「なんでさ~、今のあっちの世界って、なんでもかんでも金かかんだよ~~~、すぐ金なくなるじゃんかよ~~~~~~~~~~~~」
「…………夢の国で散財しといて何だそれ。アホか」
ビルカのあまりの計画性の無さに呆れる晶。
「だってよー。ナンパした女の子が夢の国に行きたいっていうからさ~」
「金もないのに、マジクソアホかよ。
こっちの方は任せろとか何とかチョーシのいいこと言いやがって、おまそれで家賃とかどうする気だったんだよ、おっさん!」
「だってだって、そんな金かかる場所だなんて知らなかったんだもん」
「……もんって」
「とりあえず、ノリで買った土産物みんなやるから、何か金目のものを出せよ」
「サイテーだな。ヒモかよ!」
「チッ」
「そういう方なんです。済みません」
「なんでお前が謝ってんだよ、モギナス」
「じゃーもうしょうがないから、金出して。き・ん」
「宝石じゃダメなのか?」
「あのねえ、イマドキ大きな宝石なんか質屋に持ち込んだら、盗品かと思われて警察に通報されっぞ。比較的安全な金を持っていくんだ」
「なるほど……」
「あと、ちゃんと家賃とか払ってくれよ。じゃないと追い出されるから」
「おう。そんでよう、身分証ってのがなくてちょっと困ってんだよな」
「わーった。これ持っていけ」
晶はポケットから、先日の悶着の原因となった免許証を出して、ビルカに手渡した。
「絶対に金とか借りるなよ! ブラックリスト入っちまうからな」
「お、おう……」
「ところで、俺って魔王になったんなら、転移の魔法とか使えるようになってんじゃねえのか?」
「あー……、確かにそうなんだが……。お前に分かりやすく言うとだな、俺の使える魔法を全部持っているものの、すべてレベル1だ。次元の壁を越えるには、レベルが足りない」
「…………とても分かりやすい解説ありがとう。で、使える魔法って、どうやったら分かるんだ?」
「……わかんねえのか?」
こくこく。晶はうなづいた。
「子孫の割りには、素質なさ過ぎんだろお前」
「失敬な!」
「それでも、子孫の中ではお前が一番俺の血を濃く受け継いでるんだよなあ~」
「ぼやくのいいから、どーすりゃいいか教えろよ」
ビルカは晶の頭に手を置くと、念を込めはじめた。
晶は、頭頂部がどんどん暖かくなっていくのを感じた。
「はーい、データ送信しまーす」
「クソ軽いな、おっさん」
「お前に分かりやすいよーに合わせてんの」
「あっそっすか」
「じゃーちょっと静かに。目つむって。集中してくれ……」
「うい」
「…………」
「………………」
「…………………………」
「……まだ?」
「まだ? とか言ってるうちはマダだよーん」
「クッソイラつくおっさんだな、ファッキン!」
「はい集中集中……お前が才能ないのがいけないんだからな。俺に当たるな」
「ファッキン」
「…………」
「………………」
「…………………………」
「――あ。キタ。俺、確かに、レベル1だったわ……」
すっ、とビルカの手が頭から離れる。
「どうだ」
「……だいたい、おk」
「あとなんか分かんねえことあったら、モギナスにでも聞け」
「うい」
ビルカはふと、ロインをじっと見つめはじめた。
「じい~~~……」
「な、なんですか……。視線に卑猥なものを感じるんですが……」
「なあ、アキラ。この子さ、みさ――」
「ファイアーボール!!」
覚え立ての炎魔法LV1を、ビルカの顔面めがけて撃ち込んだ。
「ボファッ、な、なにすんだ小僧!」
「ただの誤射だ、気にするな」
「気をつけろよ、いくら中身が俺でもこの体はまだ馴染み切ってねえんだから、傷ついたら修復に時間かかんだよ」
「モギナス、金の用意はまだか?」
「出来ております」
「ほら、金だ。これ持ってさっさと帰れ。あと家賃払え。光熱費もだぞ。いいな?」
晶は、バックパックに満杯の金塊をビルカに押しつけた。
「なんだよ~せっかく帰ってきたんだからゆっくりさせろよ~」
「うるさい、今こっちゃ取り込み中なんだよ! 今すぐ帰れ!」
ビルカは渋々バッグを受け取った。
「ったくもう、ジャマしたな。又来るぞ。あばよ!」
そう吐き捨てると、ビルカはすっと姿を消した。
元魔王を見送ると、晶はほっと胸をなで下ろした。
「ホントに行っちゃった」
「ふう、ヤレヤレだ」
「アキラ、ひどいよ!」
ゴスッ! ラパナが杖で晶の頭をドついた。
「でっ! なにすんだよ!」
「私も連れてってもらおうと思ったのに!! なんで追いだしたの!!」
「取り込み中だからだよ!」
「むううう~~~~っ。知らない!」
兎耳の薬師はプリプリ怒ってお茶の間から出て行ってしまった。
「……さて。邪魔者はいなくなった。本来の話を続けようじゃないか。ロイン?」
「え? あ、ああ。そうね……」
「おバカなお前さんに10回説明したけど理解出来なかった話をさ」
「……はい」
「家出する前の時点で説明してさ」
「……はぃ」
「理解出来たと自分で思える?」
「………………ごめんなさい」
「俺でも混乱するわ、こんな設定! それを、物わかりの悪いお前さんに、コンパクトにお伝え出来るわけねーだろが! ったく人の話もまともに聞かないで、勝手に腹立てて! なんだよお前は!」
「…………ごめん」
晶は、半泣きになっているロインの頭に手を置いた。
「どうして俺を信じてくれなかったの?」
「…………ごめん」
「俺にはこの世にお前しかいない、って言ったじゃんか」
「…………うん」
「俺、お前がいなくなって、すごく悲しかった」
「ごめんね……」
「戻れるアテもなく、この世界にたった一人で、淋しい人生を送るかもしれない、そう思ったら……そんなのたまんねえだろ」
「…………うん」
「俺はお前と離れたくない。一部始終聞いて、お前はどうなの」
「……アキラも大変だったんだよね。いきなり連れて来られて……私と同じだ」
「そうだよ」
「異種族ばかりの、この街に閉じ込められて、ひとりぼっち」
「そうだ」
「私……何も知らずに……ホントにごめん……」
「いいさ」
「私こないだ、魔族でも大丈夫だとか、逃げたり嫌ったりしないとか、言ったそばから逃げ出して……。ホントにひどい女……」
「なあ、また、実家帰るの?」
「ううん。ここにいる」
「ムリしなくていいんだぞ」
「やっぱり、あの親と同じ家なんか住めない。改めて分かった」
「……実家にいたくないから、ここにいるの?」
「いじわる言わないでよ」
「いじわるじゃない。ただの確認だ」
ロインは袖口で涙をぬぐって言った。
「……アキラと一緒にいたいから、ここにいる」
「おかえり、ロイン」
「ただいま」
ロインは晶の首に抱きついた。