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第19話 女騎士さん、炎上する

 晶はふと思い出した。

 間もなく、このお茶の間に人が集まって来ることを。


(ヤバイ……。とにかくこいつを泣き止ませねえと)


「ロインちゃんよ」

「なによ……。ぐすッ……」

「キミはさ。人間と魔族のカップルって、わりとアリだと思う派の人なの?」

「……まあ、わりとアリだと思う派だけど、なによ」

「んじゃ、人間と異世界人とのカップルって……アリだと思う派の人だったりする?」

「いきなりなにそれ。……まあ、物の考え方とか見た目が近ければ、アリだと思う派かもしんないけど……、なによ」

「参考のために、聞いてみただけ」

「……ふざけんなよ、クソ魔王!!」


 ――いきなり右フックが飛んで来ました。

 顔面が痛いです。


「いつつ……。ばかおめ、魔族じゃなかったら鼻血ブーだぞおま」


 く~~~~~~~……、と鼻を押さえる晶。


「サイテー」

「いちいち怒るの何でだよ。生理なの?」

「しねえええええええ!!!」


 エルボー→頭突き→往復ビンタ→首絞め→頭突き頭突き頭突き→縋り付いて泣く


「……で、結局ふりだしに戻って泣くのね……。お前、どうしたいんだよ」

「あんたこそ、どうしたいの」

「殺されるから言わない」

「殺さないから言いなさいよ」

「ぜってー殺される」

「魔王を殺せるわけないでしょ。い・い・な・さ・い」


 じい~……。

 晶はじっとりとした目でロインをなめ回すように見た。


「あ。なんとなくわかった。言わなくていい」

「いや、やっぱ言う。聞いてよ」

「やだ、言うな、やだあああ~~~~」

「お前こそどっちなんだよ! いーかげんにしろよ! 犯すぞ!」

「……レイプはやだ。痛いし」

「いや、仮に初めてなら和姦でも痛いよ普通」

「レイプほどじゃないでしょ」


「あーでも、処女膜がやたら分厚いとか、そもそも穴が空いてない女性なんかだと、最悪、医者に膜を切除してもらったり、ある程度穴を開けてもらったりしないでセックスすると、大出血したり、行為そのものが出来ないらしいぞ。

 だからどっちが痛いかどうかは――」


「あーやだやだやだ、聞いてるだけで痛くなってくるううううう」

「それってあれか。キンタマをファスナーに挟んだ話を聞いてるだけで痛くなってくるのと同じやつか」

「晶ったく何の話してるわけもーサイテー!!!!」

「いやマジレスしたのは悪いけどコレ話の流れ的なやつじゃんよ」

「マジレスってなによもーわけわかんない!!!!」


「ごめんごめんて、マジレスって、普通なら軽く流したりスルーするところを、マジメに返答することだよ。マジレス自体に良い悪いはないんだけど、だいたいは空気が悪化したり炎上したりする」


 ロインはすっくと立ち上がった。


「じゃー今が大炎上だよ!!!!」


 ガッ!

 廊下にあぐらをかいている晶の顔面に、ロインの足の裏がガッツリとめり込んだ。


「ぐひぇ……。ロインひゃん……。パンツ見えてまひゅ……ふひ」


 ガチャ。

 お茶の間の扉が開いた。


「何を騒いでおるのだ?」

「「あ……」」


 ドアから顔を出したウサ耳薬師を見た二人は、凍り付いた。


「どこか怪我でもしたのなら、私が治療してやるが……」


 ブンブン。

 ブンブン。


 二人同時に首を振った。


「みなさんそんな所で何をしてるんですか?」


 丁度そこへモギナスがやってきた。


「うわ、陛下……。顔に足跡が刻印されてますが、犯人はそこのお嬢さんでしょうか? ……ん? ラパナさんおはようございます。今朝はいかがされましたか?」


「その二人を観察するため、ここに来たのです。いてはダメですか?」

「あらあら、めずらしいこともあるものですねえ。どうぞお好きになすってください」

「なんでだよー」

「勧めたのは儂だ。しばらく世話になる」

「これは猊下、ええ、もちろん構いませんよ」

「勝手に決めんな」

「そうだよ! 勝手に決めんな!」

「まあまあ、猊下が地上で過ごされるなんて激レアなんですよ。少々くらいいいじゃないですか」

「私は観察したい」

「……というわけで、済まぬがよろしくおねがいする」

「というわけでじゃねえよ。こええよ!」

「あのー……」

「なんですか? ロイン嬢」

「猊下って、もしかしてその杖の中の……?」

「ええ。よくご存じで」

「さっきアキラに聞いた。……で、誰……なの?」


 モギナスはこほん、と咳払いをした。


「一万年ほど前、当家初代様がご当地に国を開かれた際、異界より共にお越しになったのが、そちらにおわします、古竜神・レビシ猊下でございます」

「「いちまんねん……」」

「左様。この地に人の子が住み着くよりも遙か前から、ここにおる」

「猊下は徳の高い古代神であり、当家の守り神様のような存在でございます」

「ただの居候じゃ」

「じゃー私と同じってことか……」

「ロインも居候だもんな」

「まあね」

「もしかして、龍神様がそこのウサ耳にあれこれ指図してたのか。なんだ、ビビって損した」

「あんた魔王なのに知らなかったの?」

「長いこと姿を見たことなかったんで……忘れてた」

「ああ、なるほど」

「んで、いい加減俺腹減ってんだけど、朝飯まだなのか~?」

「まもなくですよ、陛下」

「やーだーもーまーてーなーいー」

「わがまま言わないでくださいよ~陛下~」


 ずい、と晶の目の前に、皿が突き出された。


「だから、先ほどからそれを食べろと言ってるではないですか」


 と、ウサ耳。


 晶は首を激しくブンブンと振り、


「それだけはイヤ」

「んじゃあたし食べる」


 ピンクの物体をつまみ上げ、ロインは一口でぺろりと食べてしまった。


「んッんッ、…………………………」


 バタリ。


「ぎゃあああ~~~~ッ、やっぱり!! ああああ、ロイン! しっかりしろ!」


 ウサ耳がロインの半身を起し、背中を思いっきり叩いた。

 ロインはゲホッ、と咳き込んで食べたものを吐き出した。


「ううう……死ぬかと思った」

「劇物かよ!! あああ、大丈夫か?」

「なにこれえ~~(泣)」


 晶はロインの背中をさすった。


「愚かな。毎年多少の犠牲者は出るが、死因は毒物ではない。窒息だ」

「餅かよ! 兎だけに」


 なに上手いこと言ってんの自分。大喜利かよ。

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