数時間前。
サイル達と別れた僕は、まっすぐに職業ギルドへと向かった。
受付を済ませ、対面した職業ギルド長の開口一番の言葉が胸に刺さった。
「グシャートよ、今日はよくきたな。だが、騎士の称号返上での件であるなら、お引き取り願おうか?」
「……え?」
唖然とする僕の顔を、強面のギルド長が更に睨みつけるものだから心臓が縮みそうだ。そんな僕に、ギルド長は語りかけてきた。
「よいか! 騎士の誓いは何者にも破れず、また、一度誓ったからには! なにがあろうとその道をたがえることなかれ!!」
その言葉にハッとした。確かに……そうだ。そう、だった……。
騎士とは、仲間の盾となりえし者。
故に、なにが起ころうとその手から盾を手放すことなど絶対あってはならず。
また、"騎士の誓い"は死なない限り破ることなど赦されない。
最初に説明を受けた時、言われた言葉だ。
「……あ、う……その、でも……」
上手く返せない僕に、ギルド長が最後の一押しとばかりに声を張りあげ告げた。
「たとえ生き恥さらそうと! 死んでも騎士であり続けよ! 騎士、グシャートよ!」
僕は気づけば目から涙を流していた。声を必死に絞りだして、なんとか答える。
「……うっ、あ……はい!」
こうして、僕は称号を保持するというある意味でもっとも過酷な罰を……受け入れることにした。
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宿屋に戻ると、以外な人物が僕を待っていた。……スセだ。
彼女は僕に軽く会釈し、屋外へと連れだした。しばらくしてたどり着いたのは……小高い丘だった。
そこまできて、ようやく彼女は口を開いた。ゆっくりと静かに。
「グシャート
「それは……。僕に騎士を名乗る資格がないと……でも、ダメ、だったよ……」
僕がそう答えるとスセはあっさりと言った。
「そうでございましょうね。それでこそ、筋というものです」
「……え?」
「良いですか? 貴方様は愚者な面もおありではありましたが……根本的に、騎士です。いえ、騎士として誇りをもって頂きたいくらいです。ですから……ギルド長、わたくし……そしてテルス様やレナジェ様にサイルさん。貴方様の周りにいる者達からの想いをお背負い下さい」
そう言い切ると、スセは一礼して僕をおいて丘から降りて行った。その背が小さくなっていくのを見つめながら……僕はようやく覚悟が決まった。
――僕は、騎士グシャートであり続けると。