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第31話 女騎士さん、元の鞘に戻る

「なんでさ~、今のあっちの世界って、なんでもかんでも金かかんだよ~~~、すぐ金なくなるじゃんかよ~~~~~~~~~~~~」


「…………夢の国で散財しといて何だそれ。アホか」


 ビルカのあまりの計画性の無さに呆れる晶。


「だってよー。ナンパした女の子が夢の国に行きたいっていうからさ~」

「金もないのに、マジクソアホかよ。

 こっちの方は任せろとか何とかチョーシのいいこと言いやがって、おまそれで家賃とかどうする気だったんだよ、おっさん!」

「だってだって、そんな金かかる場所だなんて知らなかったんだもん」

「……もんって」

「とりあえず、ノリで買った土産物みんなやるから、何か金目のものを出せよ」

「サイテーだな。ヒモかよ!」

「チッ」

「そういう方なんです。済みません」

「なんでお前が謝ってんだよ、モギナス」

「じゃーもうしょうがないから、金出して。き・ん」

「宝石じゃダメなのか?」

「あのねえ、イマドキ大きな宝石なんか質屋に持ち込んだら、盗品かと思われて警察に通報されっぞ。比較的安全な金を持っていくんだ」

「なるほど……」

「あと、ちゃんと家賃とか払ってくれよ。じゃないと追い出されるから」

「おう。そんでよう、身分証ってのがなくてちょっと困ってんだよな」

「わーった。これ持っていけ」


 晶はポケットから、先日の悶着の原因となった免許証を出して、ビルカに手渡した。


「絶対に金とか借りるなよ! ブラックリスト入っちまうからな」

「お、おう……」

「ところで、俺って魔王になったんなら、転移の魔法とか使えるようになってんじゃねえのか?」

「あー……、確かにそうなんだが……。お前に分かりやすく言うとだな、俺の使える魔法を全部持っているものの、すべてレベル1だ。次元の壁を越えるには、レベルが足りない」

「…………とても分かりやすい解説ありがとう。で、使える魔法って、どうやったら分かるんだ?」

「……わかんねえのか?」


 こくこく。晶はうなづいた。


「子孫の割りには、素質なさ過ぎんだろお前」

「失敬な!」

「それでも、子孫の中ではお前が一番俺の血を濃く受け継いでるんだよなあ~」

「ぼやくのいいから、どーすりゃいいか教えろよ」


 ビルカは晶の頭に手を置くと、念を込めはじめた。

 晶は、頭頂部がどんどん暖かくなっていくのを感じた。


「はーい、データ送信しまーす」

「クソ軽いな、おっさん」

「お前に分かりやすいよーに合わせてんの」

「あっそっすか」

「じゃーちょっと静かに。目つむって。集中してくれ……」

「うい」


「…………」


「………………」


「…………………………」


「……まだ?」

「まだ? とか言ってるうちはマダだよーん」

「クッソイラつくおっさんだな、ファッキン!」

「はい集中集中……お前が才能ないのがいけないんだからな。俺に当たるな」

「ファッキン」


「…………」


「………………」


「…………………………」


「――あ。キタ。俺、確かに、レベル1だったわ……」


 すっ、とビルカの手が頭から離れる。


「どうだ」


「……だいたい、おk」


「あとなんか分かんねえことあったら、モギナスにでも聞け」


「うい」


 ビルカはふと、ロインをじっと見つめはじめた。


「じい~~~……」

「な、なんですか……。視線に卑猥なものを感じるんですが……」

「なあ、アキラ。この子さ、みさ――」


「ファイアーボール!!」


 覚え立ての炎魔法LV1を、ビルカの顔面めがけて撃ち込んだ。


「ボファッ、な、なにすんだ小僧!」

「ただの誤射だ、気にするな」

「気をつけろよ、いくら中身が俺でもこの体はまだ馴染み切ってねえんだから、傷ついたら修復に時間かかんだよ」

「モギナス、金の用意はまだか?」

「出来ております」

「ほら、金だ。これ持ってさっさと帰れ。あと家賃払え。光熱費もだぞ。いいな?」


 晶は、バックパックに満杯の金塊をビルカに押しつけた。


「なんだよ~せっかく帰ってきたんだからゆっくりさせろよ~」

「うるさい、今こっちゃ取り込み中なんだよ! 今すぐ帰れ!」


 ビルカは渋々バッグを受け取った。


「ったくもう、ジャマしたな。又来るぞ。あばよ!」

 そう吐き捨てると、ビルカはすっと姿を消した。


 元魔王を見送ると、晶はほっと胸をなで下ろした。


「ホントに行っちゃった」

「ふう、ヤレヤレだ」

「アキラ、ひどいよ!」


 ゴスッ! ラパナが杖で晶の頭をドついた。


「でっ! なにすんだよ!」

「私も連れてってもらおうと思ったのに!! なんで追いだしたの!!」

「取り込み中だからだよ!」

「むううう~~~~っ。知らない!」


 兎耳の薬師はプリプリ怒ってお茶の間から出て行ってしまった。



「……さて。邪魔者はいなくなった。本来の話を続けようじゃないか。ロイン?」

「え? あ、ああ。そうね……」

「おバカなお前さんに10回説明したけど理解出来なかった話をさ」

「……はい」

「家出する前の時点で説明してさ」

「……はぃ」

「理解出来たと自分で思える?」

「………………ごめんなさい」

「俺でも混乱するわ、こんな設定! それを、物わかりの悪いお前さんに、コンパクトにお伝え出来るわけねーだろが! ったく人の話もまともに聞かないで、勝手に腹立てて! なんだよお前は!」

「…………ごめん」


 晶は、半泣きになっているロインの頭に手を置いた。


「どうして俺を信じてくれなかったの?」

「…………ごめん」

「俺にはこの世にお前しかいない、って言ったじゃんか」

「…………うん」

「俺、お前がいなくなって、すごく悲しかった」

「ごめんね……」

「戻れるアテもなく、この世界にたった一人で、淋しい人生を送るかもしれない、そう思ったら……そんなのたまんねえだろ」

「…………うん」

「俺はお前と離れたくない。一部始終聞いて、お前はどうなの」

「……アキラも大変だったんだよね。いきなり連れて来られて……私と同じだ」

「そうだよ」

「異種族ばかりの、この街に閉じ込められて、ひとりぼっち」

「そうだ」

「私……何も知らずに……ホントにごめん……」

「いいさ」

「私こないだ、魔族でも大丈夫だとか、逃げたり嫌ったりしないとか、言ったそばから逃げ出して……。ホントにひどい女……」

「なあ、また、実家帰るの?」

「ううん。ここにいる」

「ムリしなくていいんだぞ」

「やっぱり、あの親と同じ家なんか住めない。改めて分かった」

「……実家にいたくないから、ここにいるの?」

「いじわる言わないでよ」

「いじわるじゃない。ただの確認だ」


 ロインは袖口で涙をぬぐって言った。


「……アキラと一緒にいたいから、ここにいる」


「おかえり、ロイン」


「ただいま」

 ロインは晶の首に抱きついた。

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