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第73話 枢機卿の疑惑

 アル達の素性を明かし、ダルク教を変革させる緊急の中枢会議が遂に始まる。

 ミカエル陣営はアル、ジブリール、クレアと大司教のシド・ティアヌスがミカエル派と分かっている。

 一方、反ミカエル派はこの場ではまだ枢機卿しか分かっていない。7人の大罪司教がどちらの派閥なのかこの会議で見極めたいところだ。

 ミカエルの感謝の言葉から始まった会議だが、早速枢機卿が声を発する。


「いやいや、急な呼び出しでびっくりしましたぞ。昨日の魔力と何か関係がおありなのでしょうか?」


 昨日の魔力とは、ミカエルがルシフェルの仇を思い出し、感情が高ぶった事で魔力が漏れ出た事を言っているのだろう。

 周囲にはミカエルが弱ってきたので後継者を決めると伝えているので、昨日の魔力の大きさに疑問を持っての質問なのだろう。

 その意図を汲み取ったミカエルが枢機卿の言葉に応える。


「いや、申し訳ない。昨日は体調がすぐれなくてな、魔力が少し暴走してしまったのだよ。心配かけてすまぬ」

「その様な事が! いえ、ミカエル様は長らく我々信徒の為に身命を賭して導いてきました。ここらでゆっくり休まれるのも良いかと思います」

「なんだ? まるで私が邪魔化の様な言いぐさだな」

「とんでもございません! むしろその逆でございます。今のうちに療養を取って貰い、万全の状態で再び我等を導いて欲しいのです」


 枢機卿がぺらぺらと良く回る口で弁明する。

 ミカエルもこの程度は想定済みだった様でそこをわざわざ突っ込んだりはしなかった。


「聞いて貰った様に、私の体調はあまり良いとは言えぬ。だからこそ後継者を決めると前回の会議で伝えたのだ」


 そう言ってミカエルが出席者をぐるりと見渡す。


「さて、その前回の会議の後、良からぬ噂を耳にしてな。いや、遠回りな言い方はよそう。今、ダルク教はミカエル派と反ミカエル派に分かれているようだ。率直に聞く、其方達はどっちの派閥だ?」


 ミカエルの鋭い眼光と共に放たれた言葉に一瞬出席者達に緊張が走る。

 だが、それに怖気ずくことなく枢機卿が声を挙げる。


「私の耳にも入ってきています、全くけしからんですな!」


 枢機卿がいけしゃあしゃあと声高に言う。

 すると、大罪司教の1人が初めて言葉を発した。


「おかしいな」


 そう一言だけ発すると、言葉を発した隣の席の大罪司教が言葉を繋ぎ、そしてまた隣の大罪司教が言葉を繋いでいく。まるで、打ち合わせでもしていたかのように綺麗に淀みなく繋がれて発せられる。


「僕のところには」

「反ミカエル派の」

「トップは」

「枢機卿だと」

「聞いたけど」

「間違いだったのかな?」


 大罪司教達の言葉を受けて、枢機卿が反論する。 


「それは大きな間違いですぞ! この私がミカエル様を裏切るなどと! そんなことは断じてありえん!」


 声を荒げ主張する枢機卿に対して、大罪司教達は淡々と反論する。


「最近」

「資金の」

「流れが」

「おかしい」

「調べてみたら」

「裏帳簿が」

「出て来た」


 代わるがわる言葉を発する大罪司教達。


「その裏帳簿に」

「枢機卿の名前が」

「書かれていた」

「これは」

「一体どういうことか」

「説明を求む」

「拒むことは許されない」


 そう言って最後の大罪司教が裏帳簿らしき紙の束をテーブルの真ん中へ投げた。

 ミカエルがその裏帳簿を手に取り中身を確認すると、枢機卿を睨みつけながら問う。


「ペトロ枢機卿、これは一体どういう事なのか説明してもらおうか?」


 アルからは帳簿の中が見えなかったので、何のことを言っているか分からなかったが、枢機卿がダルク教の資金を裏で横領しているのでは? と予測を立てた。


「裏帳簿とやらに何が書かれているか知りませんが、私にやましい事なぞありはしません!」

「ならば、ここに書かれている下水処理工事の工事費の一部が枢機卿の管轄する宣教部に流れているが、宣教活動は今は行っていないハズだ。これをどう説明する?」

 「宣教部に? それこそ宣教部の誰かが私の名前を使って横流ししているのでしょう! まったくけしからん!」


 大罪司教達とミカエルの追及にも怯むことなく無罪を主張する。ここまで知られて尚言い逃れをする枢機卿の肝の座りようには、ある意味感服する。

 こうも知らぬ存ぜぬを突き通されてしまっては埒が明かない。

 しかし、大罪司教の一人が扉の前の聖騎士に何かを合図すると、聖騎士が扉の向こうから、宣教服を着た一人の男を連れてきた。


「この男が」

「証人」

「枢機卿に言われ」

「工事費を」

「横流しさせた」

「これで」

「言い逃れ出来ない」


 聖騎士に連れられた男が円卓の前で震えながら立っている。その怯えた目は枢機卿を見ていた。

 そんな男にミカエルが話しかける。


「其方が行った行為をこの場で洗いざらい話して貰おうか」

「ひぃっ!」


 ミカエルの鋭い眼光に男は更に怯える。

 ミカエルはダルク教の教皇であり、天使だ。男からすれば雲の上の存在だろう。そんな存在に睨まれ、男は正気ではいられず、泡を吹いて倒れてしまった。

 倒れてしまった男を見て、ミカエルがぽつりと溢す。


「はぁ、やってしまった。感情を抑えるのは苦労する」


 どうやら男はミカエルの覇気にてられ気絶したようだ。

 ミカエルの口ぶりからすると、今回が初めてではなさそうだ。

 と、ここで枢機卿がチャンスとばかりに聖騎士に命令する。


「おい、そこのお前! この男を連れ出せ! ミカエル様の御前で泡を吹くなど不敬も甚だしい!」

「し、しかし……」

「私が良いと言っているんだ!」

「はっ! 畏まりました!」


 聖騎士は枢機卿の指示通り気絶した男を担いで会議室から出ていった。

 それを見届けた枢機卿がわざとらしく言う。


「いやぁ、残念でしたな。折角の証人もあれでは役に立ちますまい。まぁ、話せたところで虚偽の言葉を並べるだけだったでしょうが」


 まるで勝ち誇ったかのように立ち振る舞う枢機卿が、今度はこちらの番ともいった感じでアル達を指さしながらミカエルに問いかける。


「ところでミカエル様、この者達は何者なんですか? 昨日の騒動の時にも居ましたが、まさか中枢会議にまで出席するとは! それにその男が着ている法衣は最上位の物ではありませんか! 男だけでなく、女達のドレスもそうです! ご説明をお願いします」


 息を荒くして、さっきまでのお返しと言わんばかりにアル達をやり玉に挙げる。枢機卿のこめかみには血管も浮き出ており、かなりいきどおっているのが分かる。その所為なのか、若干ミカエルに対する言葉遣いが荒くなっていたが、そんな事はミカエルは気にも留めなかった。

 何故なら、やっと本題に入れると内心喜んでいたのだった。

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