「――というわけで、急に話が変わって申し訳ないのですが……」
魔王城・謁見の間にて、城主・魔王アキラと、女騎士・ロインの父、テンダー卿が会見を行っていた。魔王の傍らには、ロインが。
「というわけで~パパ~、話変わっちゃったんで~」
「ああ……。なんとなく、こうなるんじゃないかと思っていたのですが……」
テンダー卿が頭を抱えている。
先日までは、縁談の話題を極力封じ込めるよう依頼されたので、それなりに尽力してきたつもりだったのだが――。
「その件につきましては、当方も誠意を表したく存じますので……」
「そこまでアキラが謝ることもないでしょ」
「ロインちゃんは黙ってなさい。これは俺とパパ上とのお話しなの」
「はーい」
「いや……陛下にそこまで仰っていただくようなことは何もしておりません。あの件に関してはお気にされることではないのですが……」
「……はい。そうですよねえ、やっぱ魔族と親戚とか困りますよねえ……」
「それもそうなんですが、実は、娘の友達のルーテさんのご実家のことで困っておりまして……」
「「あー」」
「あの、大量のヒットマンを送り込んだら全員返り討ちに遭って、生首の詰め合わせを送りつけられた事件の、あのルーテちゃんのご実家ですか」
「よくご存じで」
「だって最近うちにルーテとハーさん来たもん」
「なのですよ」
「なるほど……」
「で、結局あちらのご実家の要求って、娘さん? それとも金? 金なら素直に黒騎士卿から受け取ればよかっただけなのになあ」
「お金の用意が出来なくて、結局破産したみたいです。今はもう、私怨しか……」
「どういうことよ、パパ?」
「……あのご一家、もうおかしくなっちゃっててね。ルーテちゃんと彼氏の首を揃えて持ってこい、ぐらいのこと言いかねない勢いだよ」
「はじめは黒騎士卿の首だけで済んだのだろうが、とうとうそこまでか。しかし、己の娘を売り飛ばそうとしたのだから、既に魂も地に堕ちているだろうさ」
「同感です、陛下。私の所にも、彼等の居場所を教えろと使者が何度も来ているのですが、さすがに教えるわけにもいかず、追い返し続けている状況です」
「だが、時間の問題だろう。バウンティハンター協会の支部が店を開ければ、いずれは伝わることだ」
「なんとかしてよ、アキラ」
「ん~……。とりあえず、モギナス」
脇で聞いていたモギナスが一歩前に出た。
「は、陛下。万事お任せ下さい」
「モギナスに任せて平気なの?」
「失敬な、ロイン嬢。私が何年この城でお仕事しているとお思いで」
「だって~」
「とにかく、あの二人が逃げ隠れする必要のないよう、取り計らってくれ」
「御意」
「それって丸投げ?」
「うん、丸投げ。だって細かいこと俺わかんないもん」
「部下に丸ごと任せる方が、いい結果になることもあるんだよ、ロイン」
「ふうん……」
「何でもかんでも自分でやりたがる人間は、人の上に立つ資格がない。任せるべき人間を見極め、責任を己で負う覚悟を持つ。それが、人の上に立つ者だよ」
「覚悟かあ~」
「……あ、話が逸れてしまい、申し訳ございません陛下」
「いや、構わない。ルーテ嬢はロインの友人であるし、黒騎士卿はかつての部下だ。私とて無関係ではないのですよ。それで……話を一番最初に戻したいと思いますが」
「はい、陛下」
アキラは玉座から立ち上がり、テンダー卿の元へ歩み寄ると頭を下げた。
「お父さん!! お嬢さんを僕の嫁に下さい!!」
頭を深々と下げたまま、沈黙が流れる。
魔王、テンダー卿のいずれもが、困惑する中、先に口を開いたのは、テンダー卿だった。
「あの……こ、こういう場合、魔族の風習ではどう対応すればよろしいので?」
「ふつーに返事すればいいでしょ、パパ」
「そ、そうなの? わかんなくてパパすごく困ってるんだけど、ロインちゃん……」
「はーやーく! いーから!」
「あうう……」
「パパ!!!!」
「わ、わかった」
テンダー卿も、深々と頭を下げて言った。
「はい!! 娘をよろしくお願いします!!」
「やったーパパ! さいこー!」
☆
あきれがちに見ていたモギナスがぽつり。
「なんなんですか、この茶番は」