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第39話 クレアの覚醒

 クレアに宿るウリエルの魔力を安定させるためにアルの中のルシフェルの魔力をクレアが吸魔する必要がある。しかし、アルの中の聖魔力が先の大魔王の魔力デザイアの魔力暴走で小さくなてしまった。その解決案としてジブリールが提案したのが、ジブリールの聖魔力をアルに注ぎ、一時的にルシフェルの魔力を活性化させるというものだった。ただ、この方法はジブリールが本来ならやりたくなかったと言っていたので、アルはどんな方法なのか気になって聞いてみた。


「俺に聖魔力を注ぐって、どういう方法なんだ?」

「基本的には吸魔と同じですが、そ、その……」

「なんだよ、気になるだろ。どうするんだ?」

「わ、私の体液を……あ、アルが飲むんです」


 そう言うとジブリールの顔が真っ赤に染まった。

 体液を飲むという言葉と真っ赤に染まったジブリールの顔を見て、アルはこれから何をすのかを察した。基本的には吸魔と同じとジブリールは言った。という事は、アルがジブリールの唾液を飲むということになるのだ。


「こ、今回は緊急事態だし、し、しょうがないだろ!」

「そ、そそ、そうですよね!」


 お互い顔を真っ赤にしながらそれらしい言い訳を口にする。そんな二人を見たクレアが堂々とした態度で割って入る。


「たかがキスでしょう? 何をそんなに照れる必要があるんですか」


 クレアの堂々とした言葉にアルが反論する。


「いや、恋人でもないし……いや、ジルとクレアが嫌いとかじゃないんだけど……」


 アルの歯切れの悪い反論に、クレアがまたしても堂々とした言葉を吐く。


「なら問題ありませんね。ワタシとアルさんは婚約者ですから。ジブリール様は……仕方ありませんね。ワタシは器がデカイので側室が居ても問題ありません」

「婚約者といってもまだ仮だろ! それに……ジ、ジルが側室だなんて……」


 クレアの側室発言でアルとジブリールの顔が更に赤くなる。そんな二人を余所にナーマが割って入る。


わたくしは側室でも構わないわぁ。アル様の傍に居られればそれでいいもの」

「ナーマ! 今はちょっと黙っててくれ!」

「分かりましたわ。ですがアル様、この問題はいずれ解決しなければならない問題だという事をお忘れなきように」

「……分かってる」


 ナーマに釘を刺され、少し冷静さを取り戻したアル。ジブリールもナーマの発言で我に返った様だ。その様子を見て、クレアが三度みたび言葉を発する。


「アルさん、気持ちの整理はできましたか? ワタシが吸魔出来なければ問題解決になりませんよ」

「そうだよな。今はキスがどうの言ってる場合じゃなかった。ごめん」

「分かってくださればそれでいいんです。ジブリール様も大丈夫ですよね?」


 クレアからそう確認をされたジブリールもアル同様覚悟が決まったようだ。

 両頬をパチンと叩き、気合を入れなおすと、クレアの吸魔の為の手順を説明する。


「まず私がアルに聖魔力を注ぎます。そうすればアルの中の聖魔力が直ぐに活性化すると思うので、その隙にクレアは吸魔を行ってください。そうすればクレアの中の聖魔力も安定すると思います」

「よし、分かった」

「分かりました」


 それぞれが手順を確認し、位置に着く。

 アルとジブリールが向かい合い、ゆっくりとお互いの顔を近づけていき、キスをする。


「ん……んむ……」

「……んぅ……ぷはぁ……」


 ジブリールからの魔力の注入が終わると、アルの身体が小さく震え、その後身体中が聖魔力で溢れた。


「クレア! 今です!」

「はい! ん……んんっ!」


 クレアの両手がアルの顔を挟み、口元だけが激しく動く。

 すると、アルから溢れていた聖魔力が段々と弱まってきた。恐らくクレアの吸魔が上手くいっているのだろう。

しばらくしてクレアがアルの顔を手放し、吸魔を終えた。


「ぷはっ、……はぁはぁ……んくっ!」

「はぁはぁ……クレア!」


 吸魔が終わった瞬間、クレアの身体がビクンビクンと痙攣しだした。それと同時にクレアから聖魔力が溢れだした。


「お、おいジブリール! 本当に大丈夫なんだよな?」

「そのはずです! 今はクレアを信じましょう」


 身体の痙攣と呼応して魔力がどんどん溢れてくる。

 だんだんと痙攣が治まってくると、今度は溢れた魔力がクレアに収束していく。そして痙攣が治まると同時に収束した魔力がクレアの中に吸い込まれていった。

 苦しそうな表情を浮かべていたクレアだったが、だんだん落ち着きを取り戻し、いつものクレアの表情に戻った。

 アルが恐る恐るクレアの容体を確認する。


「クレア、大丈夫か?」

「……はい」

「まだ苦しかったら横になっててもいいぞ」

「いえ、苦しくはありませんでした」

「苦しくなかったのか? 苦しそうな表情をしてたけど」

「苦しくはなかったです。それよりも物凄い快感でした」


 そう言ってクレアが顔を真っ赤にする。

 何が何だか理解できないアルにジブリールが補足する。


「あの、吸魔には性的快感がともなうのです」

「初耳だよ!」

「こんな事恥ずかしくて言えないじゃないですか!」


 ジブリールの逆ギレを受け、アルが黙る。それを確認したジブリールがクレアに問いかける。


「どうですか? 聖魔力は安定していますか?」

「はい、大丈夫だと思います。それに、吸魔をする以前より潜在魔力が飛躍的に大きくなりました」

「良かった、成功ですね」


 無事にクレアの吸魔が終わり、アルはようやく一息ついた。そのタイミングを見計らってナーマが言葉を発する。


「ようやく終わりましたのね。どれどれ……確かにこれだけの魔力があれば今回の様に変な輩に絡まれても問題なさそうですわね」


 そうだった。事の発端はクレアが荒くれ冒険者に絡まれた事が始まりだった。だが、ナーマの言う通り、クレアから感じる魔力はジブリールやナーマと比較しても引けを取らない。これならばそうやすやすと危険にさらされることは無いだろう。


「ワタシもそう思います。ですが、この膨大な魔力を自在に操る事が出来るようになるのが目下の目標ですね」

「でしたら私が聖魔力の魔力操作を教えますので頑張りましょう」

「はい、よろしくお願いします」


 これでクレアが自分は足手まといだと自分を責める事も無くなるだろう。

 気づけば夜も深まり、深夜になっていた。明日から山道を登らなくてはならないので早く休眠を取ろうとしたところでナーマが待ったをかけた。


「今日はわたくしだけ吸魔出来ていないので、アル様、お願いします」


 と言ってアルの寝床にナーマが忍び込んできた。

 こういう時はいつもジブリールが助けてくれるのだが、今日はアルに魔力を注いで疲れたのか既に熟睡してしまっている。同じくクレアも満足そうに眠っている。誰にも助けを求められないアルは、なかば無理矢理ナーマに吸魔され、そのまま気絶する様に眠りに就いた。

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