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第三章☆暗転

   第三章☆暗転

「あーっ」

図書館の一階カウンターにいたメイが、ユウを指差して大声で叫んだ。

すぐに一緒にいた年輩の司書がメイに大声を出さないようにたしなめる。

空色のワンピースに帆布の作業用エプロン姿のメイ。肩にちょこんとワンピース同じ色の小鳥をのせていた。

ユウは恥ずかしくて、プイッときびすを返すと二階へ続く螺旋階段をのぼった。

一緒にいたドミニクは、ちょっと面白いものを見た様子で二人を見比べていたが、すぐユウのあとに続いた。

「知り合い?」

興味津々なドミニクにユウはうんざりした顔をした。

分厚い学術書をどさどさテーブルの上に置いていく。

「うえー。本だとこんなにあるの?」

「重要箇所だけ抜き出してレポートにするからね」

ぶっきらぼうにユウは言った。

「……それより、さっきのあの娘。かわいかったなー」

「そうかい?」

「つきあってるの?」

「まさか」

さっき会ったばかりなのにそんなわけなかった。

にやにやしているドミニク。

「ぼくはあんまりあの娘はタイプじゃないよ」

ユウがそう言って、ふいに背後に人の気配を感じて振り向くと、メイが立っていた。

「なんでここにいるの?」

と、メイは言った。こころなしか声がふるえていた。

「レポートの資料集め」

ユウは目を合わさずにそっけなく言った。

「やあ!こんにちはー。名前なんていうの?」

ドミニクがメイに言った。

「メイです」

「俺、ドミニク」

「……」

メイはドミニクはどうでも良かった。

「なんでそっちこそここにいるの?他に仕事あるんじゃないの」

ユウはわざと意地悪く、立ち去らないメイに言った。

「利用者が本を乱暴に扱わないか見ておくのも司書の仕事だから」

「そんなことするわけないだろ」

「わかんないもん」

だんだんケンカに発展してきた。

その時。

ぐらぐらぐらっ

「地震だ!」

世界が大きく揺れた。

本棚からどさどさばさばさ蔵書が床に落ちる。

とっさのことに、ユウはわけがわからなくなって立ち上がった。

「ユウ!」

気づくと、ドミニクがテーブルの下からユウをひっぱりこんだ。

「本が!」

まだパニックで騒いでいたメイをユウとドミニクは二人がかりで

同じテーブルの下に引き込んだ。

ぐらぐらぐら……

かなり長い時間揺れている感じだった。建物がみしみし音を立てる。

三人はテーブルの下で身を縮めて揺れがおさまるのをしんぼう強く待った。

ずずず、ずしん

最後に巨大な一揺れが来て、そして揺れはおさまった。それと同時に、辺りが真っ暗になった。

みんな生きた心地がしなかった。

しーん

あんなに大騒ぎだったのに、果てしなく静まり返っていた。

やがて、一階の方で小さな灯りが灯った。

司書の誰かが非常用のランタンをつけたらしい。

「どうしよう、本がめちゃめちゃ。片付けなきゃ」

メイが言った。

「今は怪我人の確認が先だと思うよ」

「わかった!」

メイは薄明かりを頼りに階下へ降りて行った。

「ドミニク。ありがとう、助かった」

「……」

「?」

「腰が抜けた」

一瞬、間があって、ユウははじかれたように笑い出した。

階下のメイが不思議そうに上を見上げた。

「こいつってば、ほんっと、最高」

「よせやい」

ドミニクはばつが悪そうな顔だった。

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