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第46話 大魔王の刻印

 ジブリールとナーマが如何いかんなく力を発揮し、十数体居た魔物たちが次々と倒されていき、遂に魔物が全滅した。

 魔物を倒してスッキリした表情で二人がアル達の元へ戻ってくる。


「久しぶりに力を発揮できてスッキリしました!」

わたくしはもっと殺しがいのある相手が良かったですわ」


 と言いながらアルと合流する。ナーマは不満を漏らしてはいるが、顔がスッキリしているので力を使えて満足はしてそうだ。


「二人共凄かったな」

「ありがとうございます! ですが、この魔素マナに満ちた魔所だからこそ力を発揮出来ました。いつでも今以上に力を出せる様に訓練に励みます!」

「そ、そうか。でも頼もしいよ」


 ジブリールと話しているとナーマがアルの腕に絡みついてきた。


「アル様、私も褒めてくださいまし」

「ああ、ナーマの魔術も凄かったな。力を発揮できて少しはスッキリしたんじゃないか?」

「そうですわねぇ、ほんの少しだけスッキリしましたわ。ですがアル様、私の全力はあの程度じゃりませんことよ」

「はは、それは怖いな」

「何を言ってるんですか。アル様は私達以上の力が眠ってますのよ」

「本当か? まぁ俺も二人の足手まといにならない様に頑張るよ」


 アルが二人をねぎらっていると、ミランダ達が恐る恐るといった感じで話しかけてきた。


「ふ、二人共凄かったじゃないか。ビックリしたよ」

「ああ、あんな凄い魔術みたことないぜ」

「あの光る剣から斬撃が飛び出すのはどうやったんだ? 凄すぎて開いた口がふさがらなかったよ」


 とそれぞれが感想を述べる。二人の反応は対照的で、ジブリールは素直に凄いと言われたのが嬉しいのかニコニコしながら耳をぽりぽりと搔いている。一方ナーマはそんなことは当たり前といった感じで聞き流し、今もアルの腕に絡みついている。

 大量の魔物討伐の緊張から解放されて、各々が興奮気味に先程の戦闘の感想等を話していると、ミランダがある事に気づいた。


「アンタ、手の甲が光ってるけどどうしたんだい?」

「え? あ、ホントだ」


 ミランダに指摘されて確認すると、以前現れた刻印が光っていた。


「なんで急に光ったんだろう?」


 と言いながら手を掲げて観察していると、村の猟狩りょうしゅであるフレットが顔を青ざめながらアルの手を指さしながら後ずさった。


「そ、その紋様は、もしかして……だ、大魔王サタンの紋様じゃないのか? 村にある古い文献で見た事あるぞ!」


 フレットがそう言うと、ミランダ達もフレットと同じような反応を示した。


「た、確かに! アタシもギルドにある文献で見た事がある!」

「お、俺も!」

「俺はじいちゃんから教わった。グレイス王国を滅ぼした大魔王サタンにはシンボルとなる紋様があるって! まさかアンタは……!」


 ミランダ達の顔色が恐怖に染められ、腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまった。


「ち、ちょっと待ってくれ! 違うんだ!」

「ひぃいっ! こ、殺さないでくれ!!」


 アルが誤解を解こうと話しかけると、必死な形相で命乞いをしてきた。

 その光景にアルはやっぱり自分は災厄の申し子であり、普通の人からすれば大魔王サタンと何ら変わりないのだと思い知らされた。


 アルがショックで言葉も発せず佇んでいると、ナーマが驚きべき言葉を発した。


「この人間達を殺しましょう」


 ナーマの言葉にジブリールが反応する。


「いきなり何を言ってるんですか貴女は!」

「何って、言った通りですわ。アル様の刻印を見られた以上生かしてはおけませんわ」

「それでも! 殺すことは無いでしょう!」


 ナーマとジブリールの口論を聞いた冒険者達が震えあがる。そしてミランダが震える身体にムチを打って質問する。


「あ、アンタ達は何者なんだい?」

「悪魔ですわ。それも上位のね」

「あっ……ひあぁっ!」


 ナーマの悪魔という発言に恐怖の悲鳴を上げるミランダ。それにつられて他の者達も命乞いや悲鳴を上げる。

 そんなミランダ達を無視してナーマが一歩一歩ミランダ達に近づいていく。

 それをジブリールが必死に説得しようとする。


「待ちなさい! 私がみすみす殺させると思いますか?」

「あら、邪魔をするの? この者達がアル様の野望の邪魔になるとしても?」

「アルの邪魔?」

「この者達はアル様が大魔王サタンだと知ってしまった。そうなればいつかアル様が母国を再建する時の障害になりますわ。もしかしたら再建できなくなってしまうかもしれませんのよ? それでもアナタは生かすと言うのかしら?」

「それは……、ちゃんと話して理解してもらえばいいじゃないですか!」

「なら聞いてみましょう」


 そう言うと、ナーマはミランダ達を見据えて質問する。


「貴方達、アル様や私の事を口外しないと誓えるかしら?」


 ナーマがそう問うと、ミランダが代表して答えた。


「あ、アンタの言う通りにすれば見逃してくれるのか?」

「ええ。ただ、約束を破らない様に一人は見せしめに殺しますけど」

「くっ! や、やっぱり悪魔の言う事なんか信じられないね!」

「なら、死ぬしかないわねぇ」


 ナーマが視線をジブリールに戻し、話の続きを始める。


「これで分かったかしら? 今の人間に天使や悪魔わたくしたちを理解しろというのが無理なのよ」

「そ、それでも殺すというのは短絡過ぎます!」

「そう、あくまで私の邪魔をするというのね」

「はい、私は無駄な殺生はしたくありません!」

「なら、仕方ないわねぇっ!」


 言い終わると同時にナーマの姿が消え、次に現れたのはジブリールの眼前だった。ナーマは油断していたジブリールの鳩尾みぞおちに肘鉄を入れ、ジブリールを気絶させた。


「これで邪魔者は居なくなりました。次はアナタ達の番ですわ」


 そう言ってナーマはミランダ達がへたり込んでいる方へ向き直る。

 一部始終を見ていたミランダ達は恐怖に震えながら後ずさりをするが、もう逃げられないと察すると大人しくなった。

 そして辺りにはナーマの足音とミランダ達が発するガチガチといった歯の音だけになった。



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