「で……。なんで兎とドラゴンがついてくるわけよ」
昼下がり、みんなで城下の洋菓子店にくりだした。
近隣諸国で評判の店が、いよいよこの魔王国の城下で出店した。
……という情報を、ロインがマイセンから得たからである。
「「観察だ」」
「政治局員だなまるで」
「時々わけわかんないこと言うよね、アキラ」
「魔王だからきにしないで」
「おやつが欲しいだけなら、ちゃんと買っていくのに」
「モギナスからお小遣いもらってっし、俺がいれば、だいたいの店でツケが効くからなー」
「魔王財布便利ーちょーべんりー」
「まるでATMみたいな言い方しないでくんない?」
「えーてぃーえむ、ってなによ」
「異国にある機械だ。無人の銀行みたいなもんだな。雑貨屋の店先や駅や港の待合に置いてあって、あらかじめ預金しておいた金を取り出すことが出来る」
「うわーべんりー。……なんで魔王国にはそれないの?」
「この界隈の国は、通貨がみんなコインだろ。その機械を使うには、発行する貨幣を紙幣にする必要があんのよ」
「しへい……?」
「こーいうやつ」
晶はポケットから財布を取り出し、日本銀行券を見せた。
「こ……これ、異国のお金? すごい……こまかい印刷……紙も薄いのに丈夫そう……ぞ、象嵌までしてある!!!! も、もも、ものすごい価値があるんじゃ……」
「その国では高額のがこういう紙のやつで、小さい金額のがコインなんだよ。たくさんお金がある時でも、持ち運びに便利だろ? 紙幣ってのはまあ、国が価値を保証する小切手みたいなもんだな。だから国が安定してないと、紙くずになっちまう」
「……しへいってのを作るって、すごくたいへんなんだね……」
「印刷技術や製紙技術だけありゃあいいってもんじゃねえからな。だから、このへんで流通するのはずっと先だろうなあ」
「魔族の国ってすごい文明進んでると思ってたけど……もっと進んでる国ってあるんだね」
「そういうこった。お勉強はそのぐらいでいいかい? はやく買いにいこうぜ」
☆
「ふー……。あぶなかった。もうちょっと遅かったら売り切れてたねー」
「お前があちこち寄り道してっからだろ、ロイン」
「だってーだってー(略)」
買い物を済ませて城下の商店街をぷらぷら歩いていると、おのぼりさんのロインが、あっちの店こっちの店と覗き込むので、ちっとも城に戻れない。
ん!?
「危ない!」
「きゃっ」
往来で何かの接近を察知した晶が、ロインの腕を引っぱり路肩に避けた。
すぐさま、男が全速力で目の前を通過していった。
「うわ、あぶなかった……」
「ぼーっとしていたら、お土産が台無しになっていたところだな」
『ぎゃあッ!!』
通過して数秒後の悲鳴。
そして、どう、っと倒れる音。
「へ? なんだなんだ」
晶が声のした方を見ると、先ほどの男が足を抱えて倒れていた。
ひどく苦しそうに呻いている。
よく見ると、足に矢を受けていた。
「そいつを捕まえてくれ!」
叫びながら駆け寄ってくる、男とその連れの女。
男は大剣を、女は弓を手にしている。
まるで、どこぞの魔獣ハンターのようだ、と晶は思った。
二人は倒れた男に駆け寄ると、手際よく縄で拘束した。
「……あれ? もしかして」
「どうした、ロイン」
「「あ――――――ッ!!!!」」
ロインと、二人組の女の方が、互いを指さしてシャウトした。
「な、なんだ、知り合いか?」
「「元同級生です!!」」
「なんだってええ――!」
……ロインよ、お前の同級生って一体……。