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第41話 回復魔術

 魔物の出現で怪我人が出ていることを知り、村の女性から魔物退治を頼まれ、一緒に対峙する事になったが、突然クレアが怪我人を治せると言い出した。今までクレアがそういった能力がるとは聞いていなかったアルは半信半疑ながらも村の女性の後に続き、怪我人が居る場所までやってきた。


「この家の中に怪我人を収容している。人数は三人だ。入ってくれ」


 女性の指示に従い家の中に入ると、並べられたベッドに男性三人が寝ていた。足を包帯でぐるぐる巻きにしている者や腕を包帯で固定している者と頭をぐるぐる巻きにされている者が居た。どの人も魔物に襲われたらしい。

 男性達が怪我で苦しんでいる姿を見て、アルがクレアにだけ聞こえる様に小声で話しかける。


「本当に怪我が治せるのか?」

「多分ですけど大丈夫だと思います」

「そうか、無理はするなよ」

「ありがとうございます」


 そう言うとクレアは入り口から一番近くのベッドに横たわる頭に包帯を巻いた男性に近づき声を掛ける。


「すぐに楽にしますね」

「し、シスターさん?」


 クレアは男性の怪我の部分に軽く手を置くと魔力を練りだした。その魔力にアルは驚いた。以前ジブリールが守護精霊を助けた時にだした魔力と似ていたからだ。

 クレアの魔力がどんどん膨れ上がり、クレアの周囲が光に包まれる。


癒しの光ヒール・ライト


 クレアがそう唱えると、クレアを包んでいた光が男性を包み込んだ。そして光が消えるとクレアが「ふぅ……」と息を吐いた。


「もう大丈夫だと思いますよ」

「え? あっ! 本当だ、痛くない!」


 男性は包帯を取ると傷があったであろう場所を手で撫でる。しかしその場所には傷跡さえ残っていなかった。


「す、すげぇ! シスターさん! 有難うございます!」

「いえいえ、当然のことをしたまでですよ。では次の人の治療に移りますね」


 その後も最初の男性と同じように回復させていった。男性達は喜びシスターの姿をしたクレアに祈りをささげるほどだった。

 だが、それはアルも同じだった。こんな事が出来るなんて知らなかったし、傷を治す魔術なんてそれこそ神聖ダルク法王国くらいにしか存在しないのではなかろうか。

 驚きで呆然としていると、施術が終わったクレアがトコトコと戻ってきた。


「はじめてでしたが上手くいって良かったです」

「ちょ、初めてって……」

「これには理由があるのですが、それは後で詳しく話しますね」

「なんで──」


 アルが「なんでだよ」と言おうとしたら、物凄い勢いで女性が突進してきてクレアの手を握り締めた。


「凄いじゃないか! やはりアンタは神の奇跡の使い手だったのだな!」

「いえいえ、そんな大層な物じゃありませんよ」

「何を謙遜することがある! アンタのお陰で助かった人間が居るんだ! もっと胸を張っても罰は当たらないさ」

「ふふふ、そうかもしれませんね」

「まったく、驚かされたよ。これなら明日の魔物退治も安心できる。改めて明日はよろしく頼む」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 アル達はまだ興奮気味の女性に案内され、今は使われていない家で一晩過ごすことになった。

 野営の時の様にそれぞれの役割を決めて夕食の準備をする。幸いふもとの村で新鮮な野菜等を仕入れたばかりだったので少し豪勢な夕食となった。

 夕食を食べ終わり、一息ついた後、アルがずっと気になっていたいた事をクレアに質問した。


「今日みせて貰った怪我人を治したアレは何だったんだ?」

「あれは回復魔術です」

「昔から使えたのか?」

「いえ、回復魔術はついこの間覚えました」

「どういうことだ?」

「アルさんと吸魔をした後、ウリエル様の魔力がワタシの中で溶け込んでいく時に頭の中に魔術式が流れ込んできたのです」

「なるほど、そんな事もあるんだなぁ」


 アルが感心していると、ジブリールが口を挟む。


「何を他人事みたいに言ってるんですか。アルだってルシフェルの魔力で聖なる障壁ホーリーバリアを発動させたじゃないですか」

「でもあれは無意識だったからなぁ。今じゃどうやって魔力を練ればいいかさえ分からないし」

「確かにそうですね。その点クレアはウリエルの魔力が均等に混ざり合っているので大げさに言ってしまえばウリエルが使える魔術はクレアも使える様になるということですね」


 アルはそれはもう天使と変わらないじゃないか! というツッコミを飲み込んだ。それを言ってしまえば大魔王の魔力デザイアを有しているアルが大魔王と同じじゃないかとなってしまうからだ。


「なにはともあれ、俺達の誰かが怪我してもクレアが居れば安心だな」


 アルの何気ない一言にナーマがぽつりとぼやく。


わたくしには毒でしかありませんわ」

「あ、そうか。ナーマは悪魔だから聖魔力はダメなんだったな」

「安心してくださいまし、私が大怪我するなんてヘマはしませんわ」

「頼もしい限りだな。よし、疑問も解消できたし今日はもう寝るか」


 と寝る準備に入ろうとすると、女性組三人に止められた。


「今日は回復魔術で魔力を消費したので、その、吸魔させてください」

「馬車の間吸魔できなかったので今日はお願いします」

「うふ、このまま寝かせるわけないじゃなぁい」


 その日の晩は三人に吸魔され、アルは旅の疲れとは別の疲れで眠りに就いた。


 翌朝、いつもの様にジブリールに起こされ、朝食を取った後魔物退治の準備をして空き家を出る。

 昨日約束した大木まで行くと、昨日の女性の他に、クレアが治療した男性達も待っていた。


「おはようございます」

「ああ、おはよう。昨日は世話になった」

「いえいえ。本番はこれからでしょう?」

「そうだったな。っと、自己紹介がまだだったな。アタシはミランダ。この村に駐留している冒険者だ」

「俺はアルフレッド。旅の商人をしている。それからこっちがジブリエットにナーマ。最後にシスターのクレアだ」

「クレア殿、昨日は世話になった。今日も怪我人が出たらよろしく頼む」


 ミランダとアル達の自己紹介が終わると、今度は男性達が自己紹介をした。おもにクレアに向かって。


「俺もミランダと同じ冒険者のノイルだ。ミランダとは同じパーティを組んでいる。歳は二十三だ。よろしく!」

「おれもミランダと同じパーティーメンバーのカインズで歳は二十五です。よろしくお願いします!」

「俺はこの村の猟狩りょうしゅでフレットです! 歳は十九です! クレアさんは俺が守ります!」


 男達の必死さにクレアが若干引いていたが、それはミランダも同じだったようで、男達の頭をひっぱたいていた。

 お互いの自己紹介も終わり、山のどのあたりに魔物が出現したかなどの情報共有を終え、アル達は魔物退治に向かう為村を後にした。

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