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第49話 再契約

 ジブリールとクレアがミランダ達を運び出してから結構な時間が経った。その間アルとナーマは一言も交わすことなく、アルは大きな岩場の影で、ナーマはその反対方向の岩の上に座り、ただただ無言でジブリール達の帰りを待っていた。


 そしてようやく二人が森から帰ってくると、クレアが思わず呟いた。


「なにか空気が重いですね」


 それも仕方のないことだろう。ナーマはある意味アルを裏切った形になってしまったし、アルはミランダ達を殺したことになっている。だからこそジブリールとクレアはミランダ達が生きていることをナーマに悟られない様に振る舞わなければならない。

 二人は神妙な雰囲気でアルの元へ行き報告する。


「ミランダ達は

「そうか」


 ジブリールがナーマに悟られないよう、ミランダ達は無事に生き返ったという事を言い回しを変えて報告すると、アルもそれに気づいたようで返事こそそっけなかったが先程までの殺気が和らいだ。


「ところでアル、今の状態は魔力暴走なのですか?」


 ジブリールがそう問うのも仕方のないことだ。アルの瞳は未だ深紅に輝いており、魔力も溢れ出している。しかし、アルの意識はハッキリしていて自我もある。今までの魔力暴走とは一段違っていた。


「たしかに魔力は制御できないな。だけど俺が俺であるとしっかり意識出来てるのが不思議だ」

「そうですね。ただ、やはり制御できない魔力を放っておくと周囲にもアルにも危険なので吸魔で落ち着かせましょう」


 アルの自我があるとはいえ魔力が暴走している状態なので、ここはやはりジブリールかナーマの吸魔で落ち着かせるのが一番だろう。

 ジブリールからの吸魔の提案にアルが待ったをかけた。


「この状態をもう少し維持したい」

「何故です?」

「今の俺はジルやナーマより遥かに強い状態だろ? だからこの状態でナーマともう一度契約魔術を結びたいんだ」


 アルからもう一度ナーマと契約したいと言われ、ジブリールが取り乱す。


「もう一度ってなんですか? アルとあの女ナーマは既に契約魔術を結んでるではありませんか! それに契約魔術は複数重ねて契約できないですよ!」

「あー、実はな、ナーマが契約魔術を力づくで破棄しちゃったんだよ」

「えー! 契約魔術はかなりの力量差がない限り一歩的に破棄できないはず……そうか! ここの魔素マナが濃いから一時的に力の均衡が崩れたんですね!」


 契約魔術の破棄という常識では考えれない異常事態だが、ジブリール自身が周囲の魔素を取り込んで一時的にパワーアップしたので、その所為で契約破棄が出来たという考えに至ったが、その考えは甘かったとアルの言葉によって気づかされた。


「えーと、またまたなんだけど、実はナーマは大魔王の魔力デザイアを使えたんだよ。だから契約魔術も破棄された」


 アルの言葉に面食らうジブリール。それもそのはずで、大魔王の魔力デザイアはその名の通り大魔王サタンか降魔の儀式で大魔王サタンの器になったアルにしか扱えないはずなのだ。なのにアルはナーマが大魔王の魔力デザイアを使ったと言っている。それが本当ならこれからのナーマの扱いが変わってくる。なので今も岩の上に座って遠くを眺めているナーマを呼び寄せた。


「ナーマ! アルから聞きましたが貴女が大魔王の魔力デザイアを扱えるというのは本当ですか!?」

「っつ、うるさいわねぇ、本当ですわ」

「なんですって! じゃあ今まで私達を騙してたんですか!」

「騙してたなんて人聞きが悪いですわ。それに最初にあった時に言ったじゃありませんか。わたくしは大魔王サタンの眷属だって」

「いえいえ、それでは説明がつきません! ただの眷属が扱える魔力ものじゃありませんよ!」


 納得しないジブリールにナーマが呆れ、仕方なく自分の生い立ちを話す。


わたくしは大魔王サタンの魔力が集まり結晶化して生まれたのが私なんですの。言ってしまえば私自身が大魔王の魔力デザイアといっても過言ではないですわ」

「そんな! ですがいつもは普通の闇魔力しか感じませんよ!」

「それはアナタと同じですわ。神界が閉じてこの世界の魔素が少なくなり、扱える魔力が減って本来の力を出せないだけですわ」

「じゃあ、アルに吸魔すのは……」

「本来の力を取り戻すためですわ。でも、アナタもそれは一緒でわなくて?」

「私は! ……いえ、その通りですね」

「理解してくれて助かるわ」


 ナーマに言われ気付かされた。アルの魔力暴走を抑える為に吸魔を施してきたが、その実、自分の力の為にも吸魔をしていた。

 うなだれて落ち込んでいるジブリールにアルが声を掛ける。


「そんなに落ち込む必要は無いだろ。前にジル達のパワーアップには吸魔が必要だから吸魔を日課にしようって言ったのは俺じゃないか」

「ですが……」

「俺がいいって言ってるんだからそれ以上気にするな! それよりも今はナーマとの契約だ」

「はっ! そうでした!」


 アルの指摘により本来の目的を思い出したジブリールは自分で両頬をパチンと叩き気合を入れなおす。


「それではアルの吸魔が終わったらもう一度契約魔術を行います。いいですねナーマ?」

「ええ、構わないわぁ」


 ナーマが潔く了承したが、そこにアルが待ったを出した。


「ダメだ」

「何でですかアル!」

「今の魔力暴走状態で契約を結ぶ。そうすれば今後ナーマが自力で破棄はできないだろう。そうだろナーマ?」


 アルの提案にナーマは素直に頷く。


「はい。ですが一つだけ勘違いを正させてください」

「なんだ?」

わたくしにアル様を裏切るつもりはありませんわ。先程だってアル様の事を思ってのことでしたから」

「ああ、それは分かってる。けど、俺が良くても周囲が気にするだろ? 契約魔術で縛ってると言えば今後交渉する相手も少しは安心するはずだからな」

「そこまで考えていたとは! 私の浅慮が恥ずかしいですわ」

「なら契約魔術に異論はないな?」

「はい、全てアル様の言う通りに」

「よし。それでジル、俺に契約魔術をやらせてほしい。俺自身が発動する事でいままでより強く契約が結ばれるだろ?」


 アルの提案にジブリールが頷く。ジブリールが間に入って契約するより本人同士で契約する方が強力なのは確かだからだ。

 その後、アルはジブリールから契約魔術の行使の仕方を教わり、いざ契約本番となった。


「それじゃ始めるぞ。契約内容は依然と同じでいいな?」

「ええ、構いません」


 こうして再びアルはナーマと契約した。今度はナーマが一方的に破棄は出来ないだろう。アルは万が一を考えて魔力暴走状態での契約をしたが、それは杞憂だったかもしれない。今回の魔力暴走でナーマが心の底からアルを真の主と認めていたからだ。だからだろうか、契約魔術はすんなりと発動し、アルとナーマ二人の身体に溶け込んでいった。


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