「……本当の僕って、なにさ?」
レナジェの言っている意味が理解できなくて、思わず訊き返せば彼は静かに告げる。
「昔……出会ったばかりの頃のアンタよぉ?」
……昔? レナジェと出会った頃? それ、けっこう前じゃないか?
僕達の出会いは今でも鮮明に覚えている。なんせ、強烈にもほどがあったからね……。
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僕達が出会ったのは、冒険者としての駆け出しが必ず踏破しなければならない、初心者用ダンジョンだ。
そこでランダムで選ばれるパーティにてマッチングしたのが、僕とレナジェだった。確か、二人で踏破するというクエストだったのは覚えている。
でも、そこで特別なことなにか……あっ!
そこでようやく僕は思い出した。あの頃、初心者であることに……なぜかレナジェは焦っていたんだ。
それを僕がたしなめて……それで……えっと?
僕がゆっくりと記憶を辿っていると、レナジェが静かな口調で僕を見つめながら語りかけてきた。
「アンタはぁあの時ぃ、焦ってミスしたアタシを命を懸けて助けてくれたのよぉ?」
「そう、だっけ? あの時は僕も必死だったから……あっ」
そこでようやく僕は気が付いた。今……僕は必死だっただろうか? 本気であらゆるものに向き合っていただろうかと。
「……ようやくわかったみたいねぇ? そうよぉアンタ、あの頃の方が輝いていたわよぉ?」
それだけ告げると、レナジェは部屋を出て行った。一人残された僕は、改めて自分の慢心に気が付いた。
どこかで、思っていたのだろう。自分は勇者パーティのリーダーを務めていた……そんなプライドを。そして、そのままの気持ちで慢心して人を、見下していたのかもしれない。
必死なつもりになっていただけで、本当に必死にはなっていなかったのだろう。
それを竜に見透かされたのか……。
「ふう……」
拳を強く握りしめ、僕は自分の顔を殴った。馬鹿野郎……この大馬鹿野郎! と。
そうして、口に血を滲ませながら僕は……。
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翌日。
宿屋を出た僕達は、冒険者ギルドに向かい手続きを済ませると一度解散することにした。
僕には向かわなければならないところがある。
……職業ギルドだ。
そこで僕は――
一からやりなおそう。そう全て……一から。そうじゃなきゃ、僕はサイルの横に立つ資格がないと、そう思ったからだ。
だけれど、それは叶わなかった。
――赦されないのだという、騎士というものの重荷を痛感したのは、職業ギルド長と対面してからだった。