クレアがウリエルの宿り木という事が判明し、ウリエルの魔力を安定させるためにクレアと初吸魔をした。その時にジブリールから聞いた『吸魔には性的快感が伴う』という言葉が頭から離れず、一晩経った今、アルはクレアも顔をまともに見る事が出来なかった。
「アルさん、どうしてそんなよそよそしいのですか?」
「そ、そんなことはないぞ! さぁ、出発の準備をしよう!」
「……はい」
クレアは何事も無かったかのように接してくるが、昨夜のクレアの姿をみてしまったアルにとって、どう接すればいいか悩んでいた。
アルとクレアのやり取りを見ていたジブリールがアルの異変に気付き、何かあったのでは? とアルに話しかける。
「アル、クレアと何かあったのですか?」
「ジ、ジル!」
「どうしたのですかアル! そんなに後ずされたら悲しいですよ」
「ご、ごめん……」
「一体どうしたのですか? 私にも話せないですか?」
「うぅ、そういう訳じゃないんだけど……」
「なら、何を悩んでいるのか話してください!」
「じ、実は──」
アルは吸魔で性的快感を得るという事を昨夜初めて知り、クレアをはじめ今までジブリールやナーマにも吸魔で同じ快感を与えていた事が恥ずかしいという心の内を明かした。
それを聞いたジブリールが顔を赤くしながら弁明をする。
「確かに吸魔で快感を得ますが、それは副次的な物なので、その、そういった性的に考える必要はありませんよ」
「でも、これから吸魔をする度に今ジルは気持ちよくなってるんだなとか考えちゃうじゃないか!」
なんとも思春期男子らしい反応をするアルだが、それは無理のない事だ。逆に意識するなという方が無理である。
どうしたものかとジブリールが頭を悩ませていると、ナーマが横から会話に入ってきた。
「アル様は主なのですから堂々としていればいいんですわよ。むしろ俺の吸魔で気持ちよくなれ! とでも考えてくださいな」
「そんなこと言われても……」
「男なら堂々としなさいな。アル様がそうやってうじうじしている方がクレアやジブリールに失礼というものですわ」
「うっ、そうなのか……?」
アルからの切なそうな声音での質問にジブリールが答える。
「そうですね、アルにそんな態度を取られてしまったら吸魔するのが申し訳なく思ってしまいます。アルは今まで通りでいてください。きっとクレアもそう思っていますよ」
「そうか……よし、わかった。なるべく意識しない様にするよ」
「はい。では準備も出来たので昨日の村人に挨拶をして出発しましょう」
なんとかアルの精神が落ち着いたので旅支度を済ませ、空き家から出る。そして空き家を貸してくれた村人の所まで行くと、なにやら人だかりができていた。
「おはようございます。何かあったんですか?」
「ああ、おはよう。実は魔物退治を依頼した冒険者が居なくなってしまってな。山の中腹までの馬車の護衛をどうするか話し合ってたんだ」
「その冒険者って昨日揉めてた奴等ですか?」
「ああ。まったく困ったもんだよ」
その冒険者達は昨日アルがコテンパンにノシてしまい、二度とアル達に関わらないという約束で村から逃げ出していた。
経緯はどうあれ、アルの所為でお世話になった村の人が困っているので、馬車の護衛を引き受けようとジブリール達に提案し、クレアとジブリールは
「あの、馬車の護衛は俺達がしちゃダメですか? 空き家を貸してくれたお礼をしたいので」
「そりゃ有難いが、アンタら戦闘は出来るのか? 魔物が出るかもしれないんだ」
「それなら大丈夫です。俺達はニブルヘイムからやってきました。魔術も使えます」
「魔術を扱えるのか! だったらもんだいないな。ぜひ頼む」
「はい、任せてください」
中腹にある村までの馬車には色々な食糧が積まれていた。中腹の村はとても農作物が育つ環境ではないらしい。では何故そんな所に村があるのかというと、ニブルヘイムと神聖ダルク法王国からの商人が休むためと、シカやイノシシといった狩猟をする際の滞在場所になっているらしい。
当然狩猟だけでは食料が足りないので、
「俺達は準備できました」
「丁度こっちも準備が整ったところだ。それじゃあ中腹の村まで護衛頼む」
馬車には
途中で野営を挟み、中腹の村までは二日で着いた。幸いなことに獣や魔物に出くわす事がなく、安全に村までたどり着いた。
だが、アルからすれば何もしないで馬車に乗せてもらった形になってしまったので申し訳ない気持ちになった。
馬車から降りて村の中を見まわすと、獣の皮が干してあったり炉で使う
アルが村の中を見ていると、麓の村の商人とこの村の人であろう村人が早速商談をしているようだった。
商談の邪魔にならない様に村の中心にある大木の近くで待機することにした。
商談風景を見ながら待機していると、皮で出来た胸当てをした女性が寄ってきて話しかけてきた。
「アンタ達あの商人の護衛かい?」
「はい。ただ、俺達はダルク法王国を目指していて相乗りさせてもらう代わりにこの村まで護衛としてやってきました」
アルがそう答えると、女性はニヤリと笑った。
「ということは、アンタ達は戦闘が出来るってことだよな?」
「まぁ、そこそこ出来る方だと思いますよ」
「だったら頼みがあるんだ」
「俺達に出来る事なら」
「最近魔物が出るようになったんだ。その所為で狩人も何人か負傷してる。退治を手伝ってくれないか?」
この村までアル達の出番が無く申し訳なく思っていたので、これで恩返しできるならとアルは二つ返事でオーケーした。
「魔物退治なら嫌とは言えないな。ぜひ協力させてくれ」
「そうか! 助かる! じゃあ明日の朝にここに集合でいいか?」
「ああ、問題ない──ん?」
アルが了承しようとした時、クレアがアルの袖をクイクイッと引っ張った。
「どうしたんだクレア?」
「さっき狩人さんが負傷したと聞きました」
「ああ、だから魔物退治に行くんだ」
「その負傷した人達を治療できるかもしれません」
「え?」
クレアの発言には驚いたが、一番驚いていたのは村の女性だった。
「本当に治せるのか! シスターの格好をしているが、まさか神の奇跡の持ち主なのか?」
「神の奇跡かどうかは分かりませんが、深い傷でなければ治せると思います」
「それはありがたい! 早速頼む、こっちだ」
女性は目を輝かせながらクレアに頭を下げた後、負傷者が居るであろう場所を目指して歩いていく。アル達も女性の後を着いていくが、クレアが傷を治せるなんて初耳だったので、半信半疑ながらも黙って着いていった。