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第二章☆ドミニク

   第二章☆ドミニク

メイを図書館近くに送ってから、ユウは中央管理局の講堂へ向かった。

いつも使っているコンクリートの階段は、所々割れてヒビが入っていた。

地上の建築物の合間を縫ってムービング・ロードが流れて行く。

自動で人や荷物を運ぶこの道が普及する前は、この地下の道から地上へ続く階段が頻繁に使われていたその名残のヒビかもしれなかった。

地上は午前の淡い光で満ちていた。頭上を仰ぐとかすかに、逆さまの都市がはるか「上」に霞んで見えた。

「なんで連絡がとれないんだろう?」

白い大理石の幅広い石段を上がっていくと、黒御影石をふんだんに使った講堂へ出た。黒みがかったガラスの扉を押し開き、薄暗い建物の内部に入った。

「あれ?」

変だった。講義中の講師の声も、さざめく聴講生たちのたてる音も聞こえないのだ。

いくつもの講義室。一番使われているはずの部屋の後ろのドアをそっと開ける。

「よう!また遅刻かい?」

誰もいないのかとユウが思った瞬間、脇から声をかけられた。

「……ドミニク」

級長をつとめている同い年の少年が、机の上に座って、両足をぶらぶらさせていた。

「ここに座れよ。見晴らし良いぞ」

ドミニクが笑って自分の隣を勧めた。

「まあ、確かにそうだけど」

うしろから見下ろすかたちで見ると、半円形に、木でできた机の群れが、一番前の講師用の壇を取り囲んで、だんだん前に行くほど低くなるように造られていた。

「運がいいな。今日は臨時休講」

「なんで?」

「さあね」

ドミニクは肩をすくめて見せた。

「講師がみんな急用で一斉にどこのクラスも休みに変更になったんだ」

「そんなことあるんだ……」

「うん。……それで、課題のレポートが出てるんだけど、知りたいか?」

「うわ。それは……」

「知らなきゃ良かっただろ?」

ドミニクはレポートの詳細のデータをユウの携帯に送った。

「もしかして、ぼくを待ってた?」

「そう。おかげで他の連中に遅れをとった」

「ごめん」

「気にするなよ。……ただ、データベースの端末ほとんどが使われていて俺たちの入る余地がないかもしれないけど」

「ごめん。……それじゃ、別の手段使う?」

「?別の手段があるのか?」

「紙の本」

「今時?」

「そう。図書館へ行こう」

「……オッケー」

二人は並んで講堂の廊下へ出た。

くせっけのある黒髪、シンプルな服装、使い古した白のズック靴。それがユウの姿。

一方、ドミニクはきちんと整髪料でととのえた茶色の髪、清潔な白いシャツに黒の上着、焦げ茶の革靴。

流れて行くムービング・ロード上で建物の窓に映る景色と、自分たちの姿を比べて見ながら、ユウは小さなため息をついた。

両親が忙しくてめったに家にいないから、なんでもユウ一人でしなければならなかったが、それもいいかげん限界だった。

同じ年代の少年少女を羨ましく思う反面、見た目がすべてじゃない、と自分を叱咤する。

「図書館っていうのもえらく古典的だが、お宅のその自転車も骨董品じゃないのか?」

ドミニクが言った。

講堂近くの地下道に乗り捨てて来る訳にもいかなくて、ムービング・ロード上に自転車を持って乗っていた。

「そうか?」

「そうだよ」

「……着いたよ」

「うん」

図書館にタイミングよく着いて、それ以上追及されなくて済んだ。

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