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第70話 破壊と創造の真実

 明日の中枢会議でアル達の事を公表することになった。

 なのでアル達も必然的に会議に参加する事になるので、その場に相応しい服へ着替えなくてはならなくなった。

 ナーマはミカエルお抱えのシスターという事で、シスター服を着ることは決定しているが、アルとジブリール、クレアの衣装をどうするか悩んでいた。


「俺は別にこのままでいいんじゃないか? この件が終わったらまた旅をするんだし」

「そうはいきませんわ。ダルク教を裏で支えるルシフェル様なのですから、威厳があって厳かな衣装の方が司教達も納得しやすいと思います」

「そうは言ってもなぁ、ミカエルが用意した法衣? は派手な物ばかりだし、動きにくそうなのばかりじゃないか」

「法衣とはそういう物です。それに、動く事なんて考えなくて良いんです! 全てお付きのシスターがやりますから!」

「なるほど、こうやってぐーたらミカエルが生まれたんだな」


 常に付き人が何でもやってくれる環境なら、そうなってしまう人が多いのは仕方ない事なんだろう。

 とアルの中で納得していると、クレアと一緒にドレスを選んでいたジブリールが口を挟む。


「ミカは昔からぐーたらしてましたよ。ここぞ! という時にしか動きませんでした」

「ちょ、ジル! そんな昔の事いわないで!」


 ジブリールの告げ口により、アルの中のミカエルの評価が下がった。


「そういえば、ホワイトパレスの入り口で『こんな立派なところに引きこもってるなんて、贅沢過ぎです』って言ってたな。あれはそういう意味だったのか」


 ジブリールの発言にやっと納得のいったアルがそう溢すと、ミカエルが必死に弁明してくる。


「べ、別に怠けていた訳ではないんですよ? 見習いシスターやお付きのシスターの仕事という物がありまして、えっと、そういった仕事を私が奪ってしまっては修行にならないじゃないですか!」

「うっわ、必死すぎて引くよ……」

「そ、そんなぁ~」


 アル達がミカエルをいじって遊んでいると、一足早く着替え終わったナーマがカーテンを開け、姿を現した。


「どうですかアル様? ソソられますか?」

「おまっ!?」

「ちょっ!?」


 ナーマのシスター服を見たアルとミカエルが驚きの声を挙げる。それもそうだろう、今ナーマが来ているシスター服は、およそシスターが着る様な物ではなかった。

 肩を出し、胸元は大きく穴をあけられたわわな胸からなる谷間を強調していた。更に脚の部分には両足部分に切れ込みを入れており、歩く度に生足が見える仕様になっていた。

 そんなナーマを見たミカエルがナーマに苦言を呈する。


「そんな破廉恥ハレンチなシスターが何処に居るんですか!」

「目の前に居るじゃなぁい」

「そんな服認められません!」

「でも、アル様は気に入ってくださってるわよ?」

「え?」

「アル様も男ですもの。やはり女性の魅力を味わいたいに決まってますわ」


 アルが気に入っているという言葉にミカエルの糾弾が止まる。そして物凄い勢いでアルへと振り返る。


「アルファード様、本当ですか!」

「ち、違う! ナーマが勝手に言ってるだけだ!」


 全力で否定するアルに対して、ナーマが追い打ちをかける。


「でもぉ、さっきからわたくしの胸や脚をチラチラと見ていたじゃありませんか」

「っ!?」


 ナーマの指摘は正しかった。だからこそ反論出来なかった。

 今までのアルならばナーマの肢体を見たところで、何の反応もしなかっただろう。だが、ジブリールをはじめ、ナーマやクレアと吸魔キスを繰り返していくうちに、アルの中のオスが目覚めていた。だからこそ、クレアとの密会の時のキスでクレアを意識したり、ナーマの過激なシスター服で女性特有の身体に目が行ってしまったのだ。

 しかし、これは男として──人間として当たり前の反応なので責められない。

 だが、それを周囲に知られるのは恥ずかしいのか変わらないので、アルは顔を真っ赤に染め上げていた。


「あ、アルファード様! くっ! 私がこんな悪魔に後れを取る訳にはっ!?」


 アルの反応を見たミカエルが今着ているドレスに手を掛けたところでジブリールとクレアに止められた。


「何をしようとしているんですか!」

「そうですよ! ミカエル様はミカエル様なんですから、張り合わなくていいんです!」

「ジル……、クレア……、なら、その手に持っているドレスは何ですか?」


 ミカエルの暴走を止めた二人が手に持っていたドレスは、ナーマのシスター服の様に脚の部分が破かれ、生足が見える様に改造された物だった。


「こ、これは、え~と、ねぇ? クレア」

「そ、そうですね、ドレスを選んでいたら破けてしまいました」


 二人の苦しい言い訳に、ミカエルの堪忍袋の緒が切れた。


「あーーっ! そこの悪魔! ちゃんとしたシスター服に着替えなさい! 着替えないと結界を強めますよ! それからジルにクレア! 貴女達は明日の主役でもあるんだからキッチリと正装しなさい! それからアルファード様! 貴方もですよ! ぶつぶつ文句言ってないで着替えてください! そんな事じゃあ母国を再建した時に困りますよ!」


 はぁはぁと息切れをしているミカエル。そんなミカエルの絶叫にも近い怒声を受け、アル達はすごすごとミカエルの言う通りに着替えた。



 夜になり、それぞれに宛がわれた部屋の一室でアルがくつろいでいると、部屋のドアがコンコンとノックされた。

 アルは「はーい」と返事を返すが、ドアが開く気配がない。仕方がないのでドアまで行き、自分でドアを開けると、そこには神妙な面持ちのミカエルが立っていた。


「どうしたんだ? 何か用か?」

「……お話したい事があるのですが」

「話? 取り敢えず中に入れよ。こんな所他の人に見られたら面倒だし」

「……失礼します」


 部屋の中へ招き入れ、部屋の中央に置いてあるテーブルの席に座る様に促す。

 アルも対面の椅子に座るが、ミカエルの顔は浮かないままだ。


「話っていうのはなんなんだ? そんな顔してる位だから、真剣な話なんだろ?」

「……実は、昼間に話していない事があります」

「話していない事?」

「四大天使が力を合わせて世界の秩序を壊し、創り直すというのははなしましたよね?」

「ああ、だからミカエルは教皇を降りて俺達の旅に着いてくるって話だろ?」

「はい、その事で話していない事があります」


 真剣な顔つきで真っ直ぐアルを見据えるミカエルに応える様に、アルも真剣に話を聞く姿勢を取る。


「今、クレアの中にウリエルが宿っていることは御存じですよね?」

「ああ、ウリエルの言葉も聞いたしな」

「私もウリエルと同じ様にクレアを宿り木として、クレアと同一化します」

「……えぇっ!?」


 ミカエルがウリエルと同様にクレアと同一化するという言葉に一瞬理解が追い付かなかったが、その意味を理解したアルが驚きの声を挙げる。


「いや、でも、ウリエルは顕現出来ない程弱っているから魔力量の多いクレアを宿り木としたんだろ? ミカエルはちゃんと顕現出来てるじゃないか!」


 ウリエルとミカエルの違いは、この世に顕現できているかいないかだが、ミカエルは顕現できている。それにダルク法王国を囲む結界を張れるくらいの力を持っている。この時点でウリエルとは訳が違うのだ。


「確かに顕現できていますが、世界の秩序を破壊し、創造するには四大天使全員の力が必要です。そしてクレアは私達天使を宿す程の器の持ち主なのです。だからこそ、アルファード様とクレアの子供が重要になるのです」


 ミカエルの説明を聞いたアルが異論を唱える。


「それならクレアに吸魔して貰って、ミカエルの聖魔力を分け与えればいいじゃないか!」

「それではダメなのです。一部の魔力ではなく、全ての魔力を使わなければ秩序を作り変える事は出来ません」

「なら、ダルク法王国はどうなるんだ? この国はミカエルの結界で守られてるんだろ?」

「それなら大丈夫です。ホワイトパレスの中心の地下に祭壇があります。その祭壇には魔力を溜める性質を持つ石が置いてあります。その石に私の魔力の殆どを注ぎました。その石がある限り、結界は未来永劫消える事は無いでしょう」


 ミカエルがそう説明すると、アルはある事に気づきた。


「ちょっと待て。魔力の殆どを注ぎ込んだって言ったのか? だとしたら……」

「その通りです。私も近いうちウリエルの様に顕現できなくなります。なので、教皇の座を降りました」

「いやいや、ちょっと待て! そもそも石に魔力を注がなければ良かっただけじゃないか!」


 ミカエルの言う通りなら、アルの言っている事は正しい。しかし、ミカエルはアルの言葉を受けても表情を変えなかった。


「言ったではありませんか。秩序の破壊と創造には四大天使の力が必要だと。私はクレアが生まれた時からこの計画を立て、遂行してきました。なので、私がクレアと同一化する事は避けられないのです」

「そんな……」


 避けられない運命にアルが脱力する。だが、それは仕方のない事だろう。いきなりこれだけの情報を聞かされては脳の処理が追い付かない。

 いや────本能がそれを拒んでいるのだ────


「明日の会議でアルファード様がルシフェル様の再臨と公表します。司教達は受け入れてくれると思いますが、一般のダルク教徒にはまだ公表しません。いきなり私が居なくなり、その後はルシフェル様を信仰しろと言われても難しいでしょうから。この事は時間をかけてゆっくり浸透させていきます。ですが、アルファード様が母国を再建すれば、おのずとルシフェル様の存在を皆が認知し、信仰していくでしょうから、あまり時間は掛からないと思います」

「ああ、そうか……」


 アルはミカエルの説明にもあまり反応を見せない。どこかうわのそらの様にぼーっとしている。

 そんなアルの状態を分かった上で、ミカエルは椅子から立ち上がり、部屋を後にしようと踵を返す。


 その時、ガタンッと椅子が勢いよく倒れ、アルがテーブルに両手をつき、前のめりでミカエルに声を掛けた。


「おい、ミカエル! 四大天使の力が必要で、その為にクレアが器になるって言ったよな?」


 アルの叫びにも近い言葉にミカエルが反応し、ゆっくりと振り返る。


「はい、そうです」

「なら……なら! ジルは! ジブリールはどうなるんだ!?」

「それは……」


 アルの問いかけにミカエルは言葉を詰まらせ答えることが出来ないでいた。

 だが、アルにとってそれが答え同然だった。


「そ……んな……」


 ドスッとアルが膝から崩れ落ちる。

 世界の秩序の破壊と創造には四大天使の力が必要だと言っていた──

 ウリエルは顕現出来る程の魔力がなかったからクレアという宿り木と同一化した──

 ミカエルは魔力の殆どを使い果たし、顕現出来なくなるからクレアと同一化すると言った──


 なら、ジブリールは?──

 彼女もまた四大天使の一柱だ──

 秩序の破壊と創造には四大天使の力が必要だ──

 クレアは天使の器であり、既にウリエルを宿している──

 そして、ミカエルもクレアと同一化すると言っている──


 ならば、ジブリールもクレアと同一化するのか────



 放心状態のアルをミカエルが優しく抱きしめ、子供をあやす様に寝かしつけた──


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