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第43話 ミランダの誘引

 グレートディアを難なく倒したアル達が後方で待機していたミランダ達の元へ戻ると驚きと称賛で迎えられた。特にミランダがグイグイとアルに絡んできた。


「アンタ凄いじゃないか! 胸が熱くなったよ!」

「いえいえ、ただ長年旅をしてきたので戦い慣れてるだけですよ」

「そうなのかい? それでもアタシからすれば尊敬にあたいするよ!」

「ありがとうございます」


 ミランダがアルに絡んでいる頃、他の冒険者や狩人はクレアに集まっていた。


「回復魔術だけじゃなく攻撃魔術まで使えるなんて凄いな!」

「俺、クレアさんに本気になりそうだ」

「おい! 抜け駆けは許さないぞ!」


 男性陣の怒涛の賛辞に戸惑うクレアだったが、今までこんなにも感謝された事がなかったので嬉しさがまさり、「てへへ」とまんざらでもなさそうだった。

 そんなクレアとアルをジブリールが鬼の形相で見つめていた。アルとクレアの活躍はジブリールも認めるが、トドメを刺したのは自分なのに誰も褒めてくれないことにいきどおりを感じていた。それに加えてミランダがアルにべったりなのがジブリールからすればモヤモヤする物を感じていた。

 そんなジブリールにナーマが冷静に声を掛ける。


「たまにはアル様が称賛されるのはいいじゃなぁい」

「それはそうですが……」

「それとも、あのミランダとかいう女が気に食わないのかしら?」

「わ、私は別になんとも思ってません!」

「そうかしら? さっきからあの女を見る目が怖いわよ?」

「気のせいじゃないですか? 私は魔物の素材を取ってきますから貴女もアル達を連れてきてください」

「はいはい」


 ナーマに図星を突かれたジブリールは拗ねたように言うとさっさとグレートディアの解体に向かってしまった。


「まったく、素直じゃありませんこと」


 ナーマはそう独り言ちてアル達の元へ合流した。

 ナーマから魔物の素材の事を聞いた冒険者達が我に返り、臨時収入を得る為に足早にジブリールと合流する。

 そんな中、ミランダだけはアルから離れなかった。

 これは本格的にミランダがアルに惚れたと感じたナーマが話しかける。


「貴女も解体しに行かなくていいのかしら?」

「解体は男達に任せておけば大丈夫よ。それよりアンタこそ混ざらなくていいのかい?」

「おあいにく様、お金には困っていませんの」

「そうかい。アタシはアルに話があるから何処か行っててくんないかい?」

「はいはい、お邪魔虫は魔物の解体でも見物してきますわ」


 そう言うとナーマは本当に魔物の解体をしている場所へ歩いて行ってしまった。

 大人しくミランダの言う事を聞いた事に違和感を感じたが、今はミランダを優先した方が良いと考え、敢えて何も言わなかった。

 辺りにアルとミランダしか居ない状況になり、アルがミランダに問いかける。


「さっき言ってた俺に話ってなんだ?」

「その事なんだけどさ、夜に詳しく話したいんだ。誰にも聞かれたくないから二人きりで会えないかい?」

「夜に? 今日は確か頂上付近で野営だったよな。わかった、俺が見張りの時に一緒にどうだ?」

「うん、それでいいよ」


 それからアルとミランダも遅れて解体に参加し、グレートディアの角を分けてもらった。この角は硬度が強いうえに魔力を通しやすいので、今のところ何の武器も持っていないクレアの杖の素材にすることにした。


 解体が終わり、アル達一行は再び山中を警戒しながら登る。

 幸か不幸か、野営地に着くまでに魔物とは遭遇しなかった。このまま山頂まで行き、魔物が居なければ居ないで良いし、居た場合は討伐しなければならない。なので、今日の野営ではキチンと体力を回復しておかないと明日が厳しくなる。その事が分かっているジブリールがテキパキと野営の準備をし、クレアや冒険者がそれを手伝った。

 夕食になり、皆で輪を描くように座り、食事を摂りながら夜の見張りの順番について話し合った。


「では、私とクレアが最初に見張りをします。その後にノイル、カインズ、フレットの三人、その次がアルとミランダで、ナーマはいつも通りお願いします」


 ジブリールが見張りの順番を確認し、皆がそれに了承する。

 夕食も終わり、明日も山登りの為早めに就寝する事になった。最初の見張り番であるジブリールとクレアに挨拶をし、他の物はそれぞれの寝床に入った。


 就寝してから数時間が経ち、アルの見張り番になった。

 男性冒険者達と入れ替わりで見張りに着くと、ミランダも少し遅れてやってきた。


「遅れてすまない」

「構わないよ」


 そう一言だけ言葉を交わし、周囲を警戒しながら焚火に薪をくべる。

 沈黙が続き、アルが耐えきれずにミランダに話しかけた。


「昼間の話ってなんなんだ?」


 そう問いかけると、ミランダは立ち上がりアルの横に座りなおした。


「冒険者ってのはさ、結構命がけなんだ」

「そうなのか、大変だな」

「だからかな、強い男にかれるのは」

「そ、そうなのか?」

「本能なんだと思う。アタシはアルの子供が欲しい!」

「えっ!?」


 ミランダがアルに抱き着く。そして潤んだ瞳で見上げてくる。そしてだんだんと顔が近づいてきて、吐息が顔に掛かる。

 アルはこれはマズイと思い顔を背けるが、それがいけなかった。

 顔を背けられたミランダがアルを力任せに押し倒し、そのまま衣服を脱ぎだした。

 たまらずアルは声を挙げる。


「何してんだ! やり過ぎだって!」

「いいじゃないか。満足させてやるからさ」


 そう言いながらどんどん服を脱いでいく。そしてとうとうミランダは上半身が裸になってしまった。

 このままでは後戻りできないと判断したアルは、魅了チャームを使った。

 アルの魅了に掛かったミランダがピタリと動きを止め、アルの目をジッと見つめている。

 魅了に掛かったことを確認したアルはミランダに催眠を掛ける。


「俺への気持ちは無かった。いいな?」

「……はい」

「服を着てそのまま寝床へ戻って寝ろ。そしてこのことは忘れろ」

「……はい」


 虚ろな目をしたミランダがアルの言う通りに服を着て自分の寝床へ戻って行った。それを見届けたアルが「はぁ……」とため息を吐くと、闇夜からナーマが現れてアルの隣に立った。


「大変でしたわね」

「見てたんなら助けろよ」

「アル様には良い機会だと思いまして」

「なんだそりゃ」

「アル様もそろそろ女を知っても良い頃だと思いまして」

「だからってなぁ、誰でもいい訳にはいかないだろ」

「なら、わたくしならどうです?」

「……ノーコメント」

「ふふ、今はそれで我慢しましょう。でも、私はいつでも大歓迎ですわ」

「そうかよ」


 そこから二人共言葉を発しなかった。ただただ焚火の音がその空間に響いていた。

 アルもナーマが言いたい事は理解していた。クレアの事もあるが、ニブルヘイム王へ言った皆が平等な世界を作るなら、クレアだけ特別扱いは出来ない。そうすれば人間だけが平等の世界になってしまう。真に平等の世界を作るとなると、天使であるジブリールと悪魔であるナーマとも関係を持たなければ平等とは言えない。

 しかし、今のアルはまだそこまで深く繋がる覚悟が出来ていなかった。

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