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第44話 魔物の群れ

 ミランダに迫られ魅了チャームを使って難を逃れた翌日の朝、野営のかたずけをしているアルに挨拶をしてきた。


「おはよう。昨晩はいつの間にか眠ってしまっていて申し訳ない」

「気にするな。きっと疲れが溜まってたんだろう」

「だとしても、見張りをアンタ一人にさせちまった。すまない」

「申し訳ないという気持ちがあるならこれからの魔物退治で返してくれればいいよ」

「ああ、それはもちろん!」


 昨晩の出来事やアルへの気持ちは魅了で忘れている事が確認できた。それだけでアルは安堵するが、異性の好意を改変してしまった事に罪悪感を覚えた。出来る事ならこれから先、あんな魅了の使い方はしたくないと思った。


 野営の跡かたずけも終わり、皆が準備出来たということで一か所に集まる。そしてこういう時は冒険者のリーダーであるミランダがこの先の計画を提案する。


「昨日はグレートディアの魔物という初めて見る魔物と遭遇した。これから先同じように普段は魔物化していない魔物が居るかもしれない。だからノイルに先行してもらって異常があれば知らせるというのはどうだろう?」


 ミランダの提案は危険を避ける為には必要なことだった。なので指名されたノイルは二つ返事で了承した。


「アンタ達もそれでいいかい?」

「ああ、それが一番安全だと思うからその案で問題ない」

「それと、今度魔物が出た時はアタシ達も戦うからアンタ達はなるべく先走らないでくれ」

「わかった」


 ひとまずの作戦会議が終わると同時にノイルが斥候として一足早く野営地から離れていった。

 それを見送ってからアル達は魔物と遭遇した時の各自の役割分担を決め、ノイルが先行してから少し遅れて山を登り始めた。


 険しい山を登ること数時間、山頂が見えてきたところで先行していたノイルが大慌てで戻ってきた。

 何事かと話を聞くと、再び魔物が現れたらしい。


「ただの魔物じゃないんだ! 狂暴で有名なジャイアントベアとフレンジィボアが合わせて13体も居たんだ!」


 そう伝えてきたノイルにミランダが信じられないといった感じで再確認する。


「それは本当なのか!? 一体だけでも昨日のグレートディア並みなんだぞ! それが13体もだと!?」

「ほ、本当だ! アイツ等山頂を住処にしてやがった!」

「なんてことだ……」


 現場を見てきたノイルを含めミランダ達冒険者の顔色が悪くなる。確かにグレートディアと同等の魔物が13体も居れば絶望的だろう。本来ならこの事を国に報告して大規模な討伐隊を編成するレベルである。

 どうするのが一番か悩んでいるミランダにアルが提案する。


「俺達で魔物を駆除しよう」


 アルの提案にミランダが声高に反対する。


「そんな事出来る訳ないだろ! 昨日は運良くグレートディアを倒せたかもしれないが今回はそんな簡単な話じゃないんだ!」

「まぁまぁ落ち着いてくれ」

「これが落ち着いていられるか! アンタの提案は死にに行くようなものだ!」


 アルの提案は当然のように却下された。だが、アルはそれでも引かなかった。


「ミランダ達に無理に戦えなんて言わないさ。昨日の様に俺達だけで相手する」

「それが無謀だと言ってるんだ!」

「俺はそうは思わないけどな。ジル、ナーマ、俺は無理難題を言ってると思うか?」


 アルがそう問いかけると二人は微笑を浮かべながら答えた。


「今のアルと私達ならあの程度の魔物は問題ではないでしょう」

「あんな魔物、アル様の敵ではありませんわ」


 ほらな? といった感じでミランダに向き直る。ジブリールとナーマの余裕そうな雰囲気も感じ取っただろう。それでもミランダは首を縦に振らなかった。


「いくら魔物との戦闘経験があろうと、昨日見た戦力では太刀打ちできないだろう」

「そんなに不安なのか。ならこれを見てくれ」

「なに?」


 そう言うとアルは手のひらに水魔術を発動させた。いつもやっている魔力維持だ。


「それがどうした? その程度の魔術では蚊に刺された程度のダメージしか与えられないぞ」

「そう焦るなって。それじゃ今からこの魔術を山頂に向けて放つぞ」


 そう言いながら腕を伸ばし手のひらを山頂付近にある大岩に向け魔術を発動させる。


水 球ウォーターボール!」


 ズドォッ!


 手のひらから放たれた水球が勢いよく発射され、山頂付近の大岩を跡形も無く吹き飛ばした。

 それを見たミランダや冒険者達が驚愕の余り開いた口がふさがらなかった。

 いち早く現状回復したミランダがアルに詰め寄る。


「ななな、なんだいまのは!」

「何って、ただの水 球ウォーターボールだよ」

「ただの水 球ウォーターボールがあんな威力な訳ないだろう! 一体何をやったんだ!」

「本当なんだけどなぁ。でも、これで俺の実力は分かってくれただろ? ちなみにジルとナーマは俺よりもっと凄いぞ」

「そ、そんな……」


 あまりの衝撃的な事実にミランダはその場にへたり込んでしまった。

 アルは少しやりすぎたかな? と反省していると、突然ミランダが笑い出した。まさか恐怖で可笑しくなってしまったのでは? と考えたがそうではなかった。


「はははっ! いける……いけるぞ! まさかアンタ達がここまでの実力を隠し持っていたなんてな。よし! アタシ達も援護する、山頂にのさばってる魔物を駆逐しようじゃないか!」


 アル達の実力を知り、活路を見出みいだしたのか、さっきまでとは一遍してやる気になったようだ。男達もミランダに共鳴して士気が高くなっている。

 それぞれが己を鼓舞する中、クレアが恐る恐ると手を上げ発言する。


「あの、ワタシはまだアルさん程の魔術は使えないのですが……」

「ああ、クレアは後方で待機しててくれ。もし怪我人が出たら回復魔術で回復して貰いたい。流石に今回は全員が無傷とはいかないだろうからな」

「はい、分かりました! ですが皆さんなるべくなら怪我をしないでくださいね。安全第一ですから」


 クレアも自分の役割が明確になり俄然やる気になった。

 冒険者達もクレアの回復魔術があるという安心感も得られ、今は不安よりも闘志の方が高ぶっている。

 そこからは軽いフォーメーションの確認をして山頂でのさばっている魔物の群れ目掛けて走り出した。

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