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第38話 ウリエルの魔力

 大天使ウリエルがクレアの身体を使ってアルに告げたのは『今世の私を頼む』というものだった。今世の私というのがクレアだというのはウリエルが言っていたので間違いではないだろう。では何故、ウリエルがクレアに宿っているのかという疑問になる、その疑問に答えてくれそうな人物、ジブリールに注目が集まる。


「ジブリールはウリエルについて何か知ってるのか?」

「はい、ウリエルもミカエル同様友人でした。そこに大天使ラファエルを加えた四人を四大天使とわれていました」

「四大天使か。どうしてクレアにウリエルが現れたんだ?」

「ウリエルは人々を正しい道に導く存在として知られていました。それと同時に神の意志や知識を人々に伝える役割もになっていました」

「おいおい、遂に神まで出て来たよ」

「神といっても私達四大天使でさえその姿を見た事はありません。ただ、神からの啓示を受け、それを人々に伝え広めるだけでした」

「そうなのか。とりあえず今は神様は置いといて、ウリエルだな」

「ウリエルは強い魔力と清い心を持った人間を宿り木にして神からの啓示を伝えたり道をしるしたりしていたので、クレアが宿り木に選ばれたのでしょう」


 新しく出て来た宿り木というシステム。それは降魔の儀式で人に悪魔を宿すものとは違うのだろうか。大魔王サタンを宿そうとして失敗したグレイス王国はサタンによって滅ぼされた。その後もアルの中に大魔王の魔力デザイアを残して今もなおアルを苦しめている。クレアにはそういったものはあるのだろうかと疑問が尽きない。

 アルが不安そうにしていると、ジブリールがポンと肩に手を置き安心させるように語る。


「大丈夫ですよ。宿り木といってもあくまでクレアを代弁者として選んだというだけです。ただ、宿り木に選ばれた時点でウリエルの魔力も与えられるので、クレアには今、膨大な魔力が眠っているはずです」

「その魔力でクレアが苦しむ事は無いんだな?」

「完全に無いとは言い切れません、クレアが膨大な魔力を自在に操れれば問題ない筈です」


 ジブリールがクレア次第だと言うと、当事者であるクレアが恐る恐るといった感じで挙手をして話し出した。


「そのことなんですけど、ワタシが幼い頃に病で命の危機だった事ははなしましたよね? その時にミカエル様に助けて頂いたことも」

「ああ、聞かせて貰ったな」

「あの時、ミカエル様がおっしゃっていた意味がようやく分かりました」

「どういう事だ?」

「あの時の病はウリエル様の宿り木になり、膨大な魔力が暴走して生命力が弱く成っていたんだと思います。そして枕元に現れたミカエル様がその魔力を収めたんだと思います。よく思い返してみると、ミカエル様は『ウリエルめ、まだ幼い子だというのに……』と言っていたような気がします」


 クレアからの新証言にジブリールが反応する。


「本当ですか!?」

「多分ですけど……、あの時は熱で意識が朦朧もうろうとしていましたから……」

「それではクレアの潜在魔力を探らせてくれませんか?」

「それは構いませんが、いったいどうやって?」

「少し我慢してくださいね」


 と言ってジブリールはクレアを抱き寄せ、おでことおでこをくっつけた。お互いの吐息が顔に掛かり、くすぐったさを感じる。

 クレアは突然のことに動揺し、眼前にジブリールの整った顔があることで新しい扉が開きかけそうになりあたふたしている。だが、ジブリールはそんなクレアを無視してクレアの中の魔力を探るのに集中している。


 クレアとジブリールの行為を見たアルが顔を赤くする。二人共絶世の美女といっても過言ではない。そんな二人がまるでキスをしている様に顔を近づけているのだから、アルからすれば見てはいけない禁断の花園を見てしまった気持ちになってしまっていた。そんなアルをニヤニヤしながら見つめるナーマも意地が悪いと言えるだろう。


 しばらくして、ようやくジブリールがクレアから離れた。どうやら魔力を無事探れたらしい。


「やはりクレアの中にはウリエルの魔力がありました」

「それで? クレアに何か問題とかは無いのか?」

「そのことなのですが、ウリエルの魔力とクレア自身の魔力が完全に混ざり合っていました。なのでウリエルの魔力だけをどうこうするという事は難しいです」

「じゃあどうすればいいんだ? クレアも俺みたいに魔力暴走に怯えて暮らすのか?」

「いえ、魔力暴走は起きません。過去にミカエルが魔力暴走を収めた時に封印を施したのでしょう。今は封印の隙間から漏れ出ている程度の魔力です」

「そうか、ミカエルさまさまだな」


 もしかしたらクレアも自分と同じように魔力暴走に怯えながら暮らさなければならないのかと考えてしまったが、その心配はなさそうで一安心した。しかし、ジブリールの言葉はそこで止まらなかった。


「ですが、その封印が弱まっています。きっと身体の成長と共に封印が解ける様になっているんだと思います」

「それじゃあ全然安心できないじゃないか!」


 憤慨するアルだが、ジブリールは至って冷静だ。まるでアルがこういう反応をすると知っていたかのように。


「ひとつだけウリエルの魔力を安定させる方法があります」

「なんだ、そんな方法があるのか。どんな方法なんだ?」

「吸魔です」

「吸魔!?」

「クレアがアルの中のルシフェルの聖魔力を吸魔する事でルシフェルの魔力とウリエルの魔力が混ざり合い、安定した力を発揮できると思います」

「そんなこと言ってもクレアは吸魔のやり方なんて知らないだろ」

「それは多分大丈夫です。先程のウリエルの言葉を思い出してください」


 そう言われ、ウリエルがクレアの意識を乗っ取った時のことを思い出す。しばらくしてウリエルが言っていた事を思い出した。

 『この身体を守る為、身体の持ち主に吸魔の力を授ける』

 確かに吸魔の力を授けると言っていた。


「クレア、吸魔のやり方は分かるか?」

「えっと……はい、なんとなくですが頭の中に浮かんできます」


 ジブリールの言った通り、吸魔は出来るらしい。クレアが吸魔さえすれば魔力暴走もクレアのレベルアップも両方解決できる。

 だが、問題はアルの中にあるというルシフェルの魔力が弱まっているということだ。先程の魔力暴走で聖魔力が小さくなってしまっているらしいので、上手く吸魔出来るかが難しい。

 そうアルがジブリールに伝えると、ジブリールがまたも解決案を出した。


「これは荒療治なのでできればやりたくなかったのですが、この際仕方ないですね」

「な、なんだよ、怖い事言うなよ」

「私の聖魔力をアルに注いでアルの中の聖魔力を一時的に活性化させます。その隙にクレアが吸魔すれば解決できるはずです」

「聖魔力を注ぐなんてそんな事ができるのか!」

「これはアルだからできる方法です。聖魔力を持たない人間に聖魔力を注いでしまえば毒になってしまいますから」

「……なるほど、ジブリールにとっての大魔王の魔力デザイアみたいなものか」

「その考えが一番近いです。どうしますか? 早速試してみますか?」

「そうだな、クレアはどうだ? 出来そうか?」


 アルとジブリールから質問され、慌ててクレアが答える。


「だ、大丈夫です! 頑張ります!」


 クレアが胸の前で拳を握り、やる気を奮い立たせている。

 アルも初めての試みで緊張していたが、クレアが必死になっている姿を見て負けてられないと奮起する。

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