Sランクのクエストは大きく分けて二つある。一つは大型の魔物などの討伐、もう一つが……。
「ダンジョンを攻略しろ……か。僕一人で……いいさ! や、や、やってやるさ!」
「アンタねぇ、両足がブルブル震えてるわよぉ? 本当はわかっているんでしょう? ギルド長の
横で佇むレナジェの言葉に、僕は何も言い返せなかった。そうだ、わかってる。本当は……。でも!
「ふ、ふん! こんなクエスト、すぐに終わらせてやるさ!」
僕の精一杯の強がりを聞いて、レナジェがあきれ果てた様子でため息を吐いた。
「……ま、せいぜいがんばりなさいなぁ」
そう言うとレナジェは
レナジェが呼び出したのは、白いカーバンクルだ。小柄で攻撃力は低いがそのかわり防御力に優れている。彼がこのカーバンクルを呼び出すのは、決まって自分の守りをかためる時なのだ。
僕が恨めしい目で見つめてもレナジェはどこ吹く風だ。
「い、いいさいいさ! 見てろよ!」
僕は右手に片手剣、左に盾を握りしめると慎重にダンジョン内へと足を踏み入れた。
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このダンジョンは、人工的に造られた古代の遺物の一つと言われており、最下層には一生賭けても使い切れないほどの財宝とそれを守る神が眠っているとされている。
複雑に入り組んだ道を僕は……ひたすらに逃げ回っていた。というのも……。
「はぁ……はぁ……
そう。
このダンジョンに入ってからというもの、僕は
ちなみに、僕が罠にかかるたび補助魔道具で空を飛んでいるレナジェの、ため息を吐く声が聴こえてくる。
「うぅ……。死んだら化けて出てやるからな……」
「はいはい。恨み言をぉブツブツと呟いてないでぇ、そろそろ正直になりなさいなぁ?」
「……正直って、何がさ?」
言いたくなかった。認めたくなかった。いや、違う。僕は――。
「っておバカぁ! よそ見してんじゃないわよぉ!!」
レナジェが声を荒げたと同時に、僕の意識は途切れた。
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「うっ……ここ、は……?」
僕が目覚めると、白い天井が見えた。頭が痛む。全身が軋む。
「はぁ……この愚か者ぉ。アタシがいなかったら、瀕死じゃなくて即死よぉ?」
どうやら僕はベッドに寝かされているらしい。横からレナジェの呆れた声とともに、今日何度めかわからない深いため息が聴こえて来た。
「……そうだ。ダンジョン……は? 僕は……?」
「アンタがよそ見している間にぃ、罠の石が脳天に
さっぱり記憶にない。だけど、それこそが僕がクエストを失敗したという証明なんだろう。実際、頭も物凄く痛いし。
……認めるよ、僕は愚か者だって。