でお嬢様のお世話をさせて頂くために参りました!!」


「お、おう……、よろしくたのむ。随分と元気のいい彼女だね……」

「あはは……」

「お嬢様のお部屋はどちらですか!! 今頃大変なことになっているはず!!」


 開けっ放しになっていたドアから、マイセンが入って来た。


「なんですか、朝から騒々しい。お嬢様、この田舎娘はどこのどなたですか」

「い、い、田舎娘ええ~~~!? だ、だれですか! このオバサンは!」

「すみません……私の侍女なの……」


 マイセンは、ふん、と鼻を鳴らすと侮蔑の眼差しで二人の小娘を睨んだ。


「飼い主が飼い主なら、家畜も家畜だわ……」


「あわわわ……」

 モギナスが慌てて、マイセンと、ロインたちの間に滑り込んだ。

「お二人とも、急いで謝りなさい! 大変なことになりますよ!」


「叔父上は関係ありません! お退き下さい!」

 と、マイセン。


「頼むから、早く謝って! じゃないと大変なことになりますよ!」

 モギナスの声が裏返って、半ば悲鳴のようだ。


「家畜とか言われて引き下がれますか! ねえお嬢様!」

「ええっと…………」


「――わかりました。貴女方のような下等生物には調教が必要ですね」

 マイセンはドスのきいた声で言うと、右手を突き上げ天に掲げた。


「ああああ――っ、ダメです~~~~~ッ!!」

 頭を抱えて絶叫するモギナス。


 マイセンが挙げた手のひらに、じわじわと光が集まっていく。

 その周囲では、パチパチと火花が飛び散る。


「え、なに、なんなの!?」

「お嬢様、お下がりください!!」

 ロインの前に立ちふさがる侍女。


「どうなんだこれ……ヤバいんじゃねえの……」

 先刻から傍観していた魔王・晶もただならぬ事態に、椅子から立ち上がった。


 パチパチ程度の火花が、誘蛾灯のように激しくバチバチと大きな音を立て、ほんのりとした明かりが、いまやはっきりと視認出来るほどの光球へと成長していた。


「やめなさい、マイセン~~~~ッ、たのむからやめてえええええ~~~~~ッ」


 次の瞬間、マイセンが掲げた手を振り降ろし、光球を投げつけた。

「砕け散りなさい!! 下等生物!!」


「上等だコラ!! クソババア!!」

「やめてええええ(泣)」

 叫ぶ侍女。その背中にすがりつくロイン。


「それは困る!!!!」

 非力なレベル1魔王の晶が、二人の前に飛び出した。


 バリバリバリバリ!!!!


 辺りには一瞬強い光が瞬き、激しい衝撃波と電気がショートする大きな音、そして何かの焦げる匂いと煙に包まれた。


 誰もが黒焦げ晶の完成を想像した。

 当人ですら。



 しかし、視界が開けてくるとそこには――



「美味であったぞ」

 古竜神が満足そうに、鎌首をもたげていた。

 ペロリと舌なめずりをすると、するりと薬師の杖の中に戻っていった。


「……助かった、のか?」

「はい、陛下。マイセンの雷撃を、猊下が全て飲みこんで下さったようで……」


 いまだ仁王立ちをしているマイセン。

 腕組みをしながら、目の前の少女に問うた。


「小娘、名は何という」


 少女も腕組みをして言い放った。


「私の名はラミハ!! お嬢様の盾となる者!!」

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