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第45話 掃滅戦

 山頂に近づくにつれ木々が少なくなり岩肌が露出する。このままいけば魔物の居る山頂は岩だらけだろう。森の中なら身を隠す場所はあるが木々の無い山頂では身を隠すのは難しいだろう。

 それに山頂に近づくにつれて空気も冷たく重い。標高の高い山なので空気が冷たいのは分かるが、この重さは大気中の魔素マナの影響だろう。ここまで濃い魔素に初めて触れるアルだったが、魔物の大量発生は恐らくこの魔素が関係していると直感で感じ取った。

 先頭を走るノイルが手で合図を出し、それに伴って皆が一旦立ち止まる。


「魔物が見えた。ここからはアルさんが先頭で慎重に行こう」


 作戦通りに魔物の発見と共に隊列を入れ替えアルが先頭になる。その後ろにナーマ、ジブリールと続き、最後尾にミランダとクレアが周囲を警戒しながら進む。

 大きな岩に隠れながら徐々に見えていた魔物に近づいていくと、山頂に居る魔物の群れが姿を現した。

 一体一体が昨日のグレートディア並みの大きさを誇っており、威圧感も半端ではない。

 アルは岩陰から顔を出し、のそのそと歩いている一匹のジャイアントベアに目を付ける。


「今から俺が魔術でアイツを攻撃する。皆はそれと同時に総攻撃をしてくれ。ジブリールは戦況の把握と援護、ナーマは周囲を囲まれない様に拘束魔術で魔物の足止めをしてくれ」


 アルの作戦に皆が頷くのを確認すると、アルが手のひらに魔術を展開する。そしてある程度魔術を維持して威力を高めるとジャイアントベア目掛けて魔術を放った。


火 球ファイアボール! みんな今だ!」


 放たれた火球がジャイアントベアに着弾し、炎に包まれながら雄叫びを上げる。それと同時に冒険者達が追撃を入れる為に走り出す。

 一番早くジャイアントベアに接敵したのは冒険者のリーダーであるミランダだった。未だ炎に包まれ苦しんでいるジャイアントベアの後ろ脚に斬撃を入れる。

 ミランダに続くようにフレットの弓矢がジャイアントベアの硬めを射抜いた。

 足と片目に傷を負ったジャイアントベアの態勢が崩れ、大きな音を立ててその場に倒れ込んだ。

 ミランダ達はチャンスとばかりに猛攻撃を仕掛ける。


 アルが遅れてミランダ達に合流した時には既にジャイアントベアは事切れていた。

 不安要素だった周囲の魔物はナーマが影の拘束シャドウバインドで動きを止めてくれていた。ナーマの魔術を運良くかわした魔物はジブリールが一刀両断にしていた。そのお陰でミランダ達はジャイアントベア一体に集中することが出来たのだった。

 魔物を倒して喜んでいるミランダ達にアルが称賛する。


「皆さんの総攻撃のお陰で倒せました」

「いや、アンタの魔術とお仲間さんが居なければ倒せなかったよ。助かったよ」

「お礼はここの魔物を全部倒してからにしましょう」

「それもそうだな」

「では皆さん、次行きますよ」

「おおーー!」


 アルが冒険者達の士気を上げ、次の獲物に狙いを定めていると、ジブリールとナーマがそれを遮る様にアルの目の前に立ちふさがった。


「おい二人共、邪魔だ」


 アルがそう言うと二人がその場で跪いた。


「ど、どうしたんだよ二人共!」

「アル様、僭越せんえつながらご提案があります」

「提案?」

「はい。この場所は非常に魔素が濃いです。なのでわたくしの力を如何いかんなく発揮できるかと」


 ナーマの言葉で思い出した。悪魔や天使は大気中の魔素を取り込んで魔力に変換し力を発揮すると。


「じゃあジルも同じなのか?」

「はい。今ならあのような魔物など塵芥ちりあくたに過ぎません」

「ジルがそこまで言うとはな」


 二人の意見を聞いてどうするか悩んでいると、ミランダが質問してきた。


「なぁ、この二人ってそんなに強いのか?」

「ああ、昨日も言ったが俺なんかより断然強いよ」

「確かにこれだけの魔物が身動き一つ取れない程の拘束魔術を使うんだから本当なんだろうな。それで、アンタはどうするつもりなんだ?」

「それを今考えてる。二人が強いといっても全部二人に任せるのは流石に危険なんじゃないかと思って」


 アルとて二人の実力を疑っている訳ではないが、万が一という事も考えられる。

 未だ悩んでいるアルにナーマが進言する。


「それではアル様、これを見てください」

「ん?」


 そう言ってナーマが魔物の群れに振り返り、魔術を行使した。


黒炎の爆発ダーク・フレイムバースト


 ナーマがそう唱えると、数体の魔物の足元が爆発し、黒い炎が魔物を包み込んで焼き尽くしてしまった。

 それを見たジブリールが剣を構えながら言葉を発する。


「なかなかやりますね。ですが、私も負けていませんよ」


 そう言って剣を上段に構える。


聖光爆発斬セイクリッド・ノヴァスラッシュ!」


 ジブリールの聖魔力が剣に集中して光り輝くとそのまま剣を振り下ろした。すると聖魔力を帯びた斬撃が真っ直ぐ飛び出し、直線状に居た魔物を真っ二つにすると同時に浄化し消え去った。

 その光景を見たナーマがジブリールに言葉を掛ける。


「貴女もなかなかやるじゃなぁい」

「ふふん、そうでしょうそうでしょう!」


 勝ち誇った様にふんぞり返るジブリールを無視してナーマがアルに再度確認を取る。


「これでもまだ心配でしょうか?」

「いや、ここまでとは思わなかったよ」

「ではここの魔物どもは任せてくださいますね?」

「あ、ああ、宜しく頼む。あまりやり過ぎるなよ?」

「善処致します」


 こうしてナーマとジブリールによる魔物の群れの掃滅戦が始まった。

 あっちではナーマが魔術を如何なく発揮して魔物を消滅し、こっちではジブリールがありとあらゆる斬撃を繰り出し魔物を木っ端微塵にしていく。魔物を虫けらの様に倒していく戦いざまはアルでさえ恐怖を感じてしまう程だった。

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