昨夜、部屋を訪ねてきたミカエルから聞いた世界の破壊と創造の真実。
破壊と創造には四大天使の力が必要だときかされ、それにはジブリールも含まれるという事に気づき、そのショックでいつの間にか意識を失っていたアルが意識を取り戻す。
「んん、あれ? ここは?」
天蓋付きのベッドの上で目を覚ましたアルだが、ベッドまで移動した記憶が無い。
記憶を辿ると、昨夜のミカエルとの会話を思い出した。
「そうだ! ジブリール!」
ガバッと起き上がり、急いでジブリールの元へ行こうとベッドに手をついたと思ったら、何やら柔らかい感触があった。その柔らかい感触も元を見ると、横で寝ていたミカエルの胸だった。
「うおぉわわわっ!」
予期せぬ事に驚いて後ずさる。
すると、アルの叫び声でミカエルが目を覚ました。
「おはようございます」
「あ、ああ、おはよう」
「どうかしたのですか?」
「い、いや! なんでもない!」
「そうですか」
どうやら胸を触ってしまった事に気づいていない様子にホッとするアルだったが、ミカエルも安心したような表情になる。
だが、それよりもミカエルが何故アルと一緒に寝ていたのかが気になる。
「な、なぁミカエル。なんでお前が一緒に寝てたんだ?」
「覚えていないのですか? それも無理はありませんね」
「ん? どういうことだ?」
「昨夜の話を覚えていますか? アルファード様はジルの事に気づき、錯乱してそのまま気を失ってしまったんです。私は横でずっと看病していたのですが途中で眠ってしまったようです」
ミカエルの説明で昨夜何があったのか全てを思い出した。
そうだ! 今はジブリールの所へ行かなくてはならない!
そう考えてベッドから降りようとしたアルをミカエルが止める。
「なんで止めるんだ! ジブリールに早く知らせなくちゃ!」
「知らせてどうするんですか? お前はこの世から消えるんだとでも言うつもりですか?」
「うっ、それは……」
「それに、まだジルが消えると決まった訳ではありません」
「本当かっ!?」
「ただ、憶測の範囲を出ないので確実とは言えないですが」
「それでもいい! 何か方法があるなら教えてくれ!」
昨夜の時点では、ジブリールもクレアと同一化し、この世に顕現出来なくなるという話だった。顕現できないという事は人間で喩えるなら死んでいるに等しい。
だが、今目の前に居るミカエルから、そうならない様に出来るかもしれないと言われた。憶測の範囲を出ないと言っているが、今のアルはどんな些細な事にも
「私達四大天使は姉妹だという事は話しましたね。では、私達はどこから生まれたのでしょうか?」
「どこから? 分からないな。っていうか、それはジルの事と関係してるのか?」
「関係おおありです。私達はルシフェル様の魔力から生まれました。だから姉妹なのです」
「なるほど。ん? なんかナーマも同じような事言ってたな。サタンの魔力の塊から生まれたとか言ってたような」
「そうですね。彼女も私達と同じ存在と言えるでしょう。ただ、四大天使の様に世界に何かをするといった力は無いと思います」
ルシフェルの魔力から生まれたという四大天使達。それがジブリール生存の肝になる事は察しがついたが、一体どうやってジブリールを助ける気なのかが気になる。
「アルファード様は
「ああ、その度にジブリールの吸魔に助けられたよ」
「それですっ!」
「うおっ! なんだよいきなり」
「吸魔ですよ吸魔! 吸魔でジルが救えるかもしれません!」
ミカエルがアルを指さして興奮気味に言う。
だが、アルは大魔王の魔力がジルにとって毒だと知っている。
「でも、大魔王の魔力はジルにとって毒なんだろ? 逆効果なんじゃないのか?」
もっともな言葉だが、ミカエルの表情は変わらなかった。いや、先程より自身に満ち溢れているように見えた。
「私は
「でも、今までジルの吸魔に助けられたって言ったら凄い反応したじゃないか」
「それは吸魔という行為にですよ。いいですか? アルファード様は大魔王の魔力の他に大天使ルシフェル様の魔力も持っているんです。そして、四大天使はルシフェル様の魔力から生まれた。この意味がわかりますか?」
「意味……あっ!」
「気づいたようですね」
ミカエルがニヤリと笑う。
四大天使はルシフェルの魔力から生まれた。そしてアルはルシフェルの魔力を持っている。
ジブリールにルシフェルの魔力を吸魔させ続ければ、もしかすると──。
「やっべぇ~、今ほどルシフェルの魔力持ってて良かったと思った事はないよ」
そう安堵の言葉を漏らすアルだったが、そこにミカエルが現実を突き付ける。
「ですが、憶測の範囲という事は忘れないでください。この試みは初めての事なので、憶測の様に上手くいくとは限りません」
「……そうだよな」
しかし、この一筋の光明を逃す訳にはいかない。
今の自分に何が出来るのかを考える。
そして気づいた事をミカエルに聞く。
「今まで大魔王の魔力を吸魔して貰ってたんだけど、ルシフェルの魔力だけを吸魔させるにはどうすればいいんだ?」
「ルシフェル様の魔力を活性化させた状態で吸魔すれば良いと思います」
「それなんだけどさ、なかなか自分でルシフェルの魔力を操るって事ができないんだよ」
「そうなのですか? 今はルシフェル様の魔力を多く感じますが」
「それはダルク法王国にはいってミカエルの結界内に入ってからそうなったんだ。多分結界から出ると、また大魔王の魔力の方が多くなると思う」
「そうなんですね。でしたら、ダルクに居る間にルシフェル様の魔力操作を出来る様に訓練しましょう」
「それしかないか」
やはりルシフェルの魔力操作は必要不可欠だった。ダルクに来る途中、訓練を少ししたが、ルシフェルの魔力がアルの奥深くにある為、集中しないと感じ取れなかった事から後回しにしてきた。
だが、ダルクに居る間は結界のおかげで大魔王の魔力が抑えられ、ルシフェルの魔力が表に出てきている。このチャンスを逃す訳にはいかない。そして自由自在に魔力を操作できるようになることを目標とする。
そんな時、ミカエルから新しい提案が上がった。
「これからはなるべく多くルシフェル様の魔力を吸魔した方が良いでしょう。何かと理由をつけて吸魔してください」
「ああ、わかった。けど、それだと俺がキス魔みたいにならないか?」
「別にいいではありませんか。アルファード様の周りにはアルファード様に好意を抱いている者しか居ないのですから」
「そんなものなのか?」
「そういうものですよ。ちなみに、私もアルファード様のことを好いていますよ?」
「おいおい、からかうなよ」
「ふふふ、さてどうでしょうか」
意味深に笑うミカエルだったが、ミカエルが自分を好意的に見ているのは感じていた。しかし、ジブリールやクレアという婚約者が居る手前、気づかないフリをしていた。
「さて、そろそろ皆が起きだす時間ですので、私は自分の部屋に戻ります」
「ああ、昨夜から迷惑をかけたな」
「とんでもございません。それより、これから私がアルファード様にかける迷惑と比較すれば安いものです」
「あー、そうだった! 今日が会議の日かぁ」
「アルファード様は毅然とした態度で居てくだされば良いので、後は私に任せてください」
「ああ、そうするよ」
「では、のちほど」
そう言ってミカエルはベッドから降り、そのまま部屋から出ていった。
自分ひとりになった広い部屋で、アルは
「今日は何事も無ければいいんだけどな……」
その独り言は誰に聞かれるでもなく