呆然と立ち尽くすアルに気絶して眠っているジブリール。悠然と歩くナーマに恐怖で震える冒険者達という異様な光景。ここにクレアが居なかった事は果たして幸か不幸なのか。クレアは後方待機という作戦だったのでまだこの場の異変には気づいていない。
だが、いつ異変に気付いてもおかしくないので、ナーマとしては手早く始末したかった。
「最後の言葉くらいは聞いてあげたかったけど、
そう言ってナーマがミランダの首目掛けて手刀を放った。しかし、その手刀はミランダの首元で止まった。
「あら、私とした事が契約魔術の事をすっかり忘れてましたわ」
アルと結んだ契約魔術で人に害をなさないという契約がある以上、ナーマはミランダ達を殺せない。それを理解していたアルは敢えて今まで黙っていた。
「ナーマ、俺との契約魔術があるんだ。殺すなんてことはするな」
「
「それは分かってる。だけど、ここでミランダ達を殺してしまっては元も子もないじゃないか!」
「いいえ、目撃者が居ないこの状況なら、殺してしまう方が安心ですわ」
「だが、契約魔術があるんだ。どのみち殺せないだろ」
「そうですわねぇ、でしたらこうするしかないですわね」
「なに?」
ナーマが言い終わると同時にナーマの魔力が膨れ上がった。するとナーマの瞳の色が深紅に輝きだした。まるで魔力暴走を起こしたアルの時のように。
「契約魔術は格上には効果を発揮しませんわ。そして、この程度の契約魔術でしたら今の私なら破棄するのは簡単ですわ」
ナーマの目の前に魔方陣が出現する。その魔方陣はアルとナーマが契約する時に出現した魔方陣と同じだった。
ナーマは出現した魔方陣に向かって息を吹きかける。すると、魔方陣はガラスの様に砕け散った。
「これで契約は無くなりましたわ」
「ナーマ!」
「お許しくださいアル様、これもアル様の野望の為ですわ」
「ふざけるな! 俺はこの人たちを殺す事なんて許さないぞ!」
「やれやれ、困ったご主人様ですわねぇ──くっ! やってくれるじゃない」
突如ナーマの横顔に火炎魔術が直撃した。魔術が飛んできた方向にはクレアが杖を構えて立っていた。
「クレア!」
「アルさん! いまいち状況は把握できてませんがこれで良かったですよね?」
「ああ、ナイスタイミングだ!」
クレアは杖を構えたままアルの元へ歩いていく。魔術を喰らったナーマにはダメージらしいダメージは見て取れない。魔術で邪魔された事でクレアに反撃するかと思っていたが、ナーマはクレアがアルと合流するまでただ立っているだけだった。
そしてアルと合流したクレアがアルに事情説明を求める。
「一体どうしてこんな事になったんですか?」
「実は……」
アルは山頂で起きた一部始終を説明した。説明を聞いている間もクレアは警戒を解かず、ずっと杖を構えている。
「なるほど、そういう事があったんですね」
「ああ」
アルが事情説明を終えると、ようやくナーマが口を開いた。
「安心なさい。貴女を殺すつもりはありませんわ」
「それはどうも」
「ただ、一つだけ聞かせてくれないかしら、王女様?」
「なんですか?」
「大成を成すには多少の犠牲は仕方なくて?」
「それは……」
クレアは口を
「お、おい、クレア?」
「王族であるワタシからは何も言えません」
「そんな……」
味方だと思ったクレアまでがナーマと同じ意見だという事に驚きを隠せない。
そんなアルにナーマが再び言葉を浴びせる。
「アル様、貴方には母国を再建するという野望があります。それを成す為なら多少の犠牲には目を瞑りましょう。それがいずれ王たるアル様の資質ですわ」
「王の資質……」
王の資質と言われアルは黙り込んでしまう。確かにアルの野望は生半可な気持ちでは無しえないものだ。ならば、ここはナーマの言う通りにした方がいいのか? と考えがあ棚の中をぐるぐると駆け巡る。
「では、話もまとまった事ですし、改めてアナタ達には死んでもらいましょう」
「ひぃぃっ!」
ナーマが再び腕を振り上げる。そして腕を振り下ろす瞬間、アルが待ったを掛ける。
アルの待ったにナーマは呆れたように応える。
「アル様、これは子供のお遊びでは無いんですのよ」
「分かってる。だけど……」
「はぁ、仕方ありませんわね。叱責は後ほど甘んじて受けます。先ずは殺してしまいましょう」
そう言うと、ナーマの魔力が手刀に集中し、まるでジブリールが先程まで振るっていた剣の様な死を纏っていた。
ナーマは今度こそミランダ達を殺そうと構える。が、ナーマは金縛りにあった様にそこから動けなくなった。その原因の方に視線を向ける。
「ナーマ、
「あ、アル様……」
アルの身体から魔力が台風の様に溢れていた。その溢れ出る魔力に気圧され、ナーマは指一つ動かせないでいた。しかし、ナーマはその辺の悪魔とは一味違う。自分も魔力を纏い抵抗し、すぐさまその場に